百々姉と話します
百々姉の言う通り3人に帰ってもらうと、部屋の中に入れてくれた。
なっちーさんに教えてもらった切り札がちゃんと効いてくれたので御の字。
もちろん、切り札を使わずにもっと大事なところで使えればよかったけど、この切り札なら持続的に効かせられるかもだし、そこまでは問題ないかな。
そんなことを思いながら部屋に入ると百々姉が立ち止まった。
ガチャリとドアの音が鳴ったと同時に百々姉は振り返り、私の体を壁に押し付けた。
「い、痛い…放、して……」
勢いよく壁に押し付けられた反動が体に響く。
ギシギシと徐々に強くなる力に対抗できず拘束されてしまう。
「や、やめてよ…。」
「紅桜ちゃん、が…悪いんだよ?…誰から聞いたの?いつから?」
血走った目が私を覗き込む。
瞳孔が大きく開き、目の中の血管が腫れ上がり赤く染まりそうになっている。
息は絶え絶えで白煙となって口から吐き出される。
獣が獲物を見つけて今にも襲おうとする興奮を抑え込んでいる時のよう。
「な、何の、事」
「盗撮、の事だよ。誰から、聞いたの!?」
「そ、それは…」
「速く!」
バラして良いのか分からず考え込むと、押さえつける力が徐々に増していく。
それに、大声で怒鳴られて怖気付いてしまい、その名前を口にしてしまった。
その名を聞いた百々姉は唸り声を漏らし、髪をぐじゃぐじゃにしながらその場に倒れ込んだ。
「終わりだ…。終わりだ…。紅桜ちゃんにバレた…。お父さんに知られる…。人生終わった………」
急に燃えた火が消されたかのようにシナシナになっていく。
靴置き場だから、そこに倒れたら汚れるよと言ってあげたいけど、聞く耳を持たなそう。
とはいえ、私には百々姉から聞き出さないといけないし、こんな所で倒れられては困る。
「私は、百々姉の事…嫌ったりしないよ?」
「嘘だよ…。だって、顔が引きつってるもん…」
「それは…」
自分の顔を触って確認してみる。
確かに、私の顔は少しだけ引きつっていた。
どうやら、思っていたよりも百々姉が盗撮していた事に対して嫌悪していたようだ。
「…これは、うん……まあ、今はなんとも思ってないから…。」
「その反応は絶対後で言われるやつ…!!…うぅ、嫌だー!私を嫌わないで!!」
足に絡みつくよう引っ付いてくる。
大の大人の行動として引くよりも気持ち悪いが勝ってしまう。
この前は、こんな人に拒絶されて凄く怖いと思ったけど、今はそんな思いも消えた。
むしろ、速く離れてほしいと拒絶反応が出てしまう。
「き、嫌わないから…一旦、離れよ?」
「嫌だ!離れたらすぐに嫌うんだから!!」
「……むしろ、離れないと嫌うよ!?」
「……なら離れる。」
嫌う条件をあえて出す事で百々姉を退かす。
既視感のある行動に呆れつつも、リビングに通してもらった。
部屋の中はいつも通り少しだけ散らかっていて、百々姉は今回の件で荒れる事はなかったらしい。
友達同士の喧嘩で荒れると言うのも変な事だけど、いつかの時に氷柱姉から喧嘩の時は感情的になって部屋が荒れに荒れると聞いている。
今回感情的にならなかったからか、それとも特殊な事例だったのか。
「紅桜ちゃん、何か飲む?」
「話を聞くだけだからいいよ。」
百々姉は自身のコップを持って私の前の椅子に座る。
そして、神妙な面持ちで私を見つめる。
どちらがしゃべりだすかの探り合うかのように、お互いの顔を見ては目をそらすを続ける。
百々姉が話さないから私から喋ればと思ってはいるけど、口が開かない。
不安とは違う何とも言えない気持ちがまとわりついている。
勇気を出すと決めたのに、それでも気持ちが入りきらない。
きっと百々姉も私と同じはず。
目があえばすぐにそらしあってるから、気持ちは同じはず。
だけれど、もしもを考えてしまう。
言い出さない理由が何なのか分からないのに、悪い方へ考えて要らない心配をしてしまう。
こういう時、氷柱姉なら何も考えずに切り出してくれるのになと思ってしまう。
頼りにしてきたからこそ、氷柱姉の存在を再確認して心が痛くなっていく。
「ひっちーから何で聞かないの?」
「話せなくて……」
「ひっちーが話さないならわざわざ話す必要あるの?お互いに聞かれたくないことなんだよ。……特に――ちゃんにはさ。」
低い声で私を毒づく。
