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第10話 白昼夢

『あー暇だー』


『あんまりそういうこと言うとまた畑手伝わされるよ、クリス』


『だって、本当に暇なんだもん!』


『まあ、確かに……』


 俺とレインとティオナは日課の畑仕事の手伝いを終え、いつものように木陰で駄弁っていた。


『暇なら稽古に付き合ってくれよクリス』


『えー』


『えー』


『見てるだけのティオナはわかるけど、どうしてクリスまで嫌そうにするんだ』


『だっておまえ強いんだもん。勝てないからつまらない!』


 畑の手伝い以外でやることと言えばこうして三人で話すか、レインの稽古の付き合いくらいだ。

 けれど俺はレインに一度も勝てないから稽古は嫌いだった。


『勝てないなら勝てるまで努力すればいいだろ?』


『そんなこと言ったって、面倒だし……』


 目を逸らす。

 言い訳だっていうのは自覚してる。

 レインと闘ってボコボコにやられて、ティオナに俺の情けない姿を見せるのが嫌なんだ。

 レインはずるい。俺だって才能があればカッコよくなれるのに。


『そもそもレインは剣術なんて身につけてどうするつもりなんだよ』


『どうするって……別に、どうも。好きだからやってるんだ』


『ふーん』


『クリスは、好きなこととかないのか?』


『好きなこと?』


 逆に聞き返され、少し考える。

 好きな人ならいる。けどそうじゃないだろう。

 好きなことってなんだろう。それがわかれば俺もレインみたいになれるのかな。


『……わからないや。ティオナは?』


『わたし? わたしは……みんなでこうしてるのが好き、かな』


『なんだそれ』


 よくわからないけど、なんだか褒められた気がして嬉しくなった。

 レインもティオナも自分の好きなことを知っている。

 俺はなにが好きなんだろう? 俺は将来なにになりたいんだろう?


「俺は……」





「――クリスさん。到着しました」


「……ん、ああ……わかった」


 アルテナに肩を揺すられて目を覚ます。

 不思議な感覚だ。どこか浮いたような寝覚めだが、それほど苦痛ではない。

 いつもとは違う夢を見ていた気がする。思い出すことはできないが酷い内容ではなかったように思う。


「おつかれさまです。さ、どうぞ」


「ああ」


「ありがとうございます」


 御者がわざわざ扉を開いてくれたので俺たちはさっさと降車する。

 白色のタイルの地面に足をつけ、空気を吸い、景色を回し見る。


「変わんねえな、ここは」


 ごった返したような店々の匂いに行き交う人の群れ。

 汚いんだか綺麗なんだかわからない林立した建物。

 二年前どころかそれ以上前から変わらない王都の風景がそこにはあった。


 ここに来るまでは自分の精神状態が心配だったが、到着してみると案外なんともなかった。

 一度眠って思考を整理できたからだろうか。


「それではお二人とも、よい旅を」


「はい」


 御者は定番の文句を口にすると馬に乗って去る。

 その姿を見送った俺たちは背後に(そび)える立派な建物を見上げる。

 門前には剣と盾を象った看板。奥に続く大扉は営業中は全開で、内部で冒険者や職員が慌ただしくしているのが見える。


 この建物こそが冒険者ギルド本部。

 酸いも甘いも含めた俺の思い出の全て。


 一度むせる一歩手前まで空気を吸って、静かに吐き出す。

 ここにレインがいる。あるいは、もしかしたら多忙のために不在かもしれない。

 どちらにせよここはレインのテリトリーだ。いつでも対面できる覚悟を決めておいた方がいいだろう。 


「……さて、いくか」


 意を決して、俺は冒険者ギルド本部の敷地に足を踏み入れた。

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