15. 恐怖の2日間(前編)
エレナが王宮からでた日、両親からお使いを頼まれ市場に向かっていた。その途中、何者かに後ろから薬を嗅がされエレナはあっという間に意識を失った。
次目が覚めると知らないところにいた。それに王宮をでた時は綺麗なドレスを身に纏っていたはずなのに、今はシンクレア家にいた時のようなぼろぼろな服を着ていた。誰かに着替えさせられたことは明白だったが、今はそんなことを考える余裕はなかった。ただ、見知らぬ場所に恐怖感を覚えた。それに、手足には逃げられないように枷が嵌められていた。
今はここから逃げられそうもないのでここがどこなのか、逃げれそうな場所はあるかを調べようと周りをよく見た。すると、そこにはたくさんの人がいた。てっきりここには誰もいないと思っていた。それほど静かだった。しかしその人たちをよく見てみると、全員ぐったりとしており目には光が宿っていなかった。
(ここはどこなんだろう? それにどうして私はここにいるんだろう)
エレナは分からないことだらけだった。あたりを見渡していると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
「お、目が覚めたか?」
声が聞こえた方を見ると、髭を生やしたあまり清潔感のない男性が近づいてきていた。
「あなたは?」
「俺のことはどうだっていいだろ。それよりあんたもかわいそうだよな」
「どういうことですか?」
「せっかく貴族に生まれたってのに、奴隷として売りに出されるなんて」
「ど、れい?」
「ああ、ここは奴隷商だ。あんたは売られたんだよ、あの両親にな」
その言葉を聞いてもピンとこなかった。いくら私を邪険に扱っていてもまさか奴隷に売るなんて、そこまでするなんて思ってもみなかった。そんなことが世間に知られたら、シンクレア家はきっと貴族ではいられなくなる。貴族ではなくなるリスクをとってもエレナを売り払いたかったのか、絶対バレないという自信があったのかはエレナにはわからなかった。ただ、一つはっきりしているのは、父と母に売られたということだけだ。てっきりまたあの家で奴隷のような扱いをされると思っていた。
(いや、結局一緒か。家でも奴隷みたいなものだったんだもの。今更奴隷として売られたって今までとそんなに変わらないわ)
しかし、エレナの考えが甘かったということはすぐに思い知らされることになる。
「まさかちょうど今日こんな上玉が現れるなんて思いもしなかったな」
そんなことを呟きながら男はどこかに行ってしまった。
(私、これからどうなるんだろう……)
それからしばらくは誰も来なかった。そのおかげで自分の身に起こっていることを冷静に考えることができた。
(両親に奴隷として売られたら普通は悲しむわよね)
しかしエレナは、なんとも思わなかった。あの両親に何も期待していなかったからだ。ただ、リヒトに捨てられたことの方が辛かった。家族に捨てられてもちっとも悲しくないのに、出会って1ヶ月も経っていない赤の他人に捨てられると悲しい。
(そう思うのはやっぱり変よね)
今更涙なんて出てこなかった。
少しして辺りが騒がしくなってきた。何やら歓声のようなものも聞こえてくる。何が起きているかは容易に想像がついた。ここは奴隷商だ。そこでこんなに歓声が聞こえるということはおそらく奴隷のオークションが行われているんだろう。近くにいた人たちがどこかに連れて行かれそして戻ってくる。
「やっぱり、中古はなかなか買い手がつかねえな」
「中古?」
「ああ、こいつら一度奴隷として買われて捨てられたやつらだ。だがお嬢ちゃんは気にしなくてもきっと買い手がいる。さあそろそろ君の番だ」
こんな人を人とも思っていない人たちに激しい憤りを覚えたが、今のエレナにはどうすることもできなかった。手足につけられていた枷が外された。しかし、ここから逃げることは不可能だった。周りにはいかにも強そうな男が大勢いた。こんな痩せほそった体であの人たちから逃げれるはずがない。きっと一度逃げようとすると後からひどい目に遭うに違いない。
「おい、ついてこい」
エレナはその言葉に大人しく従うほかなかった。
男についていくと歓声が鮮明に聞こえるようになってきた。そして、前から男に無理やり歩かされている女性がいた。
「あいつもそろそろ処分対象だな」
「処分?」
「ああ、壊れてんだよ。だから買い手が見つからねえ」
その言葉通り、女性のそばを通ったときになにかぶつぶつ呟いてた。女性の目は虚で1人ではまともに歩くこともできないほどだった。
(ひどい。こんなこと)
「お前もああならないように気をつけろよってそれも買い手次第だがな。命令に逆らわなければそこまでひどいことはされないだろ」
少ししてステージの横に着いた。
「さあ皆さん、大変長らくお待たせ致しました。本日の目玉商品の登場です」
その言葉とともに男に手を引かれステージに連れて行かれた。暗くてよく見えないが、たくさんの人がいる気配がする。
「こちらなんと貴族の娘であります。こんな上玉は二度と手に入らないかもしれません。皆様、ぜひお買い求めください」
その言葉とともにエレナに商品としての値段がつけられてく。初めはたくさん聞こえていた声も1人、また1人と減っていった。そして、最後の1人になりどうやらエレナの買い手が決まったようだ。
「ありがとうございます。それではこれにて一年に一度の奴隷オークションを終わらせていただきます。お気をつけてお帰りください」
「よりによってあいつか」
隣にいた男が何か言った気がするが、うまく聞き取れなかった。