まっとうな意見だし、きっと百々姉以外でも同じ意見を持ったはずだ。
「私は、知らない所で何か起きるほうが嫌だよ。別に、全部を知りたいわけでもないよ。たださ、一言だけでいいから言ってほしいだけなの。それって、おかしい事かな?悪い事かな?」
私の本音を話す。
百々姉に言葉の意味が伝わったか分からない。
何を言っているのかと諭されてもおかしくないぐらい、自分でも訳が分からなくなった。
頭が真っ白になって、ただ感情に流された。
「私はさ、そういうの嫌いだよ。」
顔をそらした状態で悪態をつき、私に告げる。
その顔はいつも笑っているようなものではない。
素の百々姉だった。
「一言でもって言いながら結局は全部知らないと満足できないよね?……てか、それってさ紅桜ちゃんのお父さんみたいだよね?違うかな?」
「そ、れは……」
「多分今の私は腹が立ってるから正直いつもみたいなおちゃらけた言動は出来ないけど、あえて言わせてもらうと、今の紅桜ちゃんは自身が嫌いな存在と同じものになろうとしてるよ。一度考えた方がいいよ。」
頭を鈍器で殴られたような衝撃が意識を揺らす。
私が嫌いなお父さんに似る……それが私にとってどんな意味を持つのか考える必要もない。
そして、嫌悪してしまう私に悲しくなってしまう。
昔のお父さんはただ怖いだけの人だった。
怯えてしまい逃げる事を強いられるような焦燥感を感じさせる人だった。
でも、今はただ心配性の親に変わった。
自分の子供を愛するがあまり過保護に走ってしまった親。
だからこそ克服したと思っていた。したつもりになっていた。
今の話を聞いて、私は今のお父さんだけでなく、同時に過去のお父さんも見ている。
同じ存在でありながら、見なくていい部分を無視できないでいる。
「今回の件はさ、正直今までと変わらないものだよ。価値観の違い。それで言い表せるよ。たださ、私は譲れなかった。」
「……」
「私たちが大学のサークルで衣装を作ってるのは知ってるよね?事の発端はそこでだよ。……私たちはさ、ファッション業界で働くために結構ガチ目でやってたの。しかもさ、みんなひっちーの思いに感銘を受けたから一緒にやってたんだ。……なのにさ、急にやめるって言いだしたんだよ。……正直冗談かなと思ったし、いまでも冗談だったって言ってほしいよ。」
そんなこと知らない。
百々姉たちがそんな事を思っていたなんて氷柱姉から聞いてない。
そんな大事な事話してもらったことがない。
それに、氷柱姉の思いって……
「だからさ、ガチなんだって思ったら言い争いになってた……ていうか、一方的に怒鳴っちゃった。あの時は動転してたから余計にさ……。でも、今でも自分が悪いとは思ってないよ。ひっちーが私を誘った時に話してくれた事…………これで話は終わりだよ。本当にこれ以上はひっちーに聞いて。私の口からは無理。」
「…………知らない。そんな話してもらったことないよ。」
「そうなんだ。でも、今知ったよね?ならもういいよね?ごめんけど、これ以上は私もしんどいよ。」
「…………氷柱姉はどうしてサークルを作ろうとしたの?」
「それもひっちーの口から聞いて。私は……話したくない。」
「私からは言えない」、「私から話したくない。」そんな言葉が私を渦巻く。
みんなが私を拒む。私を拒絶する。
助けてほしい。
「…………話したくないって、なら、誰に聞けばいいの?」
「だから、ひっちーに……」
「氷柱姉はいないんだよ!!」
「は?どういう――」
「なんで誰も教えてくれないの?……私だって、聞くばかりでいたくないよ。でも、分からないんだよ!なんで氷柱姉が帰ってこないのかなって、私が嫌われることをしたのかなって考えても分からないから聞いてるんだよ?私には理由が思いつかないからみんなに聞いて、聞いて……なのに、みんな私を拒絶して……避けて、避けて、避けて……っ!なんでみんな私を嫌うの!?……嫌われること、したかな?……何が悪いの??……ダメな理由を教えてよ!話してくれないと分からないよ!!……私はただ嫌われたくないだけなのに……。一人は辛くて苦しいから、泣かないでいいように誰かといたいだけなのに…………」
「紅桜ちゃん……」
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