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5. 驚きの連続


 牢の中で涙を流しながら眠っていたエレナはアーサーの声で目が覚めた。

「ん? あ、あなたは、確か陛下の執事の」

「アーサーと申します。なぜエレナ様がここに?」

「わ、私は、その……」

 エレナは言葉に詰まった。本当のことを言うか、陛下を殺そうとしたと言うか悩んでいた。なんとなくアーサーは自分のことを信じてくれる気がしたからだ。


「エレナ様、嘘を吐いたら容赦しませんよ?」

 エレナが考え事をしている様子がアーサーの目にはどうやって誤魔化すか考えているように見えたんだろう。


「えっと、その、私が陛下のお部屋と知らずノックも無しに入ってしまって。で、でも、それだけで私がここにいる理由は十分かと」


 エレナは何もしていないのに、目障りだという理由で暴力を振られることはよくあった。それに比べて今回は陛下の睡眠中にノックもなしに勝手に部屋に入ったのだ。こうなるのは当然だと考えていた。


 アーサーはその人の目を見れば嘘を吐いているか本当のことを言っているかどうかわかる。エレナの目は嘘を吐いていなかった。だから驚いた。普通の令嬢ならそんなことで牢に入れられたら怒るだろう。それなのに怒るどころかまるで当たり前かのように受け入れている。


「エレナ様、先ほどの無礼をお許しください」

「え? いえ」

「とりあえずここから出ましょう。詳しいお話は別のお部屋で伺いますので」

「信じてくれるんですか?」

「はい」

「あ、ありがとうございます」

 アーサーは牢からエレナを出して、近くの部屋に連れてった。


 部屋に着いたアーサーは手際よくホットココアを用意した。

「エレナ様、どうして陛下の執務室に入ることになったのかその経緯を伺ってもよろしいでしょうか?」

 エレナの前にホットココアを置きながらアーサーは話を聞いた。

「は、はい」

 エレナは文字が読めないということを隠して、陛下の執務室に入るまでの経緯を話した。

「その、部屋にいてもすることがなかったので本を読もうと思って図書館を探していたのですが、間違って陛下のお部屋に入ってしまって」

 最後の方は段々声が小さくなってしまった。

「わかりました。それではなぜ陛下はエレナ様を暗殺者と勘違いされたんでしょうか」

「そ、それは」



 自分が認めたからーー。



 しかしそれをいえば、あの時の陛下が怖くて認めたということになる。それは陛下のせいにするようで、エレナは何も言葉を発することができなかった。


「エレナ様は陛下を殺すつもりはないということでよろしいんですよね?」

「は、はい! もちろんです。誓ってそのようなことは致しません」

「わかりました。侍女を呼びますのでエレナ様はお部屋にお戻りください」

「えっ?」

「どうかしましたか?」

「いえ」


 こんなにあっさり自分の言葉を信じてくれるなんて思わなかった。私が陛下を暗殺しようとしていたというまで酷い目に遭わされるものだと思っていた。


「陛下には私から言っておきます。この度は牢に入れるという無礼をしてしまい申し訳ありませんでした」

 エレナはひどく驚いた。自分のことを信じてくれたこと。謝ってくれたこと。どれもエレナには初めてのことだった。

「い、いえ。私は大丈夫です」


 そう、あの程度のことは慣れている。いつも私が失態を犯したときは牢とさほど変わらない地下室に閉じ込められていた。しかしそこはエレナにとって唯一安心できる場所だった。なぜなら、そこにいる間は誰もエレナをいじめないからだ。空腹さえ我慢すれば、エレナにとっては悪くない場所だったのだ。


 ココアを飲みながら待っていると、ドアをノックする音が聞こえてきた。

「はい」

 返事をすると部屋に入ってきたのはクリスタだった。


「エレナ様、申し訳ございませんでした。話はアーサー様から伺いました。私がついていればこのようなことには」

「えっと、クリスタさんが謝ることはないですよ。悪いのは勝手に歩き回った私ですし」

「エレナ様。次からはこのようなことがないように気をつけます」

 そう言ってクリスタは頭を下げた。

「わ、私の方こそ、次からはクリスタさんに行き先をお伝えしてから行きます」

「エレナ様。私のことはクリスタとお呼びください。それから私に敬語は必要ありません。エレナ様の方が身分が上ですので」

 使用人に敬語を使う貴族なんていないだろう。ただ、エレナに刻まれている恐怖がそれを拒む。


「……えっと、ごめんなさい。もう少し慣れてからでもいいですか?」

 少し体を震わせながらそういうエレナを見て、クリスタはそれ以上何もいうことはできなかった。

「わかりました。エレナ様、それで今日の夕食は陛下と一緒に召し上がられるということは知っておられますか?」


 クロデリア王国の貴族は、婚約初日一緒に夕食をとるという習慣がある。お互いを知るため、仲を深めるためだ。しかし、エレナはそのことをすっかり忘れていた。

「そういえば、そうでしたね」

(どうしよう。食事のマナーなんてわからないわ)


「ですのでお部屋に戻り次第、着替えのお手伝いをさせていただきます」

「え? あ、えっと、自分で着替えるので大丈夫です」

「ですが」

「ほんとに大丈夫です」

「わかりました。では、私は部屋の外で待機しておりますので着替えが終わりましたらお呼びください。ドレスはこちらにおいておきます」

「ありがとうございます」


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