22. 理想の家族
案内された家は彼らのいう通り広かった。
「すぐ夕飯の準備するわね。って、そういえば明日の朝食が足りないわ」
「あ、私一食くらい食べなくても平気なのでお二人が召し上がってください。元々はお二人のですし」
「エレナ。何度も言っているが遠慮する必要はないんだ」
「ええ、特にあなたは細いんだからしっかり食べないと」
「明日の朝は店に行って食べるか」
「ええ、そうしましょ」
「ご、ごめんなさい。私のせいで」
「別にエレナのせいじゃないわ」
「そうだ。明日の夕食は俺が腕によりをかけて作るからエレナの歓迎会をしよう」
「い、いえ。明日からは宿に泊まるので大丈夫です」
「ああ、そうだったな。俺はこのままこの家にいてくれてぜんぜん構わないんだけどな」
「そうよ、あなたが嫌じゃなければずっとここにいればいいわ」
「いえ、そこまで迷惑をかけるわけにはいきませんから」
「そう、残念ね」
そう言ったサラとロイスは本当に残念そうな表情を浮かべていた。
出会って間もない彼らがどうしてこんなに優しくしてくれるのかエレナは不思議だった。
(でも彼らとならここでもやっていけそうだわ)
エレナは安心して眠りについた。
翌朝、3人で食堂に向かった。朝食を食べた後、エレナは店の掃除や仕込みの手伝いをした。
店が開店した後はロイスと厨房に入った。厨房と言っても、まだできることはほとんどなくて今日は食材をロイスさんに言われた通りに切ることと皿洗いを主にした。
昼のピークは過ぎて休憩に入った。
(はあ、疲れたわ。でもまだ夜もあるし、頑張らないと)
王宮で過ごしていたエレナにとって、ずっと立ちっぱなしで作業することはしんどかった。
「エレナ、大丈夫? 無理そうなら遠慮なく言ってね」
「大丈夫です」
(無理することは慣れてるから)
そして、夜も相変わらずたくさんのお客さんが来た。夜も仕事内容は昼と一緒だった。やっとお客さんが帰った頃にはもうくたくただった。でも今日は宿屋で泊まらないといけないから、疲れ切った足をなんとか動かし2人に教えてもらったこの街で一番安い宿屋に向かった。
「しばらくこちらに泊めていただきたいんですけど」
しかし、宿屋に来てあまり所持金がないことに気づいた。ここにくる馬車代で王宮から持ってきたお金はほとんど使ってしまった。
(これだと3日しか泊まれないわ。でも一度断ったのに彼らの家に泊めてもらうのは流石に気が引けるわ。明日給料を先に少しいただけるか聞いてみるしかないわね)
その日は布団に入って目を閉じた瞬間夢の中だった。こんなに疲れ切った翌日でもいつも通り朝早く目が覚めた。
今日もすることは昨日と同じだった。ただ、昨日とは違うのはすでに体がしんどいということだった。それでも必死に体を動かした。ここから追い出されないように。
(私にもできる仕事なんてそんなにないから、ここを追い出されたら困る)
その日も布団に入った瞬間眠りについた。
次の日も同じ作業を繰り返した。
(少しずつ慣れてきたわ。後は体が慣れてくれれば)
エレナの疲れは確実に溜まっており昨日より明らかに効率が悪かった。しかし、ロイスとサラはエレナを責めることはなかった。
「ねえ、ロイス。あの子絶対無理してるわよね」
「ああ、そうだな。慣れてないからしょうがないことなんだが、休めと言って休むような子じゃないよなぁ」
「そうよね。無理してほしくないんだけど。次のお休みまで2日あるし」
「一応休むように言ってみるか」
「ええ、素直に休んでくれたらいいんだけど」
エレナが休憩していると、サラとロイスが真剣な顔をしてやってきた。
(もしかして、私何かやらかした?)
「なあ、エレナ。明日一日休みをあげるからゆっくりするといい」
「そうよ。私たちは慣れてるから大丈夫だけど、あなたはしんどいでしょう?」
「ご、ごめんなさい。明日はもっと頑張ります。だからどうかここにいさせてください」
「エレナ、落ち着け。君は頑張り過ぎだ。休んだほうがいい」
「私はそんなに役立たずですか?」
涙をこぼしそうになりながらエレナは2人に尋ねた。その姿を見てサラはエレナを抱きしめた。
「そんなことないわ。あなたには本当に助けられている。でも、あなたがしんどそうにしているのをみるのは辛いの。お願いだからもっと自分を大事にしてあげて」
その言葉にエレナはボロボロと涙をこぼした。
「ありがとう、ございます」
「それと、宿からだとここまで遠いでしょ? やっぱりうちに泊まる気はない?」
「その、実は」
エレナはお金が足りないことを話すと、2人は家に泊まることを快諾してくれた。
「もう、もっと早くいってくれればよかったのに。あなたとは家族みたいな関係になれたらいいなって思ってるのよ」
(家族、か)
エレナは2人の子供なら幸せだろうなと思った。暴力なんて絶対しないし、ご飯もきちんと食べさせてくれる。当たり前なのかもしれない。でも、エレナにとってはそれで十分だった。
(それにたくさんの愛を注いでくれるんだろうな)
今日は3人で一緒に帰った。まるで家族みたいで嬉しかった。
「子供がいたらこんな感じなのかしら」
「そうだな。俺もそう思ってた」
「私も2人の子供だったらいいのになって思ってました」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
「ああ、俺たちのこと親だと思ってもいいんだぞ」
その言葉にまたエレナは涙をこぼしそうになった。




