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氷柱姉と話をします!!

「こんな事を言った手前、紅桜にバレてるかと思っていたから少し恥ずかしいわね。」

「そんな……だってっ!……そんな……だったらっ、始まりのあの時から、氷柱姉は?」

「その時……よりも前ね。……あの父親から虐待のような日々を受けていた紅桜を見た時からね。」


 今でも思い出せる。

 失望を思わせる冷酷な目が私をにらみつけ、体が凍った感覚に苛まれる。

 少しでも体を動かせば、あの人から一方的に痛めつけられる。

 男だから強くなれと、その言葉が常にまとわりつき、一瞬の猶予すら持たせない。

 体の痛みと、精神のすり減りが、徐々に冷静な思考を鈍らせていく。

 目の前は常に真っ暗で、唯一の灯りは、私をにらみつけるだけに眼光。

 助けを求める相手もいないから、一人で抱え込んで自滅していく。

 泣く事も出来ず、狂気のように叫ぶことも許されない。

 ただ自分を殺して、言われたことを出来るように動く事でしか安静を望めない。

 牢屋に閉じ込められている方が良いと思うほどに、私の鎖は強くて頑丈で私の自我を締め付ける。

 自由何てあってないようなもので、しかれたレールの先は崖のした。

 歩く事を止められず、許されるのは加速だけ。

 

「紅桜、冷静に。想像を止めなさい。それは思い出す必要が無いものよ。……もう終わった過去。」


 視界が開けていく。

 一瞬だけあの事を思い出しただけで、私の体は悲鳴を上げていた。

 体は震えて自由に動かす事が出来ない。

 呼吸もままならず、氷柱姉の言葉が無かったら、意識を失ってしまっていたかもしれない。


「……ご、ごめんね。」

「謝る必要はないわ。変な物を思い出させたわね。」


 氷柱姉は乗り出しながら手を差し伸べ、私の頬へ触れる。

 そして、頬から首筋、肩、腕、最後に私の手へと流れていく。

 身を任せるように瞳を閉じると、徐々に心が安らいでいく。

 氷柱姉の手が離れた時、自然と震えが消えていた。


「氷柱姉ありがとう。」

「私は何もしてないわ。」


 お互いに目を見つめあう。

 途切れた気持ちがまた繋がったように感じる。


「ちょっと、私の前でいちゃつき始めないでよ!」


 い、ちゃいちゃなんてしてないよっ!?

 ただ、見惚れてただけだもん!

 それに、姉妹だからそんな気持ちも起きないもん!!

 きゅ、急に恥ずかしくなるようなこと言わないでよ!?


「そこ、目を逸らさない!……紅桜ちゃんはいちゃつきに来たわけ?違うよね?それに、ひっちーは今私と話してたんだから、話を逸らさない!……この姉妹は……」

「ごめんなさいね。話を戻すわ。……紅桜の姿を見てるとすごく胸が苦しくて、少しだけでも救いになれたらとあの時から思ってた。」


 少しだなんて思わない。

 あの時の氷柱姉は私にとって大きな救いだった。

 縋ってしまうほど頼りで、唯一の希望だった。

 私の呪いを全て受け止めてくれるほどで、任せてしまった。


「そんな時に百々と未菜千から誘いがあった。正直、紅桜の事で頭がいっぱいではあったけど、特に百々のアプローチが激しかったから仕方なくつく合う事にした。そして、その日が私の転換点となった。……その時着た物は子供らしくつたないコスプレではあったけど、十分満足した出来栄えだった。その日はまさしく楽しい……それこそ百々が言っていたように楽しい思い出になった。その事実は絶対に否定できないものだった。」

「でも、それが本当の理由にはならなかった。……そうなんだね?」


 百々姉は嬉しさと悔しさが入り混じった絶妙な顔を浮かべていた。

 自分の思っていた事実自体は間違いではないと分かったけど、それでも理由にならなかった事へ苛立ちと言うより悲しさが勝ってしまったように感じる。


「私の中では、帰宅後の方が印象になってしまった。……その日は私も子供らしく舞い上がってた。だから、紅桜の気持ちを考えないで、紅桜の前で着替えてしまったの。今考えたら本当に無神経だと思うわ。」

「そんな事は……」

「いえ、あれは無神経な行為だわ。偶々紅桜の気を引くものだったからよ。考えて見なさいよ、苦しいのに泣く事も許されない状況で、笑顔で自慢してくる人間がいるって最低でしょ?まるで、その人の不幸をあざ笑っているかのような悪魔の所業よ?本当、反吐が出程の行為だった。……あれは今でも後悔してるわ。一歩間違えれば、紅桜を絶望のどん底に陥れる行為だったわ。」

「でも、私はそんな事を思ってないよ?だから、自分を責めないで。」

「ごめんなさい。例え、紅桜の願いだとしても私の戒めだから、これを許す事は出来ないの。」


 氷柱姉の姿は、罪悪感で満ち足りていて痛々しかった。

 私がこれ以上何を言っても、本当に許す事が出来ないほどに後悔している。


「……ま、そんなこんな思いをしていたけど、紅桜は興味を持ってしまった。良いのか悪いのか、正直分からない。でも、その時私は分かってしまったの。紅桜が私に向ける視線が、衣装を身に纏う私ではなく、衣装自体に向けられていると。……気づいたらもう私は止められなかった。これが紅桜を救える唯一の希望になると信じ込んだ。そして、『みんなとの楽しい思い出』を盾に何かと紅桜を、みんなを誘った。私が声をかければ、誰だって嬉しそうに付き合ってくれた。紅桜も恥ずかしそうにはしてたけど、いざ着替えれば目を輝かせていた。そんな紅桜を見ると胸が高鳴って、自分がコスプレをする以上に満ち足りてしまった。……そこから私は歯止めが利かなくなってしまった。紅桜の笑顔を見るために、みんなを利用した。正直、都合の良い駒と思っていた節もあったかもしれない。……でも、その時に罪悪感を感じる事はなかった。だって、みんなも喜んでいるんだから、私は悪い事をしているわけではない。……ずっと、そう思っていた。今で、そう思っていたのかもしれない。だから、きっぱりとサークルを抜けられたのかもしれないわ。」

「……」


 百々姉は口を一切動かす事は無かった。

 静かに話を聞いているだけで、不気味さを感じた。

 今の話を聞いて、怒りが湧いているかもしれない、悲しみを抱いているかもしれない。

 そのどちらも感じているからこそ、言葉にできないでいるかもしれない。

 色々浮かぶけど、真相は分からなかった。


「これが私の本当の理由。……どう?幻滅したからしら?」

「……そうかもね。だって、話を聞く限り、紅桜ちゃんのためとか言いながら、自分を満たしたい様に聞こえるよ。」

「確かにそう聞こえるかもね。ただ、私は紅桜の笑顔を見たいという欲求はあったけど、その欲求を基に動いた訳では無いと言い切れるわ。あくまでもそれは副産物で、常に紅桜の救いを第一に動いていたわ。そこは勘違いしないでちょうだい。」

「……そう。」


 百々姉は静かに問いかけ、氷柱姉は感情的に答えた。

 いつも見る2人が入れ替わっている様に見える。


「紅桜ちゃんは今の話を聞いてどう思った?」

「……答えられないよ。」

「それは、ひっちーに幻滅して言いづらいって事?」

「違うよ。……私のためにしてくれた事に、私が良し悪しを決める事ではないから。」

「……そっか。」

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