04話 『クロロ・ルルーシュ』
(……なんだ? あの態度は……?)
クロロは急に態度が急変したローランの様子に首を傾げながら眉を顰めた。
(シャルロッテに何かあったか? いや、ここまでの道のりはいつも通りだった。……スキル『栞』? まさか……。アイツが一切スキルを発動が出来ないのは散々見てきた)
クロロは必死にスキルを発動させようと、『ボロボロの古本』に悪戦苦闘していたローランを思い出し、大声で笑い出してしまいそうなのを堪えた。
「ククッ……『虫ケラ』が……」
小さく呟き口角を吊り上げながらも、
(あれほどの敵意を向けられたのは初めてだな)
などと心の中で呟き、軽く息を吐いた。
※※※
クロロは『全て』を持って生まれた。
皆が自分に取り入り、誰もが平伏した。
――ルルーシュ家は安泰ですな。
――子供にしてこの魔力量ですか! 素晴らしい。
――これはスキル付与が楽しみで仕方ないですね!
――ぜひ、私の娘と婚約して頂けないでしょうか?
膨大な魔力量に「ルベル王国」の中でも有名な公爵家の長男。王族ですら自分を手中に置こうとあの手この手で接触してくる。
(……僕は『特別』なんだ!)
幼いクロロは自分が優れている事を知った。
全てが思い通りになる。
全てが自分の意のまま。
自分は特別な人間で、底辺で足掻く人間は虫ケラ同然。ただ辛く厳しい生活を嘆き、地べたを這いつくばるだけの『人の形』をした虫だと考えていた。
『一緒に遊ぶ? 楽しいよ?』
ボロボロの服からは想像できない綺麗な黒髪。キラキラの青い目には一切の汚れもなく、向けられた屈託のない笑顔はクロロの全神経を逆撫でした。
(何でそんな風に笑える……?)
差し出された手に激しい嫌悪感を抱いた。
少し心配そうな表情に変化していく顔には吐き気がした。
(『虫ケラ』が……、なんで僕を『憐れんでる』?)
クロロは、特別なはずの自分を心配する『虫ケラ』が信じられなかった。魔力のない最底辺の『虫ケラ』が世界で1番幸せそうに笑っている事に驚愕した。
ローラン・クライス。
出来もしない事のために必死に抗う『大馬鹿者』。
何の力も持たないくせに絶対に折れない『無能』。
『大罪人』を『英雄だ』と言い続ける『狂人』。
クロロが初めて興味を持った『虫ケラ』。
弱いくせに正義感が強く、曲がった事を嫌い、この世界で1番の『無能』なのに笑顔を絶やさない。特別なはずの自分に平伏さず、まるで対等の存在であるかのように接してくる頭のおかしいイカれた男。
(……遊んでみよう。この『虫ケラ』と)
クロロはローランが『虫ケラ』らしく、惨めたらしく地面に這いつくばるのを1番近くで見ると決めた。
特別である自分を『憐れんだ』代償に、心の底から絶望した瞬間を大笑いしてやると決めた。
※※※
「そろそろ、この『実験』も終わりだな」
クロロは焚き火に薪を投げ入れながら小さく呟いた。特別である自分を証明するための『本物の英雄』への道がこれから始まる事を実感し、この『余興』があと少しで終わりを告げる事を少し寂しくも思った。
(……『秘薬』か)
全世界を救う万能薬。
クロロは神に選ばれた自分が、それを見つけ『本物の英雄』として人々を導く事を使命だと考えていた。
本格的に始まった『自分が神である』事を証明する場は、もう目前にある。明日から『最果てダンジョン』の攻略が始まるのだ。
必要な『駒』は揃った。
【鉄壁】と呼ばれる自分へのダメージを3回無効化させるスキルと魔物からのヘイトを集める技術が高いゴーン。
スキル【治癒の極み】と常人より多い魔力量を秘めているメリダ。
スキル【助力者】で、全補助魔法を扱うミザリーは索敵から魔物の弱体化、仲間への強化が可能であり、弓の技術は王国でも10本の指に入ると言われている。
全員が一定以上の魔力を持ち、自分に不足している全てを補う事ができる。なによりミザリーは特に重宝するはずだと笑みを溢す。
(あとはローランを絶望させるだけだ……)
クロロはパチパチと燃える薪を見ていた。
『呪印』が出て3年。
クロロはシャルロッテがもうすぐ死ぬと信じて疑わない。絶望に顔を歪ませ、咽び泣くローランを笑ってやる準備は整っている。
(妹を失い、『親友』だと思っていた俺から笑われた時、お前は生きていられるか、ローラン?)
クロロは先程のローランの様子を少し気にしながらも、ちょっとやそっとの事では、これまでに築き上げたローランからの信頼が崩れるはずがないと口角を吊り上げる。
(今回のダンジョン攻略から帰ったら死んでてくれないかなぁ―……)
クロロは綺麗な長い黒髪にローランと同じ青い瞳のシャルロッテの顔を思い出しながら心の中で呟き、口角を吊り上げた。
(『汚い火』だ……)
自分が生み出す【煉獄焔】こそが至高だと焚き火を鼻で笑い、帰りの遅いローランを迎えに行こうと立ち上がった。
次話「邂逅」です。
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