08話 決別
「ローラン、遅かったな。心配したぞ?」
野営地まで戻る事なく、俺を迎えに来たクロロと対峙する。
相変わらずの穏やかな笑みと瞳の奥に宿る狂気を見つめ、あの『囮』にされた時のトラウマが顔を出すが、俺は笑顔をつくった。
「あぁ。大丈夫だ、クロロ」
この100年でわかっているのは、俺の行動で未来は流動的に変化する事と、人間の趣味嗜好や、世界に起こる『災害』など、普遍的な事象は変わる事がないと言うことだ。
ここで俺のサポートを失った【炎剣】パーティーは、勢いが失墜していく事になるのだが、経験していない俺には実情はわからない。
『ここで』別れてもう会うことはないし、この世界ではクロロに囮にされて殺されかけたわけじゃない。
正直、もう「どうでもいい」と言うのが俺の率直な感想だ。ここで復讐を遂げたところで何の成果もないし、俺の復讐がシャルのためになる事は全くない。
「この男は本当に気味が悪い! 大嫌いです!」
すぐ後ろでノルンはクロロへの嫌悪感を露わにするが、俺は「ふっ」と笑みを溢す。
放っておいても何も問題はない。『力』に溺れ、努力を怠った者の末路は悲惨な最期を迎えると相場は決まっている。
それは俺だって例外ではない。
この100年で学んだ事は数え切れないのだ。
「……どうしたんだ? ローラン。さっきから、いや、なんだ……? な、『何か』おかしいぞ?」
クロロの言う『さっき』は俺が胸ぐらを掴み殴りかかろうとした時の事だが、俺はこの無駄な時間がもったいないので本題に移る。
「……クロロ。俺はパーティーを抜けるよ」
「……!!」
「今までありがとう。回復薬を買うお金を稼ぐのを手伝ってくれて……」
シャルが『呪印』が発現してから、『6年間』生きていられたのは、これまでの3年間、回復薬を使用していた影響『も』大きい。
クロロのいう『遊び』は少なからずシャルのためになっていたと考えれば、俺に対する仕打ちにも少しは目を瞑れる。
クロロは大きく目を見開いて驚愕していて、何度見てもこの顔は「ざまぁみろ」と思うんだ。
「な、なに言ってるんだよ……、ローラン」
「そのままの意味だ。ここでお前とはさよならだ」
「ま、待て! 何で、……こ、これまでずっと『力』を貸して……、」
「ありがとう。でも、もう決めたんだ! 俺はもっと、もっと『足掻いて』みようと思うんだ。お前の力を借りずに……」
「……何、言ってんだ? 魔力もない、スキルだって使えないお前が……、ど、どうやってシャルロッテを救うって言うんだよ!!」
クロロの声がシャルの名前を呼ぶと瞬間的に頭に血が昇る。
「お前がシャルの名前を呼ぶなよ……」
「はっ? いや、な、なんで何なんだよ? 『誰』なんだよ、お前はッ!?」
「……俺はローラン・クライスだよ。クロロ」
「……ち、違う! 違う!! お前はローランじゃない!! そんなに自信に満ちた顔をするなよ! お前は……、お前は笑いながら俺に依存してればいいんだよ!! 最底辺の『虫ケラ』なんだからッ!」
クロロは自分の言葉にハッとした様子だが、驚きも焦燥も何もなく、徐々に本性が出てくるクロロに苦笑する事しかできない。
もうこのやりとりには飽き飽きしている。
いくら穏便に決別しようとしたところで、クロロは狂ったように俺を引き止めるから、こうして本性を剥き出しにしてやって関わらないのが1番なのだ。
「マスター! 早く行きましょう! ノルンはマスターが侮辱されるのが我慢なりません!」
ノルンは荒々しい口調とは対照的に俺の服の裾を少し摘み、俺が動いてくれるように懇願する。
俺はノルンに伝わるように一つ咳払いをして、自分の発してしまった言葉に狼狽えているクロロに微笑みかける。
「じゃあな、クロロ。もうお前に頼る事は何一つとしてない……」
「ま、待て! ち、違う! さっきのは違うんだ!! ローラン! ふざけんな!! 待て! クソッ! 『これまで』の俺の我慢をッ!!」
クロロの声が背後から響くが、俺は構わず歩みを進める。数回の『決別』を経て、次のクロロの行動はわかっている。
「ローラン……俺から離れる事は許さないぞ?! パ、《煉獄大火焔》!!」
ゴォワァアアアッ!!
夜空を飲み込まんとする黒い炎の波が背後から迫り来るが、それはもう既に『知っている』。
(やっぱりか……)
俺は解体用の粗末なナイフを手に取ると、ふぅーっと長く息を吐き出し、一瞬で『気』を練り上げ、ナイフに纏わせて勢いよく振るう。
「《龍尊天斬》……!!」
ブォンッ!!
真っ二つに斬った黒炎の先には大きく目を見開き、絶句するクロロが見える。
ザザザザザザッ!!!!
解体用の使い古されたナイフから伸びた斬撃がクロロの真横を通り過ぎ、周囲の木々と地面を斬り裂いて大きな爪跡を残した。
「ローーーーランッ!!!!」
絶叫するクロロになど目もくれず、俺はノルンに声をかける。
「ノルン! やっぱり『今回』はかなり馴染んでる! これは行けるぞ!!」
「はい! 『今回』は今まで以上に素晴らしい斬撃です!! マスターの剣はあんな愚物の炎など一閃して当然。誰よりも近くで鍛錬を見て来たのです! 間違いありません!」
ノルンはパーッと弾ける笑顔を浮かべ、俺はニカッと笑みを浮かべる。
(今回の『慣らし運転』は文句なしだ!)
頭の身体の接続が水のように流動的で『身体』と『気』の同調が、かなり『戻ってくる前』に近い。
衝撃に耐えられず、ボロボロッと崩れていくナイフに更に確信を深めながら、膝をついて放心しているクロロなど気にする事なく歩き始めた。
「……よし。まずは『アリス』を迎えにいってシャルと合流だ。少し急ぐぞ! ノルン!」
「はい! ……マ、マスター。少し2人でのんびりする時間はありませんか?」
「……? アリスを救う前の買い出しとかは2人で行ってるだろ?」
「……は、はぃ。それはそうなのですが……」
「ふっ、わかったよ。今回は少し時間に余裕があるはずだ。身体を鍛える時間は作るつもりだけど、剣技の発展はダンジョン攻略を進めながらするつもりだから、少しは時間を作ろう」
「……!! はい!! や、約束ですよ!? ノルンはそれに大賛成です!」
俺と『同じ時間』を共有しているのはノルンだけ。もう俺にとっては居なくてはならない大切な相棒だ。少しのわがままくらい、いくらでも聞いてやる。
「とりあえず、早くアリスと合流するぞ!」
「はい! 行きましょう!」
俺は王都の地下に閉じ込められている『勇者パーティー』の1人として魔王討伐を果たした『聖女 アリスリア・ガーネット』の救出に向かうために、ルベル王国の王都『ルベリー』を目指し駆け出した。
次話「クロロの憎悪と焦燥」です。
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