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9. はじめて見る笑顔

少しだけタイトル変えました。

 

 次の日、リヒトが起きたのを見計らってエレナも寝室を出た。

「陛下、おはようございます」


 しかし、その日もエレナのこと無視して部屋を出ていった。

(仕方ないわよね。私、嫌われてるんだもの。それに無視されることは慣れてるし、大丈夫よ)


 心の中ではそう思っていても、やはり無視されることは辛くエレナはどんどん食欲が無くなっていった。

「エレナ様、どうか少しだけでも召し上がってください。昨日も何も召し上がっていらっしゃらないので、このままだと倒れてしまいます」

「そうよね、ごめんなさい。少しだけいただきます」

 エレナはその言葉通りほんの少ししか食べなかった。


 それからしばらくは何もない日が続いた。朝と夜の挨拶は相変わらず無視されていた。そのため、食欲もわかず元々細かったエレナはどんどんやつれていった。


 エレナは嫌われていることが分かっていたが、何もしないよりはと勉強だけは毎日行った。もし、万が一認めてもらえたら、その時なにもできなかったらそれこそ失望させてしまう。夜はリヒトが帰ってくるまで独学で勉強して、昼間はクリスタにダンスを教えてもらっていた。


 リヒトとエレナの間には全く会話はなかった。リヒトが朝出かける時と部屋に戻ってきた時に挨拶をするものの、リヒトは返事をしない。だが、リヒトは毎晩どんなに遅くなっても出迎えてくれることを少しだけ嬉しいと思っていた。今までおかえりなんて言われたことは一度もなかった。どんなに遅くなっても必ず起きていて自分を迎えてくれる。どうせご機嫌取りだろうと思いながらも少しだけ楽しみになっていた。その日もいつものようにエレナが出迎えた。


「陛下、おかえりなさいませ」

「ああ」


 いつもは無視するのに今日は何故か返事をしてしまった。返事といってもあしらうような雑な返事だ。それなのに、エレナは顔を綻ばせた。それは初めて見るエレナの笑顔だった。それを見たリヒトは顔が赤くなるのを感じた。

(なんだ? 熱でもでたか?)


 その日はエレナの笑顔が頭から離れず、リヒトはなかなか寝ることができなかった。


 翌朝、リヒトが部屋を出るとエレナは先に起きていた。

「おはようございます」

 いつもは少し遠慮するように挨拶するのに、今日は笑顔で挨拶するエレナを見て昨日と同様、

「ああ」

 とだけ返した。


 それだけでも嬉しそうするエレナをみて不思議に思った。

(そういえば、こいつは必要以上に俺に関わってこない。それどころか一度も文句を言われたり、物をねだられたことがない。こんな女は初めてだ)


 今までの婚約者は、部屋が狭いとか侍女が1人なんてありえないとか、ドレスや宝石が欲しいとわがままばっかりだった。その時きちんと面と向かってエレナを見て初めて気づいた。

(こいつ細すぎないか? 女ってこんなものか? いや、そんなはずはない。きちんと食べているのか?)


「どうかされましたか?」

 エレナの顔をまじまじと見ていたので、不審に思い問いかけた。

「いや、なんでもない」


 リヒトは少しだけエレナに興味を持ち始めた。

 しかしその日から5日間、リヒトは国内を視察するため王宮を空けることになった。


 王宮を出る時もエレナは見送りにきてくれた。

(帰ってきたらあいつの話を聞いてみよう)

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」


 リヒトが見えなくなるまで見送り、馬車が視界から消えた途端エレナは倒れた。

「エレナ様!?」

「ごめんなさい。ちょっと、くらっとしただけだから大丈夫よ」


 そう言ってフラフラになりながら部屋に戻った。エレナはベッドに横になってクリスタに言った。

「クリスタさん。このことは陛下には絶対に言わないでください」

「どうしてですか?」

「陛下に嫌われるからです。いや、もう嫌われているのだけど、これ以上失望させたくないんです。だから、お願いします」

 その言葉を聞いて、ほんとはもっと前から体調が悪かったのではないかとクリスタは思った。

「分かりました」

「ありがとう」


 最近、エレナはクリスタのことを怖く思うことは無くなっていた。少しづつではあるけれど、敬語を使わないで話せるようになっていった。クリスタも心を開いてくれているようで嬉しかった。だからエレナの希望ならとリヒトに言わないことを承諾した。この選択が正しいのかは分からない。けど、リヒトに知られないように苦しくてもいつも通りを振る舞っていたのだ。そこまでしてリヒトに嫌われないように頑張っている。それを自分がぶち壊すような真似はできない。クリスタはリヒトが帰ってくる前にエレナの体調を戻そうと一生懸命看病した。


 そして5日後、完全では無いものの体調の良くなったエレナは王宮の入り口でリヒトを出迎えていた。

「おかえりなさいませ」

「ただいま」


 笑顔で出迎えてくれたエレナに自然とリヒトも顔を綻ばせた。その顔を見た使用人たちは目を疑った。いつも氷のような冷たい顔をしているリヒトが優しい顔を見せたのだ。ほんの一瞬だったが、その顔は男でさえも魅了するほど美しかった。

 リヒトに王宮の前で挨拶をしていると、もう一台馬車が止まった。エレナはその馬車についている家紋を見て青ざめた。その家紋はシンクレア家のものだった。

(どうしてここに!?)


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