17. エレナを思う人たち
エレナは悔やんでいた。助けられた時と王宮でリヒトに近づかれたときの2度もリヒトを拒んでしまったことを。
(せっかく助けていただいたのに私陛下に失礼なことを)
「エレナ様。今日も外には出られませんか? もちろん無理にとは言いませんが」
王宮に帰ってきてから、1週間経つがエレナは1歩も部屋から出ていない。リヒトを拒んで以来、エレナは寝室から出なくなってしまった。リヒトに顔を合わせ辛いし、何より嫌われてしまったのではという不安から部屋を出られずにいた。それに男性に会ってまたあの時のことを思い出して拒んでしまうのではないかという恐怖から外に出られずにいた。
「ごめんなさい。今は誰にも会いたくないの」
「そう、ですよね。でしたらテラスでお茶をするのはどうですか?」
「テラス?」
「はい。そこなら誰にも会うことはありませんし、外に出て少しは気晴らしになるかと」
テラスはエレナの寝室とリヒトの寝室からのみ出入りできる。この時間はリヒトは仕事だからテラスに来ることはない。
「そうね、テラスなら」
「ありがとうございます。ではティーセットをお持ちしますね」
少ししてクリスタが戻ってきた。
「ねえ、クリスタも一緒にお茶しない?」
「かしこまりました」
ここ数日、エレナとクリスタは仲良くなった。エレナがクリスタのことを呼び捨てで呼ぶくらいには。
「エレナ様、今日はいい天気ですね」
この日は雲一つない晴天だった。
「ええ、そうね。こんな天気の日はお庭でお茶するのも楽しそうね」
庭は王宮の中でエレナが一番気に入っている場所だった。
「それはいいですね。エレナ様と交流のある侍女を呼んでみんなでというのはどうでしょう」
「とってもいいわ。楽しそう。いつかできたらいいわね」
しかし、庭に出るまでにはもちろん男と会うことは間違いない。使用人は男女同じぐらいだが、使用人以外の騎士団や大臣など王宮に出入りする人たちは圧倒的に男性が多い。エレナがそう思っていると、
「エレナ様、私に任せてくれませんか? お庭でお茶をできるように手配いたします」
クリスタがしばらく考えた後、そう言った。本気で言っているのか、慰めで言っているのか分からなかったがクリスタのその言葉が嬉しかった。
「ええ、ありがとう。楽しみにしてるわ」
それから数日後、エレナはクリスタによって庭に連れられた。クリスタがどうしてもというのでついてきたのだが、妙なことに1人も男性の姿を見なかった。そして庭に着くと、面識のある侍女たちがたくさんいた。
「エレナ様〜!!」
みんな泣きながらエレナに近寄った。
「お会いしたかったです」
「エレナ様、こっちにきてください」
「行きましょう、エレナ様」
「……」
「あなたたち、エレナ様が困っておられるでしょう」
「クリスタ様ばっかりずるいですよ。私たちもエレナ様とお話ししたいんです」
「エレナ様、みんな待ってますのでこちらにどうぞ」
「みんな、ありがとう。私、今とっても幸せ」
エレナは泣きながら、そして笑いながらみんなにお礼を言った。ずっと1人だったエレナにとって周りに自分のことを思ってくれる人たちがたくさんいることが嬉しかった。
「エレナ様はいままで辛い思いをたくさんされたんですからもっと幸せになるべきなんです」
その言葉にみんなが頷いた。
みんなと話すのが楽しすぎて時間はあっという間に過ぎた。そろそろ帰ろうかという頃、1人の女性騎士が走ってきた。
「はあはあ、エレナ様。お部屋にお戻りでしたら送らせていただいてもよろしいですか?」
そう言ってきたのは王国騎士団『副団長』のエマだ。
「私、エレナ様のお役に立ちたいんです」
「それは嬉しいけどどうして? 私はエマに何もしていないわ」
「そんなことないです。私はエレナ様に助けられました」
「私がエマを?」
「はい。初めてエレナ様とお話しさせていただいた時の事覚えていらしゃいますか?」
「ええ」
それはエレナが王宮にきて1週間が経った頃。
男性ばっかりの騎士団に美しい女性がいたからエレナは思わず彼女に話しかけた。しかし、彼女はエレナを見て踵を返した。だからエレナはいつもお疲れ様ですと後ろ姿に話しかけた。反応がなかったので、聞こえていないのかもと思ったが、翌日彼女はエレナの部屋にやってきた。
「エレナ様、昨日は無礼な態度をとってしまい申し訳ございませんでした」
「そんなの気にしなくてもいいわ。それよりあなたの話を聞かせて欲しいのだけど」
「私のですか?」
「ええ。あなたは庶民なのに騎士団の副団長だって聞いたわ。私、あなたみたいに自分の力で居場所を作っている人、本当に尊敬するわ」
「私はただ舐められないように人一倍鍛錬を積んだだけで。女が戦えるわけがないとか、庶民のくせにと侮辱されたことは数えきれないほどあります。だからそんなことを言われないようにただひたすらに」
「そんなこと言う人がいるの? 私だったらあなたに守ってほしいわ」
「エレナ様は変わったお方ですね。私、庶民を見下す貴族しか見たことなかったから」
「そうね。私もそんな貴族しか見たことないわ」
「だから、その、エレナ様もそういう方だと思って、昨日は失礼な態度を取ってしまいました。でも、こんなに私のことを認めてくださる方は初めてで、ほんとに嬉しいです」
「実は私も昔剣術を少しやったことがあって、だからそこまで強くなるのに辛くて苦しい特訓をたくさんしてきたんだろうなってみればわかるから。」
「エレナ様が剣術ですか?」
「ええ。でも、どうしてそんな思いをしてまで騎士になろうと思ったの? 庶民から騎士になるだけでも難しいのに、騎士の家系でもない女性がなるのはもっと難しいわよね?」
「そうですね。その、とても恥ずかしいんですが小さい頃読んだ本に、国を守るために命をかけて戦う女性騎士が出てくる物語があって、その騎士みたいになりたくて」
「素敵じゃない!! あなたなら絶対その騎士みたいになれる。それに私からみたらあなたは十分かっこいいわ」
副団長であるエマは忙しいためその時はあまり長く話せなかった。それでもエマにとってその時間はかけがえのない時間だった。




