33. リヒトの罪と真相
「そうか、こいつの話はわかった。でも、それなら俺たちのことも信じて欲しかった。せめてどうして解雇させられたのかぐらいは教えてくれても良かったんじゃないか。まあ、今となってはもうどうでもいいがな」
ヘンリーは自分の死を受け入れたかのようにそう言った。
「さっさと俺を殺してくれ」
ヘンリーはリヒトにそうお願いした。王宮でたくさんの人を殺し、国王すらも殺そうとしたのだから処刑は免れないだろう。
しかしリヒトはヘンリーを見て、少し考えたあと
「断る」
と言った。
「なぜだ? 俺はお前を殺そうとしたんだぞ?」
「ああ。だが、それは俺に原因がある。俺がお前たちを解雇しなければこんなことにはならなかった」
「でも!!」
「これはお互い様だ。お前だけ殺すなんて不公平だろう」
「お互い様って、そんなの許されるはずがない。俺はなんの罪もない人を殺したんだ。それにお前を殺せたら俺自身も死ぬつもりだった。俺にはもう生きる意味なんて……」
「たしかにお前はなんの罪もないものを殺した。それは許されるべきことではない。ならば一生かけて罪を償うべきだ。その命をかけてな」
「どういうことだ?」
「ヘンリー及びその部下の騎士団入団を許可する。この国を、そして国民を守ってくれ」
その言葉に部屋にいるものは皆驚いた。
「陛下、お言葉ですがこの者たちは陛下を、エレナ様を殺そうとした者たちですよ? その者たちを騎士団にするなんて、私は納得できません。きちんと罰を与えるべきです」
エマはリヒトの言葉に強く反対した。アーサーはこの状況を黙って見守っている。
「確かにエレナを殺そうとしたことは許し難い。でも俺があの時もっとしっかりしていればこんなことにはならなかったんだ。これは俺の罪でもあるんだ」
「陛下のおっしゃる罪というのは彼らをやめさせたことですか?」
「ああ、そうだ」
「陛下はどうして騎士団を全員辞めさせたりしたんですか? それをして困るのは陛下のはずです」
エマのいう通りだ。
「それは俺が弱かったからだ」
「弱かった?」
「お前たちには全て話しておくべきなのかもしれないな。あの日起こったことを」
リヒトは初めて自分の過去を口にした。
「あれは今から5年前のことだ。俺には尊敬していた兄さんがいたんだ。兄さんは誰にでも優しくて、頭も良くて次期国王として期待されていた。当然俺も兄さんが国王になるものだと思っていた。でも、そうはならなかった。兄さんは俺がこの手で殺したんだ」
リヒトは一度そこで言葉を切った。
「俺は何も知らなかった。無知でバカだった。兄さんに裏の顔があることも俺がお父様の子供じゃないこともあの時の俺は知らなかった」
それは誰も知らないことだったみたいでこの部屋にいる全員が驚いていた。
「兄さんは俺がお父様の本当の子供じゃないことを前から知っていて、おそらくそれが理由で兄さんは俺のことが嫌いだったんだと思う。でも兄さんはいつだって俺に優しかった。俺は兄さんから向けられる優しさを信じて疑わなかった。俺がもっと早く気づいていればあんなことには」
リヒトはその時のことをひどく後悔している様子だった。
「ある時から、俺は刺客に命を狙われ始めたんだ。それでも俺は全部返り討ちにした。剣術は得意だったから狙われること自体はなんとも思ってなかった。立場上仕方のないことだと思っていた」
淡々と話しているけれど、いつどこに危険が潜んでいるかわからない生活というのは神経がすり減らされるものだろう。
「そんな日が続いて、いつもように刺客が現れたから、俺は迷わず斬った。でも、その日現れたのはいつもの刺客じゃなかったんだ。俺が斬った相手は兄さんだった。その時初めて気づいた。兄さんが俺を殺したいほど嫌いだったことを。俺は信じられなかった。兄さんのことを信じていたから。でもその時の兄さんは俺の知っている兄さんではなかった」
『どうして俺がお前なんかに!! お父様にバレなければこんなことには』
「それが兄さんの最後の言葉だった。俺には何が何だかわからなかった。知らない方が良かったのかもしれない。でも、俺は兄さんが俺を殺そうとした理由を知ってしまった。兄さんは国王になってこの国を操ろうとしていたんだ。それを知ったお父様は兄さんから王位継承権を剥奪して、俺を次期国王にすることにした。元々俺のことが嫌いだった兄さんは俺が国王になることが許せなかった。だから殺そうとした」
(それって、陛下は何にも悪くないじゃない。ただの八つ当たりだ)
「それから俺は俺がお父様の本当の子供じゃないと聞かされた。その時、俺は目の前が真っ暗になった。今まで信じてきたもの全てに裏切られた気分だった。俺がお父様の本当の子供だったら、兄さんは俺を恨むこともなかったのかもしれない。俺が兄さんを殺すこともなかった。あの時の俺はもう何もかもどうでも良くなっていたんだ。こんな悪夢、全部なかったことにしたかった。だから、俺は両親を殺した」
「本当は薄々気づいてたんだ。兄さんと俺とではお父様の扱いが違っていたから。お母様も俺を愛してはいなかった。俺を見る目はいつも冷たかった。そんなお母様の最後の言葉は『お前なんか産むんじゃなかった』だった」
それはエレナ自身、何度も言われ何度も傷ついた言葉だった。
「それで誰も信じられなくなった俺は、あの時王宮で働いていた者全員辞めさせたんだ。俺は暗闇の中にいた。、そんな俺を救ってくれたのがクリスタとルイスだった」
(そう言えばクリスタは陛下が幼い頃から仕えているって言ってたわ)
「クリスタは実の親よりも俺に愛情を注いでくれた。ルイスは幼い頃から剣を交えあっていて、兄弟のような関係だった。あいつらは俺がしたことを責めなかった。ただ俺のことを信じてくれた。だから、彼らだけは信じられた。でも、だからといって辞めさせていい理由にはならない。君たちには申し訳ないことをした。あの時、信じてあげられなくてすまなかった」
その言葉はヘンリーに向けられていたが、ヘンリーは何も言葉を発することができなかった。リヒトにそんなことがあったなんて知らなかったのだろう。
リヒトが国王になりたくて、家族を殺したのだという噂は国民なら誰もが知っている。でも、実際は全然違っていた。




