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27 エレナを想う気持ち

 

 振り返らなくても誰がいるのか何となくわかる。おそらく私が王宮にいた時よくしてもらった人たちだろう。彼らは勝手に出て行った私のことを怒っているだろうか。それとも、心配してくれていたのだろうか。エレナを呼ぶ声音からは後者のような気がした。


 エレナは思わず足を止めてしまったが、申し訳なくて彼らの顔を見ることは出来なかった。その時、エレナを呼び止めたうちの1人に話しかけられた。


「エレナ様。ご無事で本当に良かったです」

 少し泣きながら優しい声でそういうのはクリスタだ。クリスタには一番お世話になったし、何より辛い時に一番支えてもらった。


「エレナ様、私、ずっと心配でっ」

 そう言って泣きじゃくるのは副団長のエマだ。エマが近くにいるだけで心強かった。それに自分を貫いている姿はエレナにとって憧れそのものだった。


「エレナ様、また行ってしまわれるのですか?」

 寂しそうにそう言ったのは料理長だ。料理長にはたくさんの料理を教えてもらった。今、街のみんなに喜ばれる料理が作れているのは間違いなく料理長のおかげだ。


 彼らから本気でエレナを心配していることが伝わってくる。その声を聞いてようやく気づいた。ここにも私の居場所があったことに。


 彼らは私が陛下の婚約者だから優しくしてくれたんじゃなくて、『私』に優しくしてくれていた。それなのに私は彼らを疑って逃げて。そんな自分が本当に嫌になる。


「迷惑かけて、心配かけてごめんなさい。それから、ありがとう」


 それだけ言ってエレナは逃げるように王宮から飛び出した。

(みんな怒るどころか私を心配してくれて、それなのに私は……)


 とにかく王宮から離れたくて急いで馬車に乗って、サラとロイスがいる街へと向かった。


 今はみんなの優しさが苦しい。怒ってくれたらよかったのに、なんて思ってしまった。

「最低ね」

 エレナは馬車の中から王宮を眺めながらボソッと呟いた。その瞳からは涙が溢れていた。


 それから、数日かけて街についた。時間があったおかげで少し冷静になることができた。

 街に着くと、色んな人が出迎えてくれた。そのことに少しホッとした。


 そして、彼らの騒ぎを聞きつけたのかサラとルイスがやってきた。

「エレナ、おかえり」

「さあ、俺たちの家に帰ろう」


 家に着くと、すぐに食事を用意してくれた。

「ねえエレナ、もし悩んでることとかあったら遠慮せず、私たちに相談してね。あなたは、私たちの娘なんだから」


(私が悩んでいることに気づいてすぐ手を差し伸べてくれる。だからつい彼らには甘えてしまう。でも、これは私の問題だから)


「エレナ。俺はエレナが過去の話をしてくれた時、本当に嬉しかったんだ。やっと俺たちに心を開いてくれたんだって。だから、無理にとは言わないけど、1人で溜め込まずに俺たちに言って欲しい」


 ロイスさんの言葉を聞いた途端、気づいたら泣きながら話していた。本当は2人に話して楽になりたかったのかもしれない。


「私の、私のせいで、陛下が死んじゃうかもしれない」

 2人はエレナの背中をさすりながら泣き止むの待った。


「陛下がまだ目を覚まされていないんです。もしかしたら、もう目を覚まされないかもしれなくて。私なんかを庇ったから」


「……ねえ、エレナは陛下のことどう思ってるの?」

「どうって?」

「だってエレナは何も悪くないのに牢に入れられたり、陛下のために行動していたのに、あなたを見捨ててひどい目にあったんじゃない。私はいくらこの国の王様だとしてもそんな人とても許せないわ」

「正直、俺もサラと同じ意見だ。こんなにいい子を傷つけたんだ。それなのにどうしてエレナはそんなに陛下のことを気にかけてるんだ?」


(確かに見捨てられたことはショックだった。でも、私にはわかる。陛下も傷ついた経験があるんだってことを。だから、簡単に人を信用できなくなってしまったんだって)


「私は、確かにひどい目に遭いましたが、それでも陛下に救われたことは確かで。それに、私がいなくなって半年ずっと探してくださっていたみたいなんです。あと、陛下が刺された時、私を守れて良かったっておっしゃって。だから」


「そう、あなたは陛下のことが……」

「サラさん?」

「いえ、何でもないわ。それで結局あなたは陛下のことが心配でそばにいたいんでしょ?」


 何もかも見透かされて少し恥ずかしい気持ちになる。確かにサラのいう通りエレナはリヒトのそばにいたかった。でも、エレナには一つ心残りがあった。こんなに2人によくしてもらったのに、エレナは彼らにまだ何も返せていなかった。


「エレナ、俺たちのことは気にするな」

「えっ?」

「そうよ、あなたのしたいようにすればいいのよ」

「でも、私はお二人からたくさんのものをもらったのに私は何も」

「そんなことないわ。私たち、あなたには本当に助けられたのよ」


(私に助けられたというのはお店を手伝ったことだろう。でも、それは私も働く場所が欲しかったから。私は精神的な面でも彼らに助けられた。それに彼らは素性も知らない私にすごく良くしてくれて、それがどれだけ嬉しかったか)


 エレナが納得していない顔をしていると、

「ねえ、エレナ。それならあなたにして欲しいことがあるのだけど」

「何でしょうか? 私にできることなら」


 ちょうど彼らに何かしたいと思っていたので、できることなら何でもしたい。しかし、サラに頼まれたことは意外なことだった。


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