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21. 本当の優しさ

 

 エレナは行き先を決めていなかったが、ひたすら馬車で遠くへと進んだ。あまり王宮に近いと、噂話とかも耳に入るかもしれないからだ。王宮にいた時のことは忘れたかった。


 馬車を乗り継ぎ数日が経ったころ、小さな街にたどり着いた。

(ここまでくれば大丈夫ね。この街は綺麗で静かないい街だわ)


 しかし、ここまで来たのはいいもののこれからどうするかは何も決めていなかった。逃げるように王宮から出たのでこれからのことを考えてなかった。ただ、生きていくためにお金は必要だ。

(私にできることって何かあるかしら)


 ひとまず求人募集をしている掲示板を見に行くことにした。そこには、お屋敷のメイドや町の警備隊などいろんなものがあった。しかし、どれもピンと来なかった。

(できればあまり男性と関わらないものがいいのだけど)

 選んでいる余裕はないのかもしれないがこれだけはどうしても譲れなかった。


 掲示板の前で悩んでいると、後ろから優しそうな夫婦に声をかけられた。

「仕事を探してるのかい?」

「は、はい。でも、私にできるのか悩んでいて」

「よかったら、うちで働かないか?」

「えっと……」

「ああ、私たちは夫婦で食堂をしているんだけど、2人だとキツくてね。君が良ければうちで働いてくれると助かるんだけど」

「食堂ですか。それなら、見学させていただいてもいいですか?」

「ああ、もちろんだよ」


 それから2人のお店に向かった。

「ここが私たちのお店よ」

 中に入ると、決して広くはないがとても綺麗でエレナは一瞬でここを気に入った。

「とても素敵なお店ですね」

「ありがとう。嬉しいよ」

「もし君がうちで働いてくれるなら、君には厨房か接客をしてもらいたいんだが」

(接客は男の人がいたらと思うと怖いけど、厨房ならできるかしら)


「まあ、実際のお店の雰囲気を見て決めてくれても構わない」

「そうね。見ないとわからないこともあるだろうし」


 それから数時間後。

 開店した途端、続々とお客さんが入ってきた。どうやらここは人気店のようだ。お客さんが後をたたない。確かにこれを2人でというのは厳しそうだ。

「私も手伝います」


 ここの料理の作り方についてはわからないので、机を片付けたり食器を洗ったりエレナでもできること見つけ手伝った。


 ようやくお客さんが途絶えた頃には2人とも疲れ切っていた。


「ありがとう。おかげでなんとかなったよ」

「ええ、本当に助かったわ。それでここで働いてくれるってことでいいの?」

「はい、私をここで雇ってください」

「助かるよ。そういえば、自己紹介がまだだったな。俺はロイス・リーヴァだ」

「私はサラよ、よろしくね」

「私はエレナです。ロイスさん、サラさん、よろしくお願いします」

「エレナね。素敵な名前だわ。ところでずっと気になっていたのだけどあなたはどうしてこの街に来たの?」


「えっと、それは……」

「あ、ごめんなさい。会ったばかりの人に話しにくいわよね」

「すみません」

「よし、この話はこれで終わりだ。さてエレナには何をしてもらおうか。何か希望とかあるか?」

「私はできれば厨房がいいです」

「料理が得意なのか?」

「えっと、得意というか少しできるくらいです。でも、ちょっと男性が苦手なので接客はあまり」

「なるほどな、じゃあ厨房と皿洗いをお願いしようかな。それと言いにくいことかもしれないが男性が苦手というのはどのくらいのレベルのものなんだ?」

「触られるのはちょっと。あと近づかれるのも怖いです。ごめんなさい」

「エレナが謝ることじゃない。俺も気をつけるがもし嫌なこととかやめて欲しいことがあったら遠慮なくいってくれ」

「あ、ありがとうございます」


(とっても優しい方だわ。普通こんなこと言われたら気分を害してもおかしくないはずなのに)


「よしじゃあ、明日から3人で頑張ろう。ところでエレナはここに来たばっかりなら泊まるとこはあるの?」


(そ、そうだった。仕事のことばっかりで他のことは何も考えてなかった)


「その様子だとなさそうね」

「す、すみません。でも今ならまだ間に合うかもしれなので、宿を探しにいってきます。それではおやすみなさい」

「ちょっと待って。うち広いからエレナ1人くらいなら問題ないわ。それに今日手伝ってくれたお礼もしないとだし」

「で、でも」

「遠慮するな。こういう時は甘えとけばいいんだよ」

「あ、ありがとうございます」


 申し訳なかったが、嬉しくもあった。

 王宮にいる時エレナはずっと不安だった。王宮の人たちは優しくしてくれたけど、それは自分がリヒトの婚約者だから優しくしてくれるのではないか。そんな人たちではないと思っていたけれど、他人がどう思っているかなんて本当のところはわからない。エレナが庶民でも同じように優しくしてくれるかと言われたら正直わからない。


 でも、彼らはエレナが侯爵家だということも陛下の婚約者だったということも知らない。今のエレナは何もないただの『エレナ』だ。それなのに優しくしてくれるのはきっと彼らが優しいから。エレナは初めて本当の優しさに触れた気がした。


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