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10. 婚約取り替え

 

 馬車から出てきたのはエレナの両親と姉だった。

(今更、なにしに来たんだろう)

 エレナは嫌な予感がした。



 リヒトはたった今、視察から帰ってきたばかりだったので一度着替えに行った。その間は3人と一緒にリヒトがくるのを部屋で待っていた。幸い部屋には使用人がいたので家族から何か言われることなかった。しかし、エレナの体は震えが止まらなかった。


 少ししてリヒトが入ってきた。エレナとリヒトが隣同士に座り、向かいに3人が座って話が始まった。


「それで一体なんの用だ?」

 冷たいリヒトの声が部屋に響いた。リヒトはアーサーと話す時以外は冷たく突き放すような声で話す。エレナは慣れていたが、初めて聞く3人は少し戸惑っていた。

「その、婚約をこちらのロゼッタと変えてほしく、本日はこちらに参りました」

「なぜだ?」

「エレナより、ロゼッタの方が美しく王妃に向いているからです。ロゼッタならエレナと違って陛下と並んでも恥ずかしくないかと。それにその子は病弱ですし、王妃としての資質を持っていないので」


 エレナは元々病弱ではなかった。原因はろくに食事を与えられなかったからだ。もちろん育った環境のせいでもあるのだが。


「そうか」

 そしてリヒトは少し考え、

「お前はどうしたい?」

 とエレナに向かって聞いた。

「わ、私は……」


 もしかしたら、陛下と上手くやっていけるのではないか、そう思い始めていた。それにあの家には戻りたくない。だが、3人からの視線が怖くてとてもそんなことは言えなかった。

「私は、陛下の命令に従います」


 もしかしたら、陛下が婚約は変えないと言ってくれるかもしれないということに期待して。そして家族からの反感を買わないようにそう言った。しかし、その期待は陛下の言葉によって淡く消えてしまった。


「分かった。婚約を取り替えることを認める」


 その一言でエレナの心は絶望でいっぱいになった。反対にロゼッタは勝ち誇ったような顔でエレナを見下ろしていた。


 リヒトにとって婚約者は誰でもよかった。だから婚約者を変えてほしいという願いを聞き入れた。別にエレナでなくてもいいはずだ。それなのに、あいつの顔がこれから見れないということを考えると、なんだか胸の奥がモヤッとした。


 婚約を取り替えることになったエレナは絶望していた。まだここにいたかった。リヒトともっと話したかった。やっと王宮の人たちと仲良くなれたのに。あの家には帰りたくない。エレナの心はそんな思いが交錯していた。


 でも今は、この時間を有意義に使うことを考えよう。エレナの家族は一度屋敷に帰ることになった。エレナとロゼッタの婚約が取り替えることになるのは明日だ。ということは、今日1日はまだここにいられる。


 エレナは厨房を借りていままでのお礼としてみんなに渡すお菓子を作り始めた。

(まだみんなといたかったな。そう思うのはわがままかしら)

 溢れそうになる涙を堪えながらお菓子を作った。



 お菓子を作り終えたエレナは、さっそくみんなに渡しに行った。最初に向かった場所は騎士団が訓練を行っている場所だ。そこで仲の良い騎士団の人たちに別れの挨拶をしてお菓子を渡した。それから庭師や侍女たちのところ図書館など王宮内にいるいろんな人のところに行った。もちろん一番世話になったクリスタにも。しかし、リヒトには渡せなかった。拒否されるのが怖くて。


 その日の夜、エレナはもちろんリヒトもなかなか寝れなかった。


 翌朝、シンクレア家の馬車がやってきた。部屋から荷物をまとめていると、ロゼッタがやってきた。


「ここが今日から私の部屋か。狭いし、あんたの後とか最悪ね。まあ、いいわ。それより、陛下から見捨てられた時のあなたの顔は見ものだったわ。笑いを堪えるのに必死だったんだから」

「私は、陛下に見捨てられてなんか」

「何? 私に口答え? あんたいつの間にそんなに偉くなったの?」

「も、申し訳ございません」

「ふっ、ほんといい気味ね」


 エレナは少ない荷物を持って、逃げるように部屋から出た。エレナが王宮の入り口に向かうとそこにリヒトの姿はなかった。そこにはシンクレア家の馬車とクリスタとアーサーしかいなかった。


(いいのよ。陛下がいたらきっと私、泣いてしまうから)

「クリスタさん、アーサーさん、短い間でしたがお世話になりました」


 実際、エレナが王宮にいた期間は1ヶ月もなかった。

「エレナ様、お元気で」

「私、もっとエレナ様のお世話をしたかったです」

「ありがとうございます。私ももっとクリスタさんとお話ししたかったです。あとこれ」

 そう言ってお菓子が入った袋をクリスタに渡した。

「私の分は昨日いただきましたよ?」


 それは結局リヒトに渡すことができなかったものだ。最後だから嫌われてもいいかという思いと、最後まで嫌われることはしたくないという思いで葛藤していた。

「ほら、クリスタさんには一番お世話になったから。それでは」

 エレナは2人に見送られながら王宮をでた。


 そして、馬車の中で何故急にロゼッタが陛下の婚約者になりたいと言ったのかを聞いた。理由はロゼッタが、好意を寄せていた男性に振られたからだそうだ。そして、エレナが陛下と婚約破棄をしていない聞いて、エレナだけ幸せになること、エレナが王妃になるかもしれないということに腹を立てたらしい。それに、自分の好きな人と一緒になれないのなら誰でもいいと、それならいっそ王妃になりたいと言ったそうだ。


 エレナは別に王妃になりたかったわけではない。ただ、自分の居場所が無くなることが怖かった。でも、それよりもロゼッタとリヒトが隣を歩いているところを想像すると胸が苦しくなる。



 エレナが王宮を出た頃、リヒトはシンクレア家の馬車が王宮から出て行くのを部屋から1人見ていた。

 今朝会った時、エレナはなにもなかったように笑っていた。

(きっとあいつにとっては俺との婚約はどうでもよかったんだ。俺だってあんな女のことなんてどうだっていい。なのになぜあいつの顔が頭から離れないんだ)


 リヒトはいままで誰のことも好きになったことがない。リヒトもまた誰からも愛されたことがない。だからエレナに対する感情に気づかなかった。


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