35. 再会
翌日から王宮の中は慌ただしい日々が続き、エレナとリヒトが話す時間はほとんどなかった。リヒトは怪我が完治していないのにも関わらず、毎日王宮のあちこちに顔を出している。今回の事件はリヒトが解雇したことが原因なので、申し訳ないと思っているのだろう。実際、王宮の使用人全員に頭を下げて回ったそうだ。
「はあ、いつになったら陛下とゆっくりお話しできるのかしら」
エレナが庭を散歩しながらそう呟いた時、門のほうで何か言い争っている声が聞こえた。
(何かあったのかしら)
不思議に思ったエレナは門の方に歩き始めた。
門に近づくと、騎士団の人たちが数人いて何か困った様子だった。
「あの、何かあったんですか?」
「エレナ様!? ここは危ないから王宮の中にお入りください」
「危ないってまた敵襲でもあったんですか?」
「いや、そうじゃないのですが」
危険があると聞いて敵襲かと思ったが、どうやら違うらしい。
「それなら何が危ないんですか?」
「それは……」
(何か私に教えられない事情でもあるのかしら)
何度聞いても曖昧な返答をすることから、何か隠したいことがあるらしい。
その時、門の向こう側からエレナを呼ぶ声が聞こえた。
「今、私を呼ばなかった? ねえ、門を開けてくれないかしら?」
「……。それはできません」
「どうして? 門の向こうにいる人は私に会いにきたんでしょ? 一体何を隠しているの?」
しかし、エレナのその問いには何も答えなかった。
「もういいわ。直接聞くから」
「い、いけません。エレナ様。お戻りください」
必死に止められたもののそれを振り払い、門に近寄り大声で話しかけた。
「門を開けてくれないので、このままで失礼ですがどちら様ですか?」
「その声はエレナか? そこにいるんだな?」
どこか聞き覚えのある声だった。
「もしかして、お父さん?」
「ああ、そうだ。おい、離せ!!」
どうやら騎士団に取り押さえられているようだった。
「ねえ、お願い。ここを開けてくれないかしら?」
「しかし、陛下からエレナ様にご両親を近づけるなと申しつかっておりますので」
きっと、その両親というのはシンクレア家の人たちのことを言っているのだろう。
「陛下には私から話しておくから。お願い、私の大切な人なの」
彼らは顔を見合わせ、少し迷ったもののやはり開けてはくれなかった。
「なら陛下に許可を貰えば開けてくれるかしら」
忙しいリヒトにこんなことで迷惑をかけたくなかったが、こうする以外に開けてくれそうもないので仕方ない。
「何の騒ぎだ?」
しかしその必要はなかった。
騒ぎを聞きつけたらしいリヒトがこちらに向かってきていた。
騎士団の人たちは陛下の姿を見ると、すぐさま跪いた。
「陛下!!」
「エレナ? こんなところで何してるんだ?」
「その、陛下にお願いがあるのですが」
「エレナが何かを頼んでくるのは珍しいな」
エレナの言葉にリヒトは少し驚いた顔をした。
「その、お世話になった人たちが会いに来ているので門を開けて欲しいのですが」
「そんなことか。すぐ開けさせよう」
「し、しかし、陛下。彼らはエレナ様の両親だとおっしゃっているのですが」
「エレナの両親ってシンクレア家の奴らか?」
「いえ、シンクレア家の人ではありません。王宮を出てから出会った方達で、私のことを本当の娘のように大切にしてくださる方です」
「なるほど、そういうことか。おい、門を開けろ」
そしてようやく門は開けられた。
「「エレナっ!!」」
「お父さん、お母さん。大丈夫?」
騎士団と少し揉めたようで、2人の身体には傷ができていた。
「ああ、これくらい何ともない」
「申し訳ない。エレナの恩人に手荒なことをしてしまった。私はこの国の国王のリヒト・デュンヴァルトだ」
「ああ、あなたが。私はエレナの父親のロイスと申します」
「私はエレナの母親のサラです」
「エレナを迎えに来たのですね。しかし、2人とも長旅でお疲れでしょう。お部屋を用意させるので、今日はそこでお休みください。私は仕事が山積みなのでこれで失礼します」
そう言って去っていった。
(何だか陛下の様子が変だわ)
いつもはもっと堂々としているのに、なんだかいつもよりリヒトが小さく見えた気がした。そんなことを考えていると、驚いた2人が勢いよく聞いてきた。
「エレナ、迎えって? まさか私たちと一緒に帰ることにしたの?」
「そうなのか!?」
エレナは何も言わずただ首を横に振った。
「なるほど。まだちゃんと陛下にエレナの気持ち伝えてないのね。あなたは自分の気持ちを言葉にするのが少し苦手なところあるから」
「うん。最近陛下も忙しくてなかなか会えないし」
「わかったわ。私に任せて」
「任せてって、お母さん何をするつもりなの?」
「私にできるのは勇気ときっかけをあげることぐらいだから、あとはエレナが頑張るしかない。でも、エレナには私たちがついてるのよ。きっと大丈夫だわ」
自信満々にそういう母を見ると、少し心が軽くなった。
「ありがとう、お母さん。私ね、本当はすごく怖いの。陛下が私のことをどう思っているのかなんて本当のところはわからないし、もし陛下が私を受け入れてくれても、周りの人はきっと私を受け入れてはくれないから」
エレナは王宮から出る前にシャーロットと比べられていた時のことを思い出していた。
「周りのことを気にする必要ないわ。あなたが苦しい時は私がそばにいてあげる。エレナのことを悪く言う人がいたら私が懲らしめるから。だからあなたは何も気にしなくていいのよ。堂々としていなさい。そうすればきっと大丈夫だから」
「お母さん、ありがとう。私、もう諦めて帰ろうかなって思ってたの。私じゃ陛下に釣り合わないし、このまま帰った方がお互いのためなんじゃないかって」
「弱気になったらだめよ。それに釣り合わないなんてことはないわ。あなたはとっても美人だし、とっても優しいんだから」
「そうだ。俺はエレナほど優しい子を知らない」
「ふふ、2人ともありがとう」
(2人が来てくれて本当によかった)
「あれ、そういえば2人ともどうして王宮きたの?」
「ああ、そうだ。エレナ、怪我はしてないのか?」
「怪我?」
「ああ、王宮で起こった事件の話を聞いていてもたってもいられなくなったんだ」
「そうよ。王宮が襲われたって聞いて寿命が縮んだかと思ったわ」
「見ての通り私は平気よ」
「本当か? エレナはすぐ無茶するからな」
「うっ。確かにちょっと怪我したけど、もう治ったから大丈夫よ」
こんなにも自分のことを心配してくれて、2人には申し訳ないけど少し嬉しかった。




