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33話 賞賛と焦燥




 『今回』の黒飛竜ブラック・ワイバーンの襲撃の被害は0に終わった。


 俺が発注したクエストはヨルムからのクエストという事にしていたようで、冒険者達から文句を言われているヨルムに少し申し訳なく思った。


 しかし、冒険者達の顔は達成感に満ちており、ただのじゃれ合いだとわかりホッとした。



「あんた! 何者なんだ?」

「あなたが噂の『剣聖』様でしょう?!」

「本当に魔力がないんだ……! どうやったんですか!?」


 俺に押し寄せる冒険者の数は凄まじい物だった。


 今回はすでに俺のことを知っていた者もいたし、協力を求めたので目撃者が多かった事も影響してか、賞賛の嵐は止むことがなかった。


「いやいや、みんなで力を合わせた結果だろ? 黒飛竜ブラック・ワイバーンは視野が狭いんだ。死角からの攻撃には弱いし、鱗の生え方にも個体事に癖があって、柔らかい所を見極められたら、誰にだって簡単に斬れるんだぞ?」


「「「「「………」」」」」


「みんながヘイトを稼いで引きつけてくれていたからで、ランクほどの脅威じゃなかったんだ! 俺はそんな大した事はしてない!」


 俺は大袈裟に騒ぎ立てる冒険者達に恥ずかしくなり、『事実』を言って落ち着かせようとしたのだが、


「な、何言ってるんですか! そんなの一瞬で見極めるなんて無理に決まってるじゃないですか!?」

「普通は、『視野が狭い』からってあんな所に飛び込めないですよ」

「ハ、ハハッ……、あんなに簡単に斬れるわけがないじゃないですか!」


 更に大きな歓声が湧き上がってしまい、俺は苦笑を深めた。


 黒飛竜ブラック・ワイバーンは強そうな見た目で適正なランクじゃないと思っている。


(俺の感覚的には『B』か『B+』と思っていたんだけど……。まぁ剣を扱えるようになるまでの俺なら逃げ回ることしかできなかったか)


 もう何がなんだか分からず、意味がわからなくなってしまう。いつもなら1人で黙々と討伐をしていたので、すっかり感覚が麻痺していて、押し寄せる冒険者の波に少し酔ってしまう。


(うぅ……気持ち悪い……)


 目が回るほどの激流と歓声に、頭がクラクラしていると、そっとノルンが俺の肩を支えてくれる。

 

 俺の顔を覗き込み声をかけてくれようとするが、図太い大きな声が周囲に響き渡った。



「テメェら、うるせぇぞ! 『ローランさん』の戦闘を見ただろ? こんなに涼しい顔をしちゃいるが、少しはゆっくりして貰おうって思わねぇのか!!」



 騒ぎ立てる冒険者達は一瞬だけ沈黙すると、


「おう! ギース! お前も頑張ったんだってな!」

「少し見直したぜ! ギース!」

「ローランさんの舎弟気取りかよ、ギース!」


「は、はぁ? べ、別にそんなんじゃねぇよ! お、俺なんか何も出来なかったぜ! ローランさんがあっという間に7体も斬ったんだ!」


 先程、改めて謝罪をしてきたと思ったら、盛大にキャラが変わっているギースに苦笑しながらもやっとちゃんと息が出来たように感じる。


 今回は『お漏らし』もしていなかったし、1人で食い止めようと手を広げている姿は、素直に見直したし、かっこよかった。


(『うんち垂れ赤モグラ』はもういないな……)


 それはそれで少し寂しく思ってしまうのが俺の性格の悪さを表しているが、賞賛の声に照れているギースはかなり『赤モグラ』で笑みが溢れた。


「むぅー。全てはマスターの『力』なのに……! 『うんち垂れ赤モグラ』のくせに生意気です!」


 ノルンは何やら口を尖らせていたが、この隙にこっそりと人波から逃れ、俯瞰的に冒険者達を見つめる。


「大丈夫ですか? マスター」


 ノルンの言葉にコクリと頷き、ふぅ〜っと息を吐く。


 『今回』はみんなの力が被害0を生み出したのだ。これ以上はない成果に、『この先』も上手く行く事を願う。


(……早くシャルに会いたいな!)


