氷柱姉とお別れします…!
「ひっちーが私たちの事をどう見てたのか今更気にしないよ。たださ、その事は私以外の前では言わないでね。」
「分かっているわ。」
氷柱姉の言葉を聞くと、大きなため息をついたまま俯いてしまう。
百々姉は必死に受け止めている。
かける声が分からないまま、心の中で百々姉が落とし込めれる様に祈っていた。
誰も口を開かないまま日差しに照らされる。
何気に緊張感があり、いつもより汗を感じている。
百々姉に声を出してほしいと思う気持ちと、一度解散してしまって、それぞれが考えを改めた方が良いという思いもある。
自己的な考えだとは分かっているけれど、それ以上の答えは見つからない。
さらに時間が経つと、汗が手に滲んできていた。
全身がベタつくような不快感を覚えた。
それでも、口を開こうにもその場の空気がさせてくれなかった。
私はまだ話してはいけないと、抑圧されてしまった
「……今回の事は水に流しはしないけど、態度で示してほしい。」
「態度ね……私に何を求めてるのかしら。」
「どんな打算があったのかもう分かったけど、それでも私達は純粋にひっちーといて楽しかった。それなのに、いざ別れたら他人同然の扱いされて、みんな悲しんでる。」
「それは悪いことをしたわ。」
「……だからせめて、前みたいに……友達と接してあげてよ。サークル抜けたからって、みんな友達のままでしょ?」
「…………そうね。」
お互いに目を合わせようとせず、下を向いたまま言葉を交わしていた。
怒りと悲しみに対して後ろめたさ。
2人が抱く感情が違っていて、痛々しさがさらに極まって見えた。
「ごめん、やっぱり私はまだ整理出来ないみたい。……先に帰らしてもらうね。」
静かに立ち上がり、足早にさっていってしまった。
気持ちを抑えられないと悟って、感情が前に出ないように手を打ってくれたんだ。
どうにか受け止めてもらえたら一番よかったけど、そんな事私が押し付けるわけにはいかない。
ある意味、私たちの家族の問題に巻き込んでしまったことが原因であるから、何も口にしてはいけない。
どうにかそうなるように祈るだけ。
「行ってしまったわね。……紅桜も一緒に行かなくてよかったの?」
「そんな悲しいこと言わないでよ。」
「ふふっ……優しいのね。」
「私は氷柱姉ほど優しくないよ。」
氷柱姉は会話をしてくれるけど、目を合わせてくれない。
遠くを見て済ました顔を作っているだけ。
ニコやかな笑顔も、どこか寂しそうに見える。
「なんで、嘘を付かなかったの?」
「付く必要なんてなかったでしょ?……それに、嘘をつきたくなかったの。」
「…………スッキリしたかったんだよね?」
「察しがいいわね。そう……そうなの。やっぱりね、黙っているのは辛いわ。かなり堪えた。……2度としたくないわ。」
少しだけ、表情が明るくなった。
言葉にすることで、詰まっていたものが出て来たみたいに、どんどんと出てくる。
「自分がしていた事は悪い事だって思ってはいたのだけれど、口にするタイミングを何度も逃して来たみたい。いつかは言わないとと心に思っていたけれど……上手くいかないわね。」
「……私が言えた事か分からないけど、伝えるってすごく大切だけど、難しい事だと思うよ。上手く行くことなんて、ほんの一握りだと思う。」
「……嫌になるわね。もっと気軽に出来たらいいのに。」
重荷が取れ切ったかのように、氷柱姉の顔が自然になったように見えた。
悲しい思いを抱いてるけど、悪い方向ではないと思う。
ちゃんとみんなの事を思っての悲しみだと思う。
「……私がしっかりしないといけないのに、愚痴をこぼしてしまったわ。」
「愚痴ぐらいこぼしてもらっても構わないよ。」
「何それ?まだ紅桜には早い言葉ね。…………私に聞きたい事が残ってるでしょ?言ってみなさい。」
軽口を叩くように、氷柱姉の口からこぼれてきた。
哀れみや悲しみというものではなく、申し訳なさから来ているみたい。
もう言ってしまったことがあるから、隠す事はないとヤケになっているとも思える。
「……なんで、帰って来ないの?」
「まだ、私の帰る場所があそこだと思っているのね。……すごく嬉しいけれど、今は無理なの。紅桜の事が好きだから、甘えてしまう。」
「私は、氷柱姉に助けてもらったから、甘えるぐらい気にしないよ。むしろ、甘えて欲しいぐらいだよ。」
「やっぱり優しいわね。……私には甘すぎるわ。」
とても、嬉しそうに私の言葉を噛み締めている。
