30 守りたい人
アーサーに守られながら進んでいるといつの間にかリヒトのいる部屋の前に着いていた。
「エレナ様、こちらのお部屋にお入りください。ここは私が死守しますから」
そう言われたエレナはアーサーの言う通り部屋の中に入った。
ドアを開けると、剣を構え警戒しているエマがいた。エマは驚いた顔をしながら近づいてきた。
「エレナ様!? どうして?」
「エマ! よかった無事だったのね」
そういいながらエレナが近づくとエマが怪我していることに気がついた。
「肩から血が!!」
「これくらいかすり傷です」
「だめよ、ちゃんと手当しなきゃ」
そう言ってエレナは簡単な応急処置をした。その時、肩だけではなく身体中怪我していることに気づいた。
「よく見たら身体中傷だらけじゃない」
「この程度の傷、死んでいった仲間たちに比べれば大したことありませんよ」
辛そうにそういうエマの顔を見てエレナはそれ以上何も言わなかった。きっと目の前で何人も仲間を殺されたのだろう。
「そういえばエレナ様はどうしてこんなところに」
エマがそう言いかけた時、乱暴にドアが開かれ敵が数人、部屋に入ってきた。
「エレナ様、お下がりください」
エマは素早く立ち上がりエレナを守るように前に立ちはだかった。
(どうして……。扉の前には騎士団の人がたくさんいたはずなのに)
その時、死守すると部屋の前で言ったアーサーが倒れているのが見えた。あんなに強いアーサーでも負けたとなると、エレナたちの勝ち目は0に等しい。
部屋に入ってきたのは全員で7人だった。怪我をしてるエマが1人で戦って勝てるわけがない。エレナは持っていた剣を握りしめ、立ち上がった。
(私だって助けられてばかりじゃいられないわ)
エレナはエマの隣に立った。
「エレナ様!? 何してるんですか? 早く私の後ろに!!」
「後ろにいたって危ないことに変わりないわ。それなら私もエマと一緒に戦う。私も守りたいから」
「エレナ様……」
2人が話していると部屋に入ってきた人が話しかけてきた。
「別に君たちを傷つけるつもりはないんだ。俺はリヒト・デュンヴァルトを殺せたらそれでいい」
(やはり彼らの目的は陛下だったのね)
「だったら尚更ここを譲るわけにはいかないわ。陛下を、国民を守るのが私の役目ですから」
エマは怯むことなく彼らに言った。そんなエマを見ると自然と力が湧き上がってくる。
「自ら死に向かってくるとは愚かだな」
そう言って彼らは剣を構えてこちらに向かってきた。
(は、早いっ!!)
敵の攻撃は目にも止まらぬ速さだ。しかし、エマは敵の剣を難なく受け止めていた。おそらく1対1だったら勝てていただろう。それを見た奴らは次々とエマに襲いかかった。肩を負傷しているエマはそれでもなんとか敵の剣を捌いていた。
エマの戦いを見ていると、敵がこちらにやってくるのが見えたのでエレナは剣を構えた。
エレナもなんとか敵の剣を受け止めた。しかし、訓練をしていないエレナにとって彼らの剣は重く、弾き飛ばされてしまった。
「きゃっ」
「エレナ様!!」
エマがエレナに気を取られた一瞬。敵は躊躇うことなくエマに斬りかかった。
「ああああっ」
一瞬、判断が遅れてしまったため、エマは防御が遅れ左手首を切られてしまった。
「エマっ!!」
エレナはよろよろになりながら立ち上がり、左手を抑えうずくまっているエマに駆け寄った。
「ふっ。最後にもう一度警告してやろう。そこをどければ2人とも助けてやる。どかなければ今度こそ2人ともあの世行きだ」
しかし、エレナもエマも敵に譲るつもりは一切なかった。エレナは剣を構え直し敵を睨みつけた。エマも左手を庇いながら剣を構え直した。
「ここをどけるつもりはないわ。私はもう、逃げない」
「敵を前にして逃げるなんて剣士の恥だわ。そんなこと死んでもするもんですか」
「そうか。では望み通り殺してやるよ」
そう言って敵はこちらに向かってきた。正直2人とももうほとんど動けなかった。エマはもともと肩を怪我していたのに、左手首も切られボロボロの状態だ。エレナも先ほどの攻撃で壁に身体を打ちつけられ、身体中が痛い。立っているのがやっとの状況だ。
エレナはリヒトも守りたかったが、同時にエマも守りたかった。だから、一歩前に出てエマを守るように敵の攻撃を受けた。後ろには守りたい人がいる。そう思うだけで自然と力が湧いてくる。敵の2手目の攻撃はエマが抑えてくれた。
しかし、刃はまだ降り注いできた。2人とも攻撃を剣で受けているため次の攻撃を防ぐ術はない。剣はもう2人の目の前まで迫っていた。ただどうすることもできず、エレナは目を瞑った。
ここまでか。王宮に来たことを後悔はしていない。最後に陛下の顔を見れたんだ。ただ、お母さんとお父さんにまた会いに行くって言ったのにその約束が果たせないことが心苦しい。
(お父さん、お母さん、ごめんなさい。2人とも、お元気で)
心の中で2人に別れを告げた時、カキンッと言う剣と剣のぶつかる甲高い音が部屋の中に響いた。