 ひと段落した雰囲気に、シャルの世界一可愛い笑顔を思い出す。この後は夜に王宮に招集され、アリスとフェンリーの解放を要求するだけだ。


(みんなで移動するとなると、15〜20日は必要か? フェンリーについてはまだわからない事も多いしな)


 再会までの時間を指折り数え、今か、今かとシャルの笑顔を待ちわびる。


 アリスの研究に嬉しい『イレギュラー』はあるのか?

 フェンリーという神獣に嬉しい発見はあるのか?


 気になる事はたくさんあるが、とりあえずは1つの目標を達成できた事を実感する。こうしてたくさんの冒険者達と喜びを分かち合えることを素直に嬉しく思った。




「『グランドマスター』のヨルムはいるか!? 国王がお呼びだ!」


 

 王国騎士団が数人現れると声を張り上げた。冒険者達はシーンっと静まり返り、ざわざわと騒ぎ始める。


「マ、マスター。ヨルムが呼び出しですね……」


 ノルンは少し神妙な声をあげる。


 確かに、『冒険者』で襲撃を回避した。グランドマスターであるヨルムが呼ばれるのは当たり前の事だが、この『イレギュラー』は俺にとっての大誤算だ。


(こ、これじゃ、アリスとフェンリーが!)


 『いつも』は1人でやっていた。


 それが俺だけの褒賞に繋がっていた?

 確かに全員の力を合わせて撃退したのは確かだ。王都内に侵入を許さなかったのは『初めて』だ。


(でも、これじゃあ……)


 俺の最優先はシャルだ。

 そのためにはアリスが絶対に必要だ。

 

(『戻る』か? いや……、脱獄させるか……?)


 せっかく被害0に終わったのだ。俺には冒険者達の頑張りや達成感を全て忘れさせてしまう事は出来ない。それならいっそ『2人』だけを連れ去った方がいくらかマシだ。


「……戻りますか? マスター」


 いつになく真剣な表情のノルンにゴクリと息を飲む。


「いや……。2人を脱獄させ、」


 俺はそこで言葉を切った。

 キョロキョロとしていたヨルムとバッチリ目が合ったからだ。


 ヨルムは俺と目が合うと、ニヤリとイタズラに笑い、大きな声を上げた。


「おーい! ローラン!! お前も一緒に来てくれ! 王都を救った『英雄』を王様に教えてやらねぇとなぁ!?」


 ニカッと笑ったヨルムの言葉に立ち尽くすと、


「そうだ! ローランさんが『英雄』だ!!」

「その通りだぜ! ローランさんが居なきゃ俺たち普通に死んじまってたしな? ガッハッハ!」

「ハハハッ! 確かにそうだな! ローランさん爵位とか貰えるんじゃねぇか?」

「ん? ローランさんは貴族なんじゃないのか?」


 騒ぎ立てる冒険者達の言葉にヨルムは満足そうに微笑むと、また声を張り上げた。


「よぉし! お前らは酒場で待ってろ! 今日は明日の朝まで飲み明かすから覚悟してろよ!! 金は心配すんな! もちろん、俺の奢りだぁ!!」


「「「「「うぉおお!!!」」」」」


 沸き立つ冒険者達に圧倒されていると、ヨルムとまた目が合う。穏やかな笑みと楽しそうな笑顔は初老のくせに少年のようで、俺も釣られて笑みが溢れた。


「ふふっ。さぁ、早く行きましょう、マスター! ノルンはほんの少しだけ焦ってしまいましたよ! でも、これで一安心ですね?」


 ノルンの笑顔と言葉にホッと胸を撫で下ろしながら、


「ハハッ……、俺も少し焦ったよ」


 誰にも聞こえない小さな声でノルンに返し、ヨルムの元に足を踏み出した。






次話「〜ゴーン・バルトラル〜」です。


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