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20. エレナの決意

 

 エレナとシャーロットが仲良くなった頃、いまだに有益な取引が結べないシャーロットを見てエレナはある話を持ちかけた。


「シャーロット様」

「どうしたの? そんなに改まって?」

「あの、陛下と婚約していただけませんか?」

「どうして? 私は2人の邪魔をするつもりはないわ。確かに婚約のためにこの国に来たけど、クロデリア王国と友好関係を築ければ婚約じゃなくてもいいのよ」

「ですが、誰が見たって陛下とシャーロット様はお似合いですし、私は王妃になれる器ではないですから」

「そんなことないわ。あなたは誰に対しても優しいし、とっても魅力的な女性よ。それに陛下はエレナに好意を抱いているわ」

「今は、です。私には何もないですから」

 今にも泣きそうなエレナを見て、シャーロットはそれ以上何も言えなかった。



 エレナが急にこんなことを言い出したのにはもちろん理由があった。


 王宮の廊下を歩いている時に大臣たちが話しているのを聞いてしまったのだ。


「プロセント王国の王女様が婚約を申し込んでいるのだから、我が国の侯爵家よりどちらの方が国のためになるかなんて一目瞭然なのに、陛下はどうしてお受けしないのかわかりかねる。やはりあの方は国王に相応しくないな」

「話に聞いたところだと、侯爵家の娘はダンスなど令嬢として当たり前のことができないらしい。王女様は政治にも詳しい聡明な方だと言うのに。こんなの比べるまでもないだろう」


 その会話を聞く前からもちろんわかっていた。自分より彼女の方がふさわしいということは。エレナはシャーロットより優れたものを何一つ持ち合わせていない。


 今はエレナを好いていても、シャーロットみたいな優しくて美しくて聡明な人がそばにいたら好きにならないはずがない。いつかは捨てられることになる。それならばそうなる前に自分から去ればいい、そう思いシャーロットに婚約の話を持ちかけた。


 しかし、何度頼んでもシャーロットは受け入れてくれなかった。シャーロットはリヒトがエレナのことを好きだということを知っていたし、何より2人はお似合いだと思ったから断った。


 その間もエレナは何度かシャーロットを支持する声を聞いた。それは同時にリヒトとエレナを批判するものでもあった。


『シャーロット様ほど完璧な人もなかなかいないよな』

『やはり家族を殺した人に国王は無理なんだ』

『エレナ様も身を弁えろって話だよな』


(身を弁えろ、か。その通りだね)


 エレナは踵を返し、部屋に戻ろうとした。その途中リヒトとシャーロットが楽しそうに話している姿を目撃した。

(ああ、まただわ)


 エレナは2人が楽しそうに話している姿を何度か見かけたことがある。自分にしか向けたことの無い笑顔も彼女には見せていた。きっとリヒトとシャーロットは想いあっている。



 その夜、エレナは王宮をこっそり抜け出した。なぜかわからないが今日は騎士団のみんなが忙しくしていて門には誰もいなかったため、誰にもバレずに抜け出すことができた。


(さよなら)


 エレナは心の中で別れを告げ、一度も振り返ることなく、闇へと姿を消した。






 エレナがいなくなったことにみんなが気づいたのは、翌日の昼前のことだった。クリスタとエマが部屋に行くとそこには誰もいなかった。ここ最近、エレナはリヒトを避けていたので、出迎えがないことにリヒトは疑問を持たなかった。


 エレナがいなくなって王宮中を探している時、エレナの部屋に一通の手紙が置いてあることに気づいた。


「お世話になった皆様へ


 勝手にいなくなってしまい申し訳ございません。陛下の婚約者は私より、シャーロット様の方がふさわしいと思います。それは誰もが思っていることで私自身もそう思います。

 陛下、シャーロット様、身勝手な私をどうかお許しください。

 今まで幸せな時間を過ごさせていただき、ありがとうございました。さようなら。


 エレナ」


「エレナ……。くそっ。まだ、そこまで遠くにはいってないはずだ。手の空いているものはエレナを探しに行ってくれ」

「どうしてなの? エレナ、私は何度も断ったじゃない」

「!! シャーロット、何か知ってるのか?」

「は、はい。実は少し前からエレナに陛下と婚約してくれと頼まれていたんです。もちろん断っていたんですけどまさか何も言わずに出て行くなんで」

「そうか、クリスタとエマは何か聞いてないのか」

「いえ、何も」

「私も何も聞いてないです」


(俺がもっとエレナの話を聞いていればこんなことには)


 リヒトは昨日全ての奴隷商に騎士団を向かわせ、奴隷商を全て潰すことに成功した。

 シンクレア家についても爵位を剥奪し、庶民にすることができた。貴族が庶民になることは、滅多にないので、これからシンクレア家は貴族から冷たい目で見られるに違いない。庶民は貴族をよく思っていない人が多いので、元貴族の彼らは庶民から酷い目に遭わされるだろう。


 本当はリヒト自身が彼らに罰を与えたかった。しかし、そのためにはエレナがされたことを言わなければ大臣たちは納得しない。それだけはできなかった。リヒトの怒りを発散するためにエレナを傷つけては元も子もない。


 しかし、シンクレア家にとって今まで下に見ていた庶民になることは何よりも耐え難いことだった。庶民になるくらいなら死んだほうがマシだと考えるほどには。


 そして、エレナを奴隷にしたやつは牢に捕らえた。あの男は貴族ではないので、消えたところで大した騒ぎにはならないだろう。昨夜、騎士団長のルイスに秘密裏に捕らえさせた。こいつが牢にいることはアーサーとルイスしか知らない。


 これで少しはエレナも解放されると思っていた。でも、それは俺の独りよがりな思いだったのかもしれない。


 リヒトはエレナの手紙を眺めながら固く手を握りしめた。


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