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第27話 黒騎士

 吹き抜けの最端まで辿りつくと俺は迷わず飛び下りる。

 冒険者ギルド本部は五階建てだが、最上階でもない高さから落下したくらいではダメージはない。


 裏庭に着地すると、すぐ目の前でオリアナとアルテナが立っていた。

 二人が見据える先には当然、リトアがいる。

 リトアは布の服が若干切れているだけで目立った外傷はなかった。俺ですらまともに受けて満身創痍になったというのに、アルテナの全力の黒光を浴びてあの程度なのか。


「騙し打ち、不意打ち、今度はなにかしらアルテナ」


 余裕な笑みを崩さず、リトアは悠然と問い掛けてくる。

 苦虫を噛み潰したような顔でリトアを睨むアルテナは、沈黙するしかないようだった。


「あの女、流石に堅すぎるぞ。いったい何の職業なんだ」


 オリアナがアルテナを横目に見て問うた。

 黙ってリトアを睨んでいたアルテナは視線は動かさず、オリアナの問いに答える。


「……リトアは『黒騎士』です」


 『黒騎士』。聞いたことのない職業だ。

 アルテナからすでに話は聞いていたが、それも消因職業(ロスト・スキル)なのだろう。

 既存の職業であれば効果や特徴から対策を立てられるが、未知の職業が相手ではどうしようもない。

 アルテナの口から新たな情報が語られるのを待っていると、視線の先に佇むリトアが口を挟む。


「『黒騎士』は『白騎士』の対となる職業。自らと仲間を聖なる力によって守護する『白騎士』は周囲を護ることに特化している。対して私の職業は私個人を守護する。単体の防御力は『白騎士』とは比較にならないわ。そして――」


 ランスの切っ先をこちらに向け、姿勢を低くするリトア。

 攻撃が来る。

 そう判断した俺たちは即座に構え、リトアの動きに全ての注意を向ける。

 俺の体が少しだけ光り出す。オリアナが力を使ったのだろう。三人に分散したとはいえ、オリアナの力なら相当な防御力を発揮する。

 五人パーティーで活動していた過去でさえ、上級の魔物の攻撃をモロに受けても平気だったのだ。二年間怠けていた俺とは違って現役で戦い続けていたオリアナであれば昔以上の力を身につけているだろう。


 咄嗟に防御の陣形を取る俺たちの様子を確認したリトアは嘲るように失笑すると、目を見開いて叫ぶ。


「『役割置換:(リバース・シフト:)攻転(アサルト)』!」


 なんだ。魔法?

 『黒騎士』がどんな職業なのかは知らない。突然詠唱を行ったリトアは一瞬だけ全身から漆黒の光を放ち――――姿を消した。


「ぐッ――――ハッ!」


 ふと気づいた時、その時にはもうリトアの行動は終わっていた。

 標的はオリアナだった。

 構えていたオリアナの盾は無意識のままにランスを受け止め、ミシミシと悲鳴を上げてひび割れる。

 『白騎士』の聖なる力は本人が最も頑丈になる。その防御力は個々が保有している防具にも付与されるはずだ。にも関わらず、たったの一撃でオリアナの盾は使い物にならなくなった。


 あまりに強大な反動に耐えられなかったオリアナは足が地面を離れ、吹き荒れる風を切って後方に吹き飛ぶ。

 冒険者ギルド本部の外壁を砕き、オリアナは瓦礫の奥へと消えた。


「お、オリアナ!!」


 俺は戦慄した。

 結果を目撃するまで何も反応できなかった。

 レインの時と同じだ。

 見えなかった。知覚すらできなかった。予想や予測といった次元を超越して、圧倒的な力だけが脳裏に刻まれる。


「防御に回していた力を攻撃に転じることもできるのよ」


 オリアナを飛ばしたのは軽い余興とでも言うかのように、軽く説明をするリトア。

 これが『聖剣士狩り』リトア・ガーネットの実力。いよいよ実感が湧いてくる。この女は考えられる最高の戦力で叩かなければ足止めにもならない。

 グランの爺さんがやられた理由もわかった。アルテナの話を聞いたグランの爺さんは恐らく、リトアを警戒して戦える冒険者を集めた。そして自身もまた戦闘に臨むつもりで何かしらの手段を講じようとしたのだろう。

 それを読んだリトアが先にグランの爺さんを襲った。いくら勘のいいグランの爺さんでも、あんな一撃をもらってしまえばひとたまりもない。


「クソがっ!」


 俺は剣を両手で握り、リトアに向かって斬りかかる。

 リトアは心底楽しそうに笑い、俺の剣戟をランスで受け止める。

 まだ沸(・)騰(・)してはいない。俺の身を包む微かな光がオリアナの生存と意識の有無を教えてくれていた。

 盾はダメになったが見た目ほどのダメージはないだろう。壁に激突したくらいでダメージが入るほどオリアナの護りは脆くない。


 何の素材でできているのかわからない黒塗りのランスを軽々と振り回し、リトアは俺の速度についてくる。

 『役割置換:(リバース・シフト:)攻転(アサルト)』といったか。攻撃に特化した今の状態では腕力も素早さも先ほどとは段違いだ。

 ただ、アルテナの剣を片手で受け止めた時のような頑丈さはないのだろう。俺の剣を肉体で受けるようなことはしてこない。


「流石に『聖剣士』は一撃が重いわね。少しだけ手が痺れてきたわ」


「だったらこれはどうだ!?」


 大剣から聖なる力を放出し、受け身の姿勢を取るリトアに叩きつける。


「『役割置換:(リバース・シフト:)防転(ディフェンス)』」


 まただ。似たような詠唱。

 防御特化の状態になったのだろう。

 衝撃で地面が抉れ、暴風が吹き荒れる。それでもリトアを圧し潰すことはできず、俺は弾き返される。


「ちっ」


 ステップを踏んで後退しながら、舌打ちをこぼす。

 『黒騎士』。思った以上に反則な職業だ。攻守一体にしてどちらも隙がない。


「クリスさん。私も加勢します。焦らないで、共に戦いましょう」


「ああ」


 俺の隣に並び立つアルテナ。


「私も忘れるな。まだ戦える!」


 瓦礫の奥から五体満足のオリアナが這い出てくる。

 外見に目立った創傷は見受けられない。やはりダメージとしては大したことはなかったようだ。


 敵の強さは十分に把握した。

 一人なら惨敗していただろうが、こっちは三人だ。

 負けることはできない。何としてでもリトアを倒さなければ。ここで全滅するなんて最悪な結末だけは回避しなくては。

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