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19. ずっと言われたかったことばのはずなのに……。

 

 今日も、エレナは執務室でリヒトの仕事が終わるのを待っていた。エレナは昔からよく周りを見ていた。相手のして欲しいことを先回りしておかないと怒られるからだ。命令されてからするのでは遅いのだ。だからこそエレナはいろんなことに気づくことができる。今もリヒトの仕事がもうすぐ終わることがわかる。だからエレナは紅茶の準備をした。


「はあ〜、終わった。エレナ、いつも待たせてすまんな」

「いえ、いつもお疲れ様です。こちらをどうぞ」

 そう言って、紅茶を置いた。

「お前が入れたのか?」

「はい」

「そうか、だがこんなことお前がしなくてもいんだぞ?」

「いえ、私がしたいだけですので。ダメ、ですか?」

「いや、ダメなわけないだろう。ありがとな」

 そう言って、リヒトは微笑んだ。

「い、いえ」

 普段見せないリヒトの不意打ちの笑顔に、エレナは思わず顔を背けた。

(やっぱり陛下は美しいわ)


 リヒトは紅茶を一口飲み、何かを覚悟したような顔をしてエレナに話しかけた。

「エレナ、お前に話したいことがある」

「は、はい。なんでしょう?」

 改まってリヒトにそう言われエレナは緊張した。そして、リヒトは一度深呼吸をして話し始めた。


「俺はお前のことを本当に大切だと思っている。いやそれ以上、俺はお前のことが好き、なんだと思う。虫のいい話だとは思っている。でも、これからエレナを幸せにすると誓う。だから」


 そこまで話してエレナが考え込んでいることに気づいた。

「エレナ?」

「……。」

「エレナ? 大丈夫か?」

「は、はい」

「すまない、困らせるつもりはなかったんだ。そんなに重く考えなくてもお前は今まで通りでいいからな。ただ俺がエレナを思っていることを知って欲しかったんだ」


 しかし、リヒトがエレナのことを好きだと告げて以来、エレナの様子が少し変わった。いつも何かを考え込んでいるような。そのことにリヒトは気づいていたが、エレナに聞いても教えてくれないため、何を考えているか分からずじまいだった。


 リヒトから好きだと言われたエレナは困惑していたのだ。初めて人から好きだと言われた。それはずっとエレナが欲しかった言葉のはずだった。一度でいいから愛されたい、それがエレナのたった一つの願いだった。それなのにあの時、エレナは嬉しさよりもただ怖かった。もし、リヒトの好意を受け入れた後にもう一度捨てられたらきっと耐えられない。その恐怖からエレナはリヒトの好意を受け入れられずにいた。


(あんなに愛されたかったのに。愛がこんなにも怖いものだったなんて知らなかったわ)


 それから数日後。図書館に向かおうとしたエレナは庭でリヒトが綺麗な女性と話しているのを目撃した。その女性が身分の高い人だと言うのは一目でわかる。一つ一つの動作が綺麗で最近作法を習ったエレナとは大違いだ。そして2人は美男美女で誰がどう見てもお似合いだった。


 その日の夕方。

 エレナが部屋で1人本を読んでいると、昼間に庭で見かけた彼女が部屋を訪れた。


「えっと、初めまして。エレナ・シンクレアと申します」

 自分より身分が高いのは間違いないので、エレナは先に自己紹介をした。

「初めまして。私はプロセント王国の第一王女、シャーロット・アークエットと申します」

「お、王女様!? プロセント王国の王女様がなぜここに?」


(身分の高い方だろうとは思っていたけれど、まさか王女様だとは思わなかった)


 プロセント王国はここクロデリア王国の隣にある国だ。

(プロセント王国は閉ざされた国で他国を寄せ付けないと有名なのに、そのプロセント王国の王女様が一体何しに来たんだろう)


「ふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫よ。私、国王陛下に婚約を申し込みにここまできたのだけど、一歩遅かったみたいね」

「陛下に婚約、ですか?」

「ええ、もちろん断られたわ。だから婚約は諦めて有益な取引でもと思っているのだけど、なかなかうまくいかないわね。でも、このまま帰るとお父様に怒られてしまうから帰ろうにも帰れないのよね。だから、しばらくの間ここでお世話になるから挨拶をと思って。よろしくね」

「こ、こちらこそよろしくお願いします」


(わざわざ私なんかに挨拶に来てくださるなんて)

「それにしてもとっても可愛らしい方ね。侍女から話を聞いていたから一度お会いしてみたかったのよね」

「いえ私なんて王女様の足元にも及びません」

「その王女様って呼び方はやめてちょうだい。シャーロットでいいわ。私もエレナさんとお呼びしてもいいかしら」

「は、はい、シャーロット様。私のことはエレナで構いません」

「じゃあ、エレナって呼ぶことにするわ。ねえエレナ、今度お茶しましょう。私、あなたともっとお話ししたいわ」

「え、ええ私なんかで良ければ」

「やった。決まりね」

(まさか王女様がこんなに親しみやすい方だとは思わなかった)


 それからエレナとシャーロットは何度かお茶をして2人はどんどん仲良くなっていった。一方でリヒトとエレナの距離は相変わらず微妙なままだった。リヒトは最近仕事が忙しく、食事もバラバラですれ違う日々が続いた。リヒトが忙しくしているのは、奴隷制度の撤廃とシンクレア家の対応をしているからだったのだが、そのことをエレナは知る(よし)もなかった。

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