嬉しいはずなのに、好意を受け取ってくれない事がとても悲しい。
自分への無力感で押しつぶされそう。
「紅桜は、あの人と向き合ったでしょ?すごかったわ。……正直、一緒無理だと思ってた。」
「……私はまだ向き合えたないよ。」
「いいえ、あなたは向き合った。だって、あの人が口にしたの。『立派になった』てね。」
「え……」
私の胸がなった。
嬉しくはない。
あの人の言葉に喜ぶはずがない。
苦しめられたからこそ、その一言だけで揺れてはいけない。
「紅桜をみてね、私も向き合う必要があると思ったの。……勝手にいなくなってごめんなさいね。私はいなくなっても、今のあなたなら大丈夫だと思ったの。私なんか必要ないと思ったの。」
「……ぁ……ぁ、……。」
氷柱姉が頭を下げた。
涙を流しながら申し訳なさそうに、心からの誠意で。
私は声を出そうにも出す事ができず、掠れた息だけを吐くだけだった。
込み上げた気持ちは涙と一緒に流れていき、十分に表現できない。
「まだ、私のことを必要としてくれて、ありがとう。」
「……ぅん。…………うん。」
「…………でもね、紅桜の気持ちに応えてあげられないの。嬉しくてしょうがないけれど、ダメなの。」
「な……んで」
「私もね、あなたのように向き合えるようになりたい。今までのように、守れない人間でいたくないの。……紅桜は、役に立たない人間のままでいたいと思う?」
「……(ふんふん)」
「私も同じなの。だから、こんなお姉ちゃんを許して……。」
氷柱姉の気持ちは痛いほど分かった。
今までの自分が抱いてきた気持ちそのものだから。
だから断る事はできない。
止める事はできない。
諦めさせる事はできない。
私にできる事は応援することだけ。
「…………氷柱姉の気持ちはわかるからこそ、少しでもいいから、会いにきて……。私が悲しいから。」
「……ごめんね、ごめんね。」
初めて氷柱姉の弱さを見た気がした。
弱音を吐く氷柱姉を見ることなんてあり得ないと思っていた。
完璧な人間だと思っていだからこそ、見てしまったという罪悪感が湧いてくる。
お互いに涙を流しきるまで、沈黙が続いた。
照らされる日差しがすごく眩しくて、どうしようもない気持ちで一杯になってしまた。
壊れた関係は完全に治る事は無い。
ただ、それに近しい形へ治るよう努力していきたい。
もう同じような事が怒らないように、強い人間になりたい。
「今日は会いに来てくれてありがとう。」
「私も会いたかったの。……会って話すべきだと思ったの。」
「……もう、行くね。会えて、すごく嬉しかった。……もう二度と離れたくないと思うほどに……だから、氷柱姉のため私は行くから。」
「……ありがとう。」
私は席を立って、その場を離れた。
振り返ってしまったら戻ってしまいそうで、足早に逃げるよう店を離れた。
怖くて怖くて仕方ない。
一人に戻る事がとても怖い。
少し前の生活に戻るだけなのに、心が蝕まれていくよう。
でも、これは氷柱姉も一緒なんだ。
今同じ思いを抱いて前に進んでる。
後退しないために一生懸命歩いてるからこそ、怖さを抱いたまま歩き続けないと……。
「紅桜……!!!」
交差点の前で信号が変わるまで、待っていると後ろから声が響いた。
甲高い聞きなれた声が、私に近寄ってくる。
傷心しきった私を呼び戻すように、やって来た。
『あんな言葉を吐いた手前、直ぐに再開するのは恥ずかしいけど……これ。お店に忘れてたわよ。』
『……あっ……ハンカチ。』
『せっかくプレゼントした物なのに、忘れていくなんて……。』
『ご、ごめん!……涙を拭った後に片付けるの忘れて……あれ、いつの間にシミが付いてたんだろ?』
『あまり汚しちゃだめよ?綺麗に使ってね?』
『う、うん。』
『後、ボーっとしすぎよ?』
『そうかな?』
『ほら、今日は治安も悪いのに、紅桜はサイレンの音すら気づいてないでしょ?』
『サイレン……?あっ本当だ。気づかなった。』
『ほら、言ったとおりね。一人でも、しっかりしていくなら、気を付けなさいよ?怪我したら許さないからね?』
『うん。』
『それから、あんなことを言ったけど、最後にもう一度紅桜と出かけたいところがあるの。……最後に、もう一度コスプレイベントに参加しない?……昔のように、心から楽しめる思い出を残したいの。』
「氷柱、姉…………」
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