18. これから幸せに。
「あの時、私はどうして騎士になりたかったかを思いだしたんです。今までは周りに舐められないように、自分を馬鹿にした人を見返してやるって気持ちで騎士をやっていました。でも、エレナ様とお話して、私は守るために騎士になったんだということを思い出しました」
「そうだったの。それならよかったわ」
「それで、その、もしエレナ様さえよろしければ、私をエレナ様のそばに置いていただけないでしょうか?」
「私はとても嬉しいのだけど、エマは副団長でしょう? 騎士団のことはいいの?」
「それなら心配ないです。騎士団のみんなからもエレナ様を守ってほしいと頼まれましたので」
「そう、騎士団のみんなも」
「はい、女性騎士の中で一番強いのは私なので、私が一番適任ということになりまして」
「それならしばらくエマに守ってもらおうかしら」
「お任せください!! 必ずエレナ様をお守りいたします」
(エマがそばにいれば安心だわ)
それからエマとクリスタと一緒に部屋に戻った。
「今日はとっても楽しかったわ。クリスタ、本当にありがとう」
「いえ、私も楽しそうなエレナ様を見ることができてよかったです」
「エマもありがとう。これからよろしくね」
「いえ、私の方こそエレナ様をお守りできることとても嬉しく思います」
部屋に戻るときも男性と会うことはなかった。さすがにここまでくれば男性が通らないように手を回しているとわかる。
(私も閉じこもってばかりじゃダメね。せっかくクリスタが外に出るきっかけをくれたんだから。それにエマがそばにいてくれるなら……)
その日の夜。エレナはリヒトが帰ってくるのを待っていた。いままでは怖くて会うのを避けていた。ずっと寝室にこもって挨拶すらしなかった。でも今日、みんなと話してエレナが外に出ることを待ってくれている人がいることを知った。外に出る勇気をみんなからもらった。
リヒトが仕事を終え、アーサーと共に部屋に向かっていると、部屋に灯りがついていることに気づいた。それをみたリヒトは部屋まで走った。
「陛下!?」
驚くアーサーを置いて、扉を開けるとそこにはエレナが立っていた。
「おかえりなさいませ」
「ああ、ただいま、ただいま。エレナ」
そう言って近寄ろうとした時、
「も、申し訳ございません。まだ、近づかれるとちょっと」
震えているエレナを見て気づいた。
「いや、俺の方こそすまない。ゆっくりでいい。エレナのペースでいいから、気にするな」
「ありがとうございます。それと度重なる無礼をどうかお許しください。どんな罰でも受ける覚悟はできております」
「罰なんてそんなことするはずがないだろう。元はといえば俺のせいだ。エレナこそ俺のこと恨んでいないのか?」
「恨んでなどいません。陛下は私をあの場所から助け出してくださったのですから」
「そうか、エレナは優しいな。……もしまだ俺のそばにいてくれるなら俺は必ずエレナを幸せにする」
「陛下?」
「ん? どうした、エレナ」
「いえ、なんだか私が知っている陛下と少し違うような気がして。優しくなられたというか。あっ、えっと前が優しくなかったというわけではなくて」
「エレナは俺にとって特別だからな」
「特別?」
「ああ、お前にとっても特別になってくれたら」
リヒトは小さな声で呟いた。
「陛下、今何かおっしゃいましたか?」
「いやなんでもない。あんまり遅くなると体に悪いからもう寝よう」
「はい、おやすみなさいませ」
リヒトは寝室に入り誰もいない部屋で呟いた。
「エレナが俺を責めてくれたらよかったのに。エレナの優しさが辛いなんて俺は……」
リヒトはエレナを一度手放したこと、エレナを傷つけたことをひどく後悔した。
翌日、エレナは部屋の外に出た。以前のように図書館に行ったり、騎士団の訓練場に行ったりした。もちろん周りの人も気を遣ってエレナに触れることはもちろん、必要以上に近づくことはなかった。誰もがエレナのことを大切に思っているからだ。
この日からリヒトは可能な限りエレナと一緒にご飯を食べた。リヒトは忙しくて食事の時ぐらいしか一緒に過ごせる時間がないからだ。
ある日、一緒に食事をとっているときエレナが遠慮しながら言った。
「陛下、明日の朝食なんですけど」
「ああ、どうした」
「その、私が作ってもいいですか?」
ガタッ
リヒトは驚いて立ち上がった。
「あ、いや、やっぱりなんでもないです。忘れてください」
エレナは急に立ち上がったリヒトが怒っているのだと思った。
「え、作ってくれないのか?」
「いいんですか?」
「いいも何も俺からお願いしたいくらいだ。俺の方こそ、また作ってもらえるのか?」
「は、はい。お口に合うかわかりませんが」
「ありがとう、楽しみにしている」
翌朝、エレナは部屋にあるキッチンに材料を持ち込み2人分の朝食を作った。
「陛下のお口に合えばいいのですが」
そう言ってエレナはリヒトに料理を出した。
「うまい!」
「ほんとですか? よかった」
「ああ、毎日でも食べたいぐらいだ」
「では毎日お作りいたします」
「流石にそれは大変じゃないか」
「いえ、私にできることはこれくらいしかありませんので」
「そんなことはないが、毎朝エレナのご飯が食べられるのは楽しみだな」
それから朝はエレナが作ったものを、昼はリヒトが忙しいため別々に食べることが多かったが、夜は王宮の料理人が腕によりをかけて作った料理を一緒に食べる。夜も時々食べられない時があるのだが、その時はエレナが軽食を作りリヒトの部屋に持って行く。そして、エレナは執務室でリヒトの仕事が終わるまで本を読んで待つ。そして一緒に部屋に戻るという感じで一日を過ごしていた。




