05話 邂逅
しばらく泣き続けた俺は、川の水で顔を洗い、気持ちを新たに思考を再開させた。
『アレ』は現実で、『7日前』に戻ってきた。
これはおそらく間違いない。ただ、時間を遡るスキルなんて聞いた事がないし、簡単に信じられる物でもない。
(まずは使ってみないと何もわからないよな?)
頭ではわかっているのに俺は少し緊張している。
改めて決意したはいいが、クロロ達と行動を共にする事はもう絶対にできない。俺の精神が崩壊して狂乱してしまうのが目に見えている。
魔力がなく、スキルも発動させられなかった俺は、クエストの情報の詳細を調べ起こりうる危険性を充分に確認し、それに合わせた戦術を考えたり、メンバーの疲れや体調に気を配ったり、荷物持ちや魔物の解体などのサポートをして来た。
シャルを救うためには最果てダンジョンに眠っているとされている、『秘薬』が鍵を握っているのは周知の事実だ。
新しいパーティーを組みたいが、戦闘力はまるでない俺を受け入れてくれる『力』のあるパーティーがあるとは考えにくい。
全ては俺のスキル【栞】がどれだけ『使えるか』にかかっている。
「ふぅ〜……、躊躇したところで時間の無駄だな」
トクン、トクンと心臓が規則的に鳴っている。
この命を救ってくれたのは、俺のスキルに違いない。俺には魔力がないのだから、魔法が発動するはずがない。
「……《栞》」
俺は緊張した面持ちで、あのボロボロの古びた魔導書を呼んだ。
ポワァア……
いつもはパッと魔導書が出てくるだけのはずなのに、俺の目の前には淡い光が無数に飛び交い、人の形を作っていく。
(……なんだ、これ)
もうパニックの連鎖は止まる事を知らない。
(……女神様?)
見たままの感想を心の中で呟き、あまりに神秘的な光景にただ圧倒される。冷静に考察に入れるような余裕もなく、美しい身体が形成されていくのを見つめる。
スゥーッ……
やがて全ての光が一つに集束すると、美しい女性が現れ、俺に向かってニコッと微笑んだ。
「『マスター』。心から感謝します! 私が『人生の栞』です」
一切の汚れのない少し長めの銀髪に大きな翡翠の瞳。新芽を連想させる美しい瞳は夜だと言うのに輝いているように見える。
豊満な胸にキメの細かい白い肌と完璧なくびれ。スラリと伸びる手足は女性らしさを感じさせながらも無駄な肉は一切ない。
俺はあまりに完璧な造形美にポーッと『彼女』を見つめながら心の中で絶叫する。
(め、めちゃくちゃ裸だッ!!)
多分、それどころではないのだろうけどコレはもう叫ばずにはいられない。18歳の健全な男子には刺激が強すぎる。
「『人化』出来るなんて夢のようです。改めて、はじめまして、私の『マスター』、ローラン・クライス様」
彼女は恍惚とした表情で妖艶に微笑む。
「……な、なに言ってるんだ? と、とりあえず、服を……」
俺は上着を手渡すが、彼女は少し頬を染めると、ハッとしたように指をパチンッと弾いた。するとパッと白いワンピースが彼女の綺麗な身体を包んだ。
「私はおそらくマスターにしか視認されません。マスターの服をこの身に纏いたいですが、それでは服だけが浮かんでしまいます。ふふっ、それは幽霊のようで怖くないですか?」
彼女は綺麗な指を丸めて口元を隠した。腰回りを絞り、抜群のスタイルを強調するかのような白いワンピース姿にしばし見惚れながらも、
「……俺にしか見えないって、それもう幽霊と一緒じゃないのか?」
などとどうでもいい事を呟く。
彼女は少し頬を膨らまし、パッと俺の手を取ると「ふふんッ」とドヤ顔を浮かべる。
「……な、なに?」
「マスターは私に触れられます! 私もマスターに触れられます。触られるのだから、幽霊ではありませんよね? 私はマスターに『人化』して頂いたのです!」
「……そう、だな……?」
「はい! 私はマスターだけの物でございます!」
心底、嬉しそうにハニカム美女に、俺も釣られるように笑みを溢す。
(本当になんなんだ、この人)
なんだか完璧な容姿からは想像できない無邪気な言動のギャップに笑ってしまう。見た目は俺と変わらないように見えるのに、中身はシャルと同年代のように感じる。
「『人生の栞』なんだよな……?」
「はい! 私はマスターのためだけに存在する『聖典』。マスターの幸せが私の幸せなのです!」
彼女はパーッと弾ける笑顔を浮かべる。
(……『聖典』。魔導書じゃなかったのか……? そもそも、何で美女に?)
未だに自分のスキル【栞】と『彼女』の事を何一つとして理解出来ていない事に苦笑する。
「……君は誰なんだ?」
「……私は『人生の栞』。マスターによって人化して頂いた、『運命の女神、ノルン』が生み出した『神具』です!」
彼女はそう言うと、とても美しい微笑みを浮かべた。やっぱり何もわからない俺はこの世のものとは思えない美貌に少し照れながらも釣られるように頬を緩めた。
次話「『ノルン』」です。
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