表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山吹色の炎と蠱惑の香り  作者: 都会の犬
10/20

同族

 「っっっっっ!」

制止する間もなくザリガニに近づいた猪田が声にならない悲鳴を上げる。麻痺毒を代謝して動けるところまで復活したザリガニのはさみで右腕の肘から先が引きちぎられていた。右腕だけで済んだのはザリガニが完全に毒を代謝したわけではなくまだ痺れが残っていたためだろう。

猪田は右腕をかばいながらザリガニから距離を取ろうとする。僕はそれを援護するために刀で切りかかる。


GIIIIIII!


僕の腕前では刀はザリガニの甲殻をすべるだけで大したダメージは負わせられない。だがヘイトを取ることには成功したようだ。僕はまだ動きの鈍いザリガニの胴体に刀を滑らせたまま、胴としっぽのつなぎ目に刀を突き立てる。当然、この刀にもムカデの毒を塗り付けてある。僕は突き立てた刀から手を放しザリガニから距離を取る。

追加の麻痺毒で動きを再び鈍らせたザリガニは僕と猪田が距離を絶ったのを見て刀の探索者、鹿間だか蝶野だかの死体を食べ始める。しまった!僕は慌ててもう一つの死体を回収に走る。猪田も気が付いたらしく同時に動く。幸い猪田の腕からの出血は止まっているようだがもう戦闘行動は無理だろう。他人を癒せる特性持ちが居なければ探索者を続けられるかも怪しい。だが、それもこれもここを生き延びてからの話だ。少なくとも僕の見積もりの甘さと保身で二人死んでいる。

「猪田さん。死体をもって逃げてもらえますか?」

「あんた何言ってんだ!?風間さんから聞いてるぞ!神臓に不具合があって迷宮外じゃまともに戦えないんだろ?」

「奥の手を使えばもう一手番くらいは何とかなります。それに僕の神臓なら喰われても大きな問題はありませんので。」

猪田は僕の返答を聞くと何も言わずに死体を担いで戦線を離脱する。一方のザリガニは探索者の神臓を喰らって元気はつらつと言った感じだ。切断された脚も生え変わっている。

「ちっ、これだから甲殻類は嫌いだ。カジュアルに欠損部位を再生させやがる。」

僕は毒づきながら先ほどザリガニが見せた高圧水鉄砲を思い出していた。明らかにザリガニの能力が拡張されたものではない。となると…

「水の無核生物が憑いてるのか…」

多分、このあたりの水中の頂点捕食者は亀のはずだ。それらを押しのけてあそこまで変異できた理由はおそらくそれ以外にない。幸い無核生物の知性は宿主に依存する。ザリガニ程度の知性ならばそこまで複雑な攻撃はないと思うが油断はできない。単純だろうが何だろうが、さっき見せられた水鉄砲は明らかに脅威なのだ。僕は意を決してウエストポーチから剥ぎ取り集めた神臓を一つ取り出す。

「さぁ、兄弟。我慢比べといこう。」

僕はザリガニにそう語りかけると、人生において何度目かはわからないが神臓喰いを行う。僕の神臓が満たされる間もなく右腕からリートが顕現すると同時に熱線を放つ。

JYUAAAAAAA


リートの放った熱線をザリガニは水球を生み出して受け止める。しかし、リートの方が力の使い方がうまい。漫然と生み出された水球と熱エネルギーを凝集した熱線とではエネルギーの密度が違う。熱線は威力を減衰させられながらもザリガニの右のはさみを切断した。


GICHIGICHIGIXCHI!


口からギチギチと音を立てながら右のはさみを再生させたザリガニは無機質な目に怒りを露にする。先ほどの一撃でリートは再び休眠してしまったがザリガニも水球による防御とはさみの再生で確実に消耗している。お互い燃費の悪い体だ。だが向こうには援軍はなく兵糧もない。僕が人間から遠ざかることを除けば問題ない。極論を言えば僕は既に人の意識を持つ無核生物なのだ。リートに寄生された時点で僕の体は大きく変異している。炎の無核生物であるリートの宿主として後天的に熱耐性を手に入れているし神臓のリソースも僕の体を巡る前にリートに流れ込む。肉体的には既に炎の無核生物の一部なのだ。

僕は開き直って二つ目の神臓を手に取る。その時、

「やーまーぶーきーさーん!!!」

背後から湊さんが僕を呼ぶ声が聞こえる。やっと来てくれたか!声がした方に目をやると金砕棒が回転しながら飛んでくるのが見えた。

僕言いましたよね。子供の投石でも死ぬ可能性があるって。僕に当たったらどうするつもりですか!?とっさにしりもちをついた僕の頭上を金砕棒が通り過ぎる。なんか今日はこんなのばっかりだな。

湊さんの投げた金砕棒はザリガニの胴体に命中し甲殻を砕いて突き刺さっていた。猪田も鉈で気軽に外骨格を割っていたがノーリスクであの威力とか強化筋力持ちは殆どチートだ。味方で良かったよ、本当に。

「そのまま座ってろ!山吹ぃ!」

鳴上の叫ぶ声が聞こえるとともに空気を切り裂く雷鳴が鳴り響く。鳴上が掲げた槍の穂先から発せられた電撃が湊さんの投げた金砕棒に突き刺さる。次の瞬間、甲殻の内側を電撃により焼かれたザリガニが音を立てて倒れた。

「遅いぞ鳴上!二人死んだし、僕は奥の手を使うはめなった!」

僕は鳴上に八つ当たりをする。

「責任転嫁はやめろ山吹。少なくとも二人死んだのはお前が出し渋りをしたせいだ。」

鳴上はそう言い捨てるとザリガニの解体を始める。僕も自分のナイフを回収して解体に加わる。

「しかし、ずいぶんデカいザリガニだな。」

鳴上が驚きの声を漏らす。

「迷宮内の危険生物をほとんどこいつが食ってたんだよ。しかも無核生物憑きだった。だから本来は格上の相手でも食えたんだろ?」

そんなことを話しているうちにザリガニの神臓があらわになる。

「デカいな」

僕は思わずつぶやいた。大概の危険生物の神臓は5㎝、大きくても10㎝程度だ。だが、こいつの神臓はその倍はある。

「とりあえず討伐の証明として狛江市役所に持っていこう。避難指示も解除になるはずだ。」

神臓を抜いて立ち上がった僕に鳴上が声をかけてくる。

「ところで、今回の救援はお前の依頼ってことでいいんだよな?」

「あー…そう言う事になりますかね?」

「なりますかね?じゃねぇよ。依頼そのものだろうが!」

「人道支援という事でロハになりませんかね?」

「ならねぇよ!」

僕と鳴上は今回の救援についての報酬を払う払わないを狛江市役所に着くまで続けた。


結局、湊さんの教育費と相殺という事で決着した。


書きながら設定やらなんやらを追加していく後乗せサクサク方式なので矛盾が出ているかもしれません。どこかで一度、登場人物やら組織やらを整理する回を設けたいと思います。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