39.生まれてきて、あなたに出会えてよかった
エレナの誕生パーティーが終わり、エレナとリヒトは部屋に戻ってきた。
エレナは酔いを覚ますため窓を開けた。その窓から入ってくる心地よい風が、エレナの髪を優しく揺らした。
「陛下、今日は私のために準備してくださって本当にありがとうございました」
エレナは心から幸せそうな笑顔をリヒトに向けた。
「その笑顔が見れたなら、今日のサプライズパーティーは大成功だな」
リヒトはエレナの頭を優しく撫でた。リヒトの手のひらから、じんわりと体温が伝わってくる。
「エレナと出会えて本当によかった。エレナに会えなかったらこんな幸せな気持ちになることもなかっただろうな」
「きゅ、急にどうされたんですか?」
突然甘いセリフを言われたエレナは頬を赤らめた。リヒトのエレナを見つめる目が、甘く優しい。それは、言葉で言われなくとも愛されていると感じるほどだ。
リヒトは、恥ずかしそうに俯いたエレナから視線逸らし夜空を見上げた。
「俺が国王になった経緯は話しただろ? 俺は、本当は国王になんかなりたくなかった。というより、俺が国王の器じゃないことは自分でもわかっていた。国民のために何をすればいいのかもわからないし、そもそも人前に出ることが苦手だった。そんな俺には無理だって思ってた。でも、そんな俺の考えを変えてくれたのがエレナ、君だったんだ」
「私、ですか?」
心当たりのないエレナはキョトンとした顔でリヒトを見た。
「ああ、俺はただ毎日無駄に生きているだけだった。あの時の俺は死んでいるのと同じだった。国王なのに国民のことなんてどうでもいいと思ってたんだ。それどころか、俺自身がどうなろうとどうでもよかった。そんな時、エレナに出会った。エレナはいつでも俺に優しくて、いつからかエレナのためにもっとこの国をよくしたい。こんな俺でもできることをしよう、そう思うようになった」
リヒトはどうでもよかったなんて言っているが、そんなことはないとエレナは思う。どうでもいいと思っていたら、この国はとっくに滅んでいるはずだ。本人が気づいていないだけで、きちんとこの国を守っていたのではないだろうか。そう思ったが、口には出さなかった。
「エレナがいない間、俺はこの国のことを考え、エレナみたいに苦しむ人がいないように、エレナみたいに優しい人が生きやすい国にしたんだ。エレナと出会わなければ今もまだ生きる意味を見つけられないままだった。だから、俺はエレナが生まれてきてくれてこんな俺に優しくしてくれて本当に嬉しい」
「それは私のセリフです。私はあの家にいた時、何度も何度も私なんか生まれてこなければよかったのに、そう思って生きていました」
エレナは今までシンクレア家にいた時のことはほとんど話さなかった。思い出したくもなかったからだ。そんなエレナが話し始めた時は驚いたが、リヒトは黙ってエレナの話を聞いた。
「ずっと誰かに大切にされる私を夢見ていました。ずっと誰かに愛されたかった。でも、結局私なんかを愛してくれる人はいないと諦めていました。肉親でさえ私を愛してくれないのに、他人が私を愛してくれるはずがないと思っていました。でもここに来てから、いろんな人と出会って私は少し自信を持てたんです。こんな私でも、優しくしてくれる人がいたから」
「それなのに、俺はエレナをあの家に帰してしまった。俺は恨まれて当然だと思う」
「いえ、陛下の判断は至極当然だと思います。私は陛下の隣に立つ人間としてふさわしくないことは自覚していましたから。あの時は陛下の隣に立つにふさわしい自分になることを諦めていました。だから、あの時陛下が助けに来てくれた時は本当に嬉しかったんです。陛下が私を必要としてくれるのなら、その気持ちに応えなければと思っていました。ですが、結局私は嫌われるのが怖くて逃げ出してしまいました。その上陛下にお怪我まで。あの時私が逃げ出していなければあんなことには」
「それは違うだろう」
自分を責めるエレナの話を遮った。
「あの時エレナが逃げ出していなければ、エレナのことを大切にしてくれる彼らに出会えなかった。それにあの時は俺の力不足で起こったことなんだから、エレナが気にする必要はない」
「でも、陛下のお体に消せない傷が残ってしまいました」
「そんなこと気にするな。この傷を見るたびにエレナのことを思い出して守らないとって思えるから、むしろ俺にとってはなくてはならないものだ」
気を遣わせないようにしているのか、本当にそう思っているのかはわからないが、エレナは少し気が楽になった。
「そういえば陛下」
リヒトが自分の気持ちをきちんと言葉で伝えてくれたのだからエレナも伝えたかった。自分の気持ちを自分の言葉で。
「ん? どうした?」
「私もその」
実際言葉にするのは恥ずかしく一度口を閉ざしてしまった。しかし、どうしても伝えたくて、いや伝えなければと思いエレナは勇気を出して口を開いた。
「生まれてきて、陛下に出会えて本当によかったです」
そう告げると、リヒトは微笑んでエレナの頭を撫でた。
あの家にいた頃は、生まれてきてよかったなんて思える日が来るとは思わなかった。でも、今目の前に自分を愛してくれる人がいる。自分のことを大切に思ってくれる人たちがいる。もう、1人じゃない。
そう思い、リヒトを見ると微笑み肩を抱き寄せてくれた。
「エレナ、誕生日おめでとう」
時計を見ると、もう日付が変わる頃だった。少し寂しいと思いながらも、何度目かわからないその言葉に笑顔で応えた。
ずっとこの幸せが続きますように。
そう願って、エレナはリヒトの唇にそっと触れるだけのキスをした。
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