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03話 『7日前』



 意識が戻ると目の前にはパチパチッと音を立てる焚き火があった。サァーッと風に揺られる木々が乱立する薄暗い森の中だ。


(……や、野営地? なんだ? 何がどうなって……。ダンジョンは? 炎狼フレイムウルフは? 『神具の人化』ってなんだ? さっきの『声』は?)


 心の中で疑問を呟きながら、ただメラメラと揺れる火をボーッと見つめ、ガクガクと震える身体を抱きしめた。



パキッ!



 焚き火の木が弾ける音にハッとして、慌てて周囲を見渡すと苦笑しながら首を傾げるクロロが座っている。


「どうしたんだ? ローラン」


「……ク、ロロ?」


「……ん?」


 不思議そうに首を傾げるクロロの顔に、捨てられて嘲笑われた顔が一瞬にして蘇る。



――逃げ回って時間を稼ぐんだ。

――『アレ』はもうダメだ。手遅れだ。

――お前の『無駄な足掻き』は滑稽で面白かったぞ?

――街に帰ったらすぐに会わせてやるから安心しろ。


 ふざけた言葉達と先程の絶望が押し寄せる。



「クロロ! お前ッ!!」


 バッと立ち上がると勢い良く胸ぐら掴み拳を振り上げるが、怪訝そうに眉間に皺を寄せるクロロと目が合うと同時に、信じられない事に気づいた。


「なんだよ、急に……。離せよ」


 先程の事なんてなかったかのようなクロロの態度と、胸ぐらを掴んでいる『失ったはずの左腕』に全身の毛が逆立った。


「ローラン! 離せって言ってるんだよ!!」


 振り払われた左腕を見つめる。


(な、何が……、どうなって……?)


 呆然と左腕を見つめる俺に、クロロは更に眉間に皺を寄せ低い声を出す。


「……なんだよ? 『シャルロッテは元気か?』って聞いただけだろ? 何が気に食わなかったんだ? お前らしくもない」


「……」


「まあ、これから『最果て』に挑戦するんだ。神経質になるのもわかるが、少し落ち着けよ」


「……は? ……こ、ここは『カルマの森』か?」


「何言ってんだ、ローラン? 当たり前だろ? 事前に知識を入れすぎておかしくなったのか? ハハッ」


 目の前で笑っているのは『いつもの』クロロだ。


(ぜ、全部、夢だったのか?)


 ここは『カルマの森』。

 最果てダンジョンの入り口で間違いない。


 全てに見覚えがある。


 いびきをかきながら寝ているゴーンも、寝袋にくるまっているメリダとミザリーも、食べ終わった鹿鍋の痕跡も……。


(『7日前』か……?)


 明日、朝一から最難関のダンジョンに挑戦する前日の光景だ。間違いない。忘れるはずがない。


 『シャルロッテは元気か?』というクロロの問いかけから2人で思い出を語り合い、笑い合った。


 クロロは俺の努力を賞賛してくれて、俺に対するゴーン達の態度に悪態を吐きながら「俺はお前を信じてる」と言ってくれた場所だ。


 嬉しかった。全てを持つクロロからの信頼が。

 誇らしかった。クロロからの賞賛が。


 何も持たない『無能』の俺を肯定してくれるクロロの言葉の数々が心に染みて、気を抜くと涙が出そうだったんだ。


「ローラン? どうしたんだよ? 何か忘れ物でもしたのか?」


 クロロは『いつも通り』の穏やかな表情だ。


 俺は『あの地獄』は悪い夢で、今こそが現実なんだと自分に言い聞かせながらも、聞かずにはいられなかった。


「……クロロ。俺はシャルを救えるのか?」


「……ふっ、当たり前だろ? シャルロッテなら大丈夫だ! お前が『絶対に救う』って誓ったんだろ? お前の『絶対』は、これまで一度だって絶対じゃなかった事がないんだから……」


 クロロは淡褐色の瞳を細め薄く微笑んだが、俺はその微笑に大きく目を見開き、ゾクッと背筋が凍った。


 クロロの瞳の奥の奥に、あの時の狂気が宿ってる。


 あの恐ろしく冷たい瞳が目の前にある。


 

 気づかなかった。『ちゃんと』見ていなかった。

 信じきっていたんだ。頼りきっていたんだ。


(『アレ』は夢なんかじゃない……!)


 確信するには充分だった。


 クロロの瞳には俺を納得させるだけの説得力がある。止まらない寒気と自分の本能が『アレは現実』だと警鐘を鳴らしている。


「……す、少し水を飲んでくる」


「じゃあ、俺も一緒に、」


「来るなッ!!」


「……ローラン?」


「……頼む。少し1人にしてくれ」


 無意識に固く握りしめた拳からは血が滴っている。冷静でなんか居られない。気が狂いそうな頭をどうにかしないといけない。


(この状況はきっと、俺のスキル【ブックマーク】だ。あの『声』が全てを知っているはず……)



 しばらく歩みを進めると湧き上がってくるものに耐えられず、俺の頬には涙が駆ける。


 クロロやメンバーに対する憎悪に対する悔し涙なんかじゃない。もちろんそれが消えたわけではないが、俺は心から安堵したんだ。



『絶対に無事に帰って来てね? お兄ちゃん』



 教会に居るシャルとの約束を果たせる。

 『誓い』を果たす可能性は無くなっていない。


 俺はまだ、シャルを救うために頑張れる。


「……うっ……、父さん、母さん……。お、俺は、俺はまだ頑張れるよ……!!」


 天国にいる2人に声をかける。


「……うっ、くっ……うぅ……」


 深い絶望を味わった。


 信じられない裏切りと絶命の危機に『諦めて』しまった自分に出会った。でも、まだ俺は生きていてシャルだって生きているはずだ。


 それだけで俺はまた前を向ける。


 その安堵が涙を誘発したんだ。

 その歓喜が憎悪を薄めてくれたんだ。


 俺は漏れ出る嗚咽を押し殺すように唇を噛み締め、改めて決意する。


(シャル……。待ってろ! 絶対に救うから!)


 グッと力いっぱいに閉じた瞼の裏には、やっぱり世界一可愛いシャルの笑顔が浮かんでいた。





次話「『クロロ・ルルーシュ』」です。


〜作者からの大切なお願い〜


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 まだまだ連続投稿しまーす!

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