手を借ります!?
泣きじゃくる私を横目に百々姉は有無を言えぬ顔を浮かべていた。
罪悪感と同情のようなものを感じ、私は余計に惨めに感じた。
そんな顔をするぐらいなら、言葉が欲しかった。そんな気持ちになるぐらいなら、私をこんな風にしないでほしかった。
我がままを言えないようにしてほしかった。
「みんな酷い。私が……」
「ごめん、紅桜ちゃんの気持ちを考えられてなかった。」
なんで同情するの?もうやめて。私を壊さないで。
良くない感情が溢れ出してくる。
抑え込もうとしても、溢れる勢いが強すぎて踏ん張る事すらできない。
「……私は、紅桜ちゃんより大人なのに……ごめん。どこかで、紅桜ちゃんになた当たっても大丈夫だと思ってた。」
「…………」
「謝る事しか出来ないけど、やっぱり、私も人間なの。この気持ちをどこかにぶちまけないとやってられないの。私もね、この気持ちを抑えられないよ。大事な親友と、『一緒にやっていく』って思いを裏切られて辛いの。紅桜ちゃんも辛いかもしれないけど、私も辛いの。」
鼓動が早くなる。
溢れる気持ちを抑えようとすればするほど、心臓はより強く動く。
今にも吐き出したいものを、抑え込むと、より大きな反動が返ってくる。
「……っ百々姉は、なんで同情ばっかりなの!?私は、そんな返事を待ってないよ!!」
「それは…………確かに、紅桜ちゃんの期待に沿った返事ではないけど……」
「だから!!!私が言いたいのは、……ちゃんと話したいだけなの。誰も話を聞いてくれない、みんな私を遠ざける……。なんでそれが正しいっていうの?みんなそれで納得するの?…………そんな事無い!!私は辛いし、百々姉も、本当は言いたい事、納得できない事あるよね?」
「それは……」
吐き出した後に残ったものは、どうしようもないほどの逆ギレだった。
寂しさ、悲しさ、不安……それらの残りかすはいつだって怒りであるかのように自然とそこに存在した。
初めて百々姉が本気で怒るところを見た。初めて、弱い姿を見た。
「私の知ってる百々姉は、言い訳をしない。」
「そんな事無いよ。私だって言い訳するよ。」
「百々姉は、嘘をつかない。」
「嘘なんて沢山ついてきた。」
「私の知ってる百々姉は、強い人だった。」
「私は強くない。弱い人間だよ。」
「私の知ってる百々姉は、いつだって前を向いていた。」
「私だって後ろを向くよ。」
「私の知ってる百々姉は、友達を見捨てない。」
「私は……」
百々姉は、うつむいて言葉を発しない。
これまでの言葉をどれだけ否定してもそれだけは絶対できない。
だって、それを否定する事は、本当にどうしようもない人間になってしまう事だから。
「百々姉が、それでいいと思うならもう私は何も言わない。」
「……」
「……ごめんね、私――もう行くよ。」
百々姉は立ち上がらない。
私は最後の頼みすらなくなった。
もうこうなってしまったら、強行突破しかない。
それに、最初からこうすればよかった。
見栄を張らず、恐怖を忘れて、そうすれば解決した。
「それはっ、ダメ。その人に頼らせられない。」
「百々姉……」
私の手に握られた携帯をそっと覆う。
今にも吐きそうな血相をした百々姉げいた。
私の言葉は結局届かずにいたと思っていた。
心に響く言葉を投げかけられていなかったと持った。
でも、実際には届いていた。
まだ百々姉の中に火は灯っていた。
「……ひっちーは私が連れてくる。だから、……紅桜ちゃんはその人に頼ろうとしないで。」
「でも、百々姉は……」
「分かってたの。私は、満足してない。まだ言わないといけない事が沢山ある。別れるには……早すぎだよね。」
百々姉の顔は少し悲しそうであったけど、私は従った。
頼る相手を間違えていたとは思わないけど、この選択が正しいとは言えない。
あんなことを言った手前、協力を取り付けるかどうかすら分からない。
それこそ、罵声くらいあってもおかしくない。
百々姉の手から力が消えると、一言だけ残して部屋に戻っていった。
私はその言葉を信じて、外に出た。
氷柱姉にとって百々姉の事を親友だと思っていたはずだ。
それは百々姉に関しても同じで、それを壊してしまったきっかけを作ったのは間違い無く私だ。
だからこそ、最後にしなければならないのは私だ。
どれだけ手を貸してもらったとしても、その役目だけはしなければならない。
私の罪で、私の間違いだから。
これは罪滅ぼしで、どれだけ謝っても許されない事だ。
氷柱姉はきっと、私に隠し事をしていて、私が知られたくない。
その理由は私だ。私を傷つけるから、何も言わずに行ってしまった。
その事実を、私は暴かないといけない。
氷柱姉の思いがどれだけか強くても、目を背けてはいけない。
「お疲れ様です。今時間良いですか?」
「問題ない。定期報告を頼む。」
携帯の向こうからは冷たい声が聞こえる。
毎度思うが、この人は感情が無いのだろうか?
身内の報告であるというのに、焦りや心配と言ったものが見えてこない。
これだから、あいつから嫌われるのだろう。
「今日様子を見に行ったら、家に居ました。どうやらお宅のお姉さんが急に居なくなったとかで塞ぎ込んでいたようです。」
「そうか……あいつ、何も言わなかったのか。面倒な事を……」
それはお互いさまでは……とは口が裂けても言えなかった。
相手が上司である以上、生意気な態度をとって叱られるのは面倒だ。
上の人間とうまく付き合ってこそ、本当の社会人だ。
「それで、問題は解決しそうか?」
「勇気付けておいたので、問題はないかと。それより、今回俺が行く必要がありました?」
「お前の役割を忘れたのか?」
「対象人物の監視ですよね?職務ですから、忘れるわけありません。ただ、俺が行わず、そちらが直接声をかければいいのでは?」
「俺が口を出して、あいつがそれを信じると思うか?」
コンマ一秒の内に考えてみる。
答えはノーの文字だった。
「客観的に見れるのに、どうして嫌われてるのか謎っすね。」
「客観的に見る事と、上手くコミュニケーションをとる事は別問題だ。」
「それは見ててよく分かりますね。……と、それは今関係ないっすね。問題なのは、望月百々の行動ですね。今回も問題無いと思いますが、万が一もありますので。」
「所詮子供の喧嘩に発展する程度だろう。そっちの問題はこっちでどうにかする。お前は、自分の任務を全うしろ。」
「その言い草酷いっすね。……これでも、自分の事で大変なんすよ?紅桜が来ないから文化祭準備に支障が出てるんすよ?」
「それこそ、こっちに関係ない事だ。」
「大ありですって。あいつが居ないだけで空気は重くて暗いんすよ。そのせいでみんなモチベーションが無くていつもの半分以上動けてないんすから。」
いい迷惑だ。
勝手に家族喧嘩に巻き込まれている気分。
ほんと、コミュニケーション能力に乏しい家族だ。
まだ母親がマシならどうにかなっていたが、あれではな。
同じ職業に属しているものだからこそ似ている。色んな意味で面倒な人たちだ。
だからこそ、紅桜には同情してしまう。
「ま、変な喧嘩をこれ以上させないでくださいね。」
「それは俺の知るところではない。」
「そんな事言わないでくださいよ。親として諫めるぐらいはしてくださいよ。」
「…………」
「あ、切りやがった!?」
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