25. 命にかえても守りたい
「お前なんか、死ねばいいんだ」
そう言った時ようやく女性の存在に気づいたようだ。
「お、お姉様?」
エレナはそこから動かなかった。否、動けなかったのだ。
(どうしてここにお姉さまが?)
リヒトは2人がいるところに向かってひたすら走った。
「あんただけは絶対許さない。あんただけ幸せになるなんて許せないっ!!」
「エレナちゃん、逃げて」
「早く!!」
エレナと話していた人たちが逃げるように促すが、エレナは金縛りにあったかのように動くことができなかった。
「殺してやる」
ナイフがエレナの心臓に刺さる直前、リヒトはエレナの前に立ち塞がった。
グサッ
「くっ」
お腹を刺されたリヒトはその場に倒れた。
「陛下っ!!」
アーサーが駆け寄ってくるのが見えた。
「へ、陛下?」
エレナは何が起こったのか分からなかった。
「はあはあ。す、すまない。お前の幸せを、壊したくはなかった。でも、今度は、ちゃんと守れてよかった」
薄れていく意識の中、リヒトはエレナにそう伝えた。そして、話し終えた途端リヒトは意識を失った。
「な、なんで? どうして私なんか」
エレナは目の前で起こった出来事に頭がついていかなかった。
ナイフを持ったロゼッタ。
それを庇って代わりに刺されたリヒト。
どうしてリヒトがここにいるのか。
どうして自分を庇ったのか。
何もわからなかった。
「エレナちゃん、大丈夫かい?」
周りにいた人が話しかけてきてようやく我に帰った。周りを見るとリヒトもロゼッタもいなくなっていた。
それから騒ぎを聞きつけたロイスとサラが来るまでエレナはその場に座り込んでいた。
「エレナ? 大丈夫?」
「何があったんだ?」
「ロイスさん、サラさん。私、どうしよう」
「エレナ。とりあえずお店の中で話を聞くから、中に入りましょう」
何か只事ではないことが起こったのを感じ取ったのか、サラは店の中に入るよう促した。
エレナは2人に支えられながら店の中に入った。
「それで、一体何があったの?」
もし今までのことを全てを話したらここにいられなくなるかもしれない。それでも、心配そうな顔をしている2人を見ると、黙っているわけにはいかなかった。たとえここにいられなくなっても、2人には本当の自分を知ってもらいたかった。エレナは覚悟を決めた。
「話すと長くなるのですが」
そう前置きしてエレナは話し始めた。侯爵家の生まれであること、男嫌いになった理由、陛下の婚約者だったこと、王宮から逃げ出してきたこと。
ロイスとサラは邪魔することなく最後まで聞いてくれた。下を向いて話していたエレナが、顔をあげると2人とも涙を流していた。
「ロイスさん、サラさん」
「エレナ、あなた、今まで辛い思いをしてきたのね」
「ああ、何か事情があるのはわかっていたが、そんなことがあったなんて。よく頑張ったな」
そう言って2人ともエレナに抱きついた。
しかし、ロイスは
「あ、すまない。つい」
と言って離れようとしたロイスをエレナは咄嗟に抱きつき返した。
「エレナ? 大丈夫なのか?」
「ロイスさんは、大丈夫です」
そういうとロイスは笑いながら泣いていた。もうロイスのことは怖くなかった。
それからしばらく3人で抱き合っていた。
「それでエレナはこれからどうするの?」
「それは」
自分でもどうすればいいのかわからない。自分のせいでリヒトが刺されてしまった。でも、自分なんかを命懸けで守る理由がわからなかった。あれから半年も経っているのだ。もう、自分のことなんて忘れていると思っていた。シャーロット様と幸せになっていると思っていたのに。
「私はどうすればいいんでしょうか」
「エレナはどうしたいんだ?」
「私は」
もちろんここにいたい。サラとロイスは優しいし街の人とも仲良くなれて、ようやく見つけた自分の居場所だと思った。でも、どうしてもリヒトに聞きたかった。
どうして、ここにいたのか。
なぜ自分を助けたのか。
ただ、今のエレナは庶民だ。そんな簡単に陛下に会える身分ではない。
「エレナ、あなた王宮に行きたいんでしょ?」
サラがエレナを見透かしているように言った。
「でも、私は」
「行くだけ行ってみればいい。ダメなら帰って来ればいいだけだ。エレナが後悔しないと思う選択をすればいい。俺たちはエレナが幸せになるためなら全力で応援する」
(どうしてこの人たちはこんなに優しいのだろうか。いつだって私の背中を押してくれる)
「私、王宮に行ってきます」
「ええ、あなたのしたいようにすればいいわ」
「気をつけて行くんだぞ」
その日はゆっくり休んで、翌日王宮に向けて出発することにした。
翌朝、馬車に乗る準備をしていると街の人たちはもうエレナが帰って来ないと思ったのか、必死に止めようとしたり涙を流す人で溢れた。エレナは戸惑いながらも彼らに帰ってくることを伝え、なんとか出発できた。
エレナは馬車の中で街の人たちのことを考えていた。私が街からいなくなると、涙を流して止める人たちがいることが嬉しかった。あのお店だけではなく、あの街に私の居場所はちゃんとある。
それからしばらく馬車に揺れた。王宮に近づくにつれ緊張してきた。あんな風に出て行ったのだ。みんな怒っているかもしれない。
それから数日後、ついに王宮に着いた。




