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26. 知らなかった想い

 

 王宮の門の前には当然、門番が立っていた。

「あの、陛下に用があってきたのですが」


 エレナは勇気を出して話しかけた。そんなエレナを門番はジロジロと見た。

 そして、見下すように

「ここはあなたみたいな人が来るところじゃありませんよ」

 と言った。


 確かに今のエレナはどこからどう見てもただの庶民だ。普通の庶民は陛下に用事なんてあるわけがない。彼が怪しむのは当然のことだ。

 エレナが立ち尽くしていると、門番が近づいてきた。物理的に追い出すつもりだろうか。


 そう思うと怖くて、帰ろうと振り返った時誰かにぶつかった。

「ご、ごめんなさい」

「すまない、大丈夫か?」


 そう言って、手を差し伸べてくれたもののこの人も男性だ。前も後ろも男性であの時の恐怖が蘇ってきた。手が震え、呼吸が荒くなり始めた時、

「エレナ様?」

 という聞き覚えのある声がしたので見上げると、そこには騎士団長であるルイスがいた。

「ル、ルイス様!?」


「ルイス様、この方とお知り合いですか?」

「ああ」

 門番が(いぶか)しげに聞いてきた。庶民のエレナが騎士団長と知り合いであること、様付けで呼ばれていることを不思議に思ったのだろう。


「エレナ様。聞きたいことはたくさんありますが、とりあえず中に入りましょう」

「ありがとうございます」


 エレナはルイスの後ろをついていき、半年ぶりの王宮に足を踏み入れた。


「エレナ様、ここには陛下に会いに来られたのですか?」

 歩きながらルイスにそう聞かれた。実際、ルイスの言う通りリヒトに会いにきた。でも、勝手に王宮を出ておきながら、今更会いに来るのはやはり自分勝手すぎるのだろうか。


「ごめんなさい。勝手にここから出て行った私はもう陛下にお会いする資格がないことはわかっています。でも、陛下にどうしてもお聞きしたいことがあるんです」

「……そうですか。では陛下のお部屋にご案内いたします」


 ルイスは何か言いたそうにしながらも、案内してくれた。

(陛下にお会いしたらまずは王宮を勝手に出たことを謝って、それから助けていただいたことのお礼と怪我をさせてしまったことの謝罪をしないと)


 エレナはリヒトに言いたいことを考えていた。だからルイスが執務室に向かっていないことに気づくのが遅れた。

「あの、ルイス様。どこに向かっているのですか? 陛下の執務室はこちらではありませんよね?」

 この時間なら執務室にいるはずだ。

 でも、ルイス様は何も言わなかった。もう一度聞けるような雰囲気ではなくエレナも黙ってルイスについて行った。


「エレナ様。陛下はこちらのお部屋にいらっしゃいます」


 エレナは一度深呼吸をして案内された部屋におそるおそる入った。

「失礼致します」

 でも部屋の中にリヒトの姿は見当たらなかった。その代わりベッドにもたれかかって寝ているアーサーがいた。

(どうして彼がここに?)


 しかし、エレナの気配を感じたのかアーサーは目を覚ました。

「エレナ様?」

「あの、陛下がこちらにいらっしゃると伺ったのですが」

 エレナがそう言うと、アーサーは一瞬顔を歪めて言った。


「陛下はこちらで寝ておられます」

 ベッドに近づくと確かにそこにはリヒトが寝ていた。

「寝ていらしたのですね。それなら、陛下が目を覚まされたらまた来ますね」

 エレナは小声でアーサーに言った。

「陛下は刺されたあの日から目を覚ましておりません」

「えっ!?」


 だってあの日から1週間は経っている。それなのに、まだ目が覚めていないなんて。

「あの、陛下は目を覚ますんですよね?」

「わかりません。もしかしたら、もうこのまま目を覚まされないかもしれません」

「そんな……。私のせいだ。私が刺されるべきだったんだ」


 エレナが自分のことを責めていると、急にアーサーが話し始めた。

「陛下はずっとエレナ様のことを心配しておられました。また嫌な思いをしているのではないかと。だからエレナ様が見つかり、幸せそうに暮らしていると聞いて心から安心した様子でした」


 まさか自分のことをそんな真剣に探しているとは思いもしなかったので驚いた。

「陛下があの街にいたのは、最後に笑っているエレナ様を一目見たかったからなんです。だから陛下はエレナ様の幸せを守れて喜んでいると思います」


(私の幸せを願ってくださっていたのに、私は……)


「ごめんなさい。私のせいで陛下がこんな目に」

「エレナ様のせいではありませんよ。私は仕事が溜まっているのでそろそろ失礼します」


 そう言ってアーサーは部屋から出て行った。平気そうにしているけど、1番近くにいたのはアーサーだ。辛くないはずがない。そう思うと、アーサーにも申し訳ない気持ちでいっぱいだった。



 エレナはベッドの隣に椅子を持ってきて、座った。

(やっぱり陛下は美しいわ。私とはどう頑張っても釣り合わない)

「陛下。私はあなたが命をかけてまで守るべき価値のある人間なのでしょうか」

 そう問いかけてみても何の反応もない。これ以上ここにいるのが辛くて足早に部屋をでた。


 部屋を出ると、ルイスが待ってくれていた。

「エレナ様、お部屋をご用意してります。今日はそちらでお休みください」

「いえ、せっかく用意してもらって申し訳ありませんが、今日は街の宿で休むので大丈夫です」


 そう言って王宮から出ようとした時、後ろから数人の足音と

「「「エレナ様!!」」」

 と言う声が聞こえた。


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