13. 変わり果てた姿
屋敷から馬車の音を聞きつけたのかエレナの両親が出てきた。
「へ、陛下!? 一体どうされましたか? 陛下自らいらっしゃらなくても、呼んでくだされば私共が王宮に向かいましたのに」
「そんなことはどうでもいい。それよりこいつは返す。代わりにエレナを出せ。俺はあいつと婚約を戻すことにした」
「ちょっと、陛下。どうしてエレナなんですか? 私の方が優れているんですよ? あんなやつより私の方が陛下のお役に立つと思います」
「優れているとかどうでもいい。あいつは自分より周りのために行動する優しい奴だ。俺は今まであんなに優しい女を見たことがない。大抵の女はお前みたいに自己中心的なのに」
「なっ!!」
今までちやほやされてきたロゼッタはそんなことを言われるのは初めてだった。
「それで、エレナはどこだ?」
「そ、それが、陛下と婚約を破棄した日から帰ってきていないんです」
「本当か?」
リヒトは睨みながら聞いた。
「ひっ! その、我々も探しているのですがなかなか見つからなくて。一体どこにいるのか見当もつきません」
その言葉を聞いたアーサーはリヒトに目配せをした。アーサーは嘘がわかる。だから、アーサーからの目配せはこの男が嘘をついているという合図だった。
「嘘だな」
「え?」
「お前らはどこにエレナがいるかを知っているな? 次に嘘を吐いたら命はないと思え。エレナはどこにいる」
「く……。私は本当に」
「本当に、なんだ? 早く言った方が身のためだぞ?」
剣を抜き、睨みながらリヒトはいった。
「あ、あいつは奴隷として売りに出しました。どこに売られたかは私も知りません。本当です!!」
「ちっ、行くぞ、アーサー」
「はっ」
そう言って2人はシンクレア家を出ていった。
「陛下、どこから向かいますか?」
「この国に奴隷商はいくつある?」
「私が把握しているところで5つです。ですが実際はもう少しあるかと」
「そんなにあるのか。とりあえず一つずつ探していくしかないな」
今まで奴隷を売っているところがあることは知っていたが、そのことを特に気にしたことはなかった。奴隷として売られるやつが悪いとしか思ったことがないからだ。しかしエレナを見つけたら奴隷制度は撤廃することに決めた。
1つ目の奴隷商に着いたが、そこにエレナはいなかった。2つ目、3つ目、4つ目も空振りだった。
「私が把握しているところは次で最後です。そこにいなければ、今日中にエレナ様を連れて帰ることは厳しいかと」
「ああ、わかっている」
(エレナ、お前は今どこにいるんだ)
しかし、最後の奴隷商にもエレナの姿はなかった。
(ここにもいないのか)
リヒトが肩を落としていると、奴隷商のオーナーが独り言のように
「もしかしたらあそこにいたのかもな」
と言った。
「あそこってどこだ?」
リヒトはオーナーを問い詰めた。
「まあまあ、落ち着けよ。こっちだってただで教えるわけにはいかねえなぁ」
「アーサー、今ある金を全部渡せ」
「かしこまりました」
アーサーはオーナーにお金を渡した。
「おいおい、不確かな情報にこんなに払っていいのか? そこにいなくても俺は知らねえからな」
「いいから早く話せ」
場所を聞いたリヒトたちは急いでその場所に向かっていた。外を見るとすでに日は沈んでいた。
(頼む、無事でいてくれ)
リヒトはただ無事を願うことしかできなかった。
オーナーに聞いた場所に行くとエレナらしき人物がいたという情報が手にはいった。
どこの誰か聞くと、また金を要求された。しかし、手元にあるお金は先ほどすべて使ってしまった。リヒトが困っていると、
「こちらを」
と言ってアーサーはお金を渡した。
「アーサーその金は?」
「申し訳ございません。このようなこともあろうかと、先ほど半分しかお渡ししませんでした」
「そうか、おかげで助かった」
そのお金でエレナが誰に買われたかを聞くことができたので急いでその場所に向かった。もう日もまたぐような時間だったが、その家の扉を叩いた。
「おい、誰かいるか?」
リヒトが呼びかけると、少しして男が出てきたがその男の服は乱れていた。
「なんだよ。今いいとこだったっていうのに」
「貴様、最近奴隷を買ったよな?」
「ああ、そうだ。今そいつがやっと俺を受け入れたところなんだ」
リヒトは鞘から剣を抜きながらいった。
「そいつをよこせ」
「は? なんでだよ。あいつは俺のもんだ。てかあんた誰だよ、こんな夜中に家まで押しかけてきて」
「消されたくなければいうことを聞くんだな」
ジリジリと男に歩み寄りながら言った。それまでは暗く相手の姿がはっきりと見えなかったが、月明かりに照らされリヒトの姿が見えた。
「あ、あんた、まさか!?」
「いいからそこをどけ」
リヒトは腰を抜かした男をどかして、家の中に入っていった。
「エレナっ! いるか!」
しかし返事はなかった。だが、かすかにすすり泣く声が聞こえた。
「エレナ!!」
扉を開けるとそこには確かにエレナがいた。しかし服は着ておらず、身体のあちこちには殴られた痕があり、顔は涙で濡れていた。リヒトは上着を脱いで急いでエレナにかけ抱きしめた。
しかし、エレナはそれを拒んだ。
「いやっ!! 来ないでっ!!」
そういうエレナの体は震えている。
「エレナ、俺だ。遅くなってすまない。もう大丈夫だから、王宮に帰ろう」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
(くそっ)
俺は涙を流しながら嫌がるエレナを抱えて、馬車に乗り込んだ。




