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泣きました!?

 水滴の音が部屋の中を反響する。

 規則正しく落ちる水滴をただ眺め続け、変化を待ち続けた。

 私に触れる温かさが戻ってくるのを今か今かと冷えた手を握り締めて我慢する。

 数時間前までは家の入口の前からする足音を聞いては外を眺めたけど、今では反応することに諦めた。

 俺でもまだ待ちたいという希望を捨てきれなくて、座り続けていた。

 自分の正直な気持ちがどれか分からず、動けないでいた。

 

 同じようなことはいつか来ると分かっていた。

 氷柱姉の事だからあれが別れの言葉だったんだって今思い返せば簡単に分かる事だった。

 違和感だってあったし、察せることが出来たはず。

 もっと手を伸ばせばきっと氷柱姉の事を分かってあげられた。

 考えを理解できたかもしれない。

 それなのに私は手を伸ばそうとしなかった。

 自分の気のせいだと切り捨てて、氷柱姉に寄り添おうとしなかった。


 私の時、氷柱姉はあれやこれやとやれることをやって私に手を差し伸べてくれた。

 どれだけ私がはねのけても、そのたびにまた近づいてくれた。

 そして、私をあの鳥籠から出してくれた。


 それに比べて私は……。

 一度別れただけで心を折られてしまい動けないでいる。

 氷柱姉のように強ければと言い訳を並べてうずくまっている。

 なんて薄情な人間なんだろう。

 手を尽くせばもう一度話せるかもしれないのに、それでも自分の行動を決められない。

 

 鳥籠から解放された小鳥は、自由になったけれどどこに飛べばいいのか分からない。

 自由に飛べるのに、いざ自由になっても何を見たくて、どこに行きたいのか、どうやって行けばいいのか、結局自分で決められず最終的には鳥籠に戻ってくる。

 きっとあの童話の小鳥はそうなんだ。

 だって私がそうだから。

 檻に閉じ込められるのは窮屈で苦しいけれど、自由という足枷の方がよっぽど苦しい。

 道標がなくて、自分で選択できないから、不安で仕方がない。

 鳥籠の中に居たほうが何もしなくて良いんだと安心できる。


 私はきっとここにいることで安心してる。

 どうすればいいか解らなくて、自分では決められない現状で、何もしないことで安心してる。

 自分で決めて失敗したときが怖くて不安なんだ。

 だから動かないっていう安心をやめられない。

 酷くて最低な妹のままでいたとしても、やめられない。


「紅桜く…ちゃん、そこでうずくまってちゃ駄目だよ!!」


 永久の声がした。

 どうしてだろう?

 部屋の鍵を開けっぱにしたから入ってきたのかな?

 そんな事したら、不法侵入にで本当なら通報されちゃうよ?


「今は何もしたくないから、帰って。」


 こんな惨めな姿を見られたくない。

 私らしくない私を知られたくない。

 ドロドロでぐちゃぐちゃな私が世界に認知されることにならないでほしい。


「私は紅桜ちゃんでないから気持ちを知りえない。どんな状況かすら分からない。」

「だったら、帰って。こんな姿見られたくない。」

「それは無理だよ。だって、分からないのは教えてくれないからだよ?何も相談してくれなからだよ?そんなの分かるわけないよ!今は紅桜ちゃんがどんなことに直面してるのか教えて、話して。そしてさ、ボクたちに協力させてよ。」


 そんな優しい言葉をかけないで。

 私を光で満たそうとしないで。

 私は、そうしてもらえるほどの権利を有してない。

 助けてと声を上げる資格なんて……

 私は、私を…、許したくなくて、許されたくなくて……


「……あれ、なんで……なんで涙が……」

「優しいからだよ。誰かのことを考えられる優しい子だからだよ。」

「そんな事…。私は、そんな人間に……なんで……私は泣いたら…………いけないのに……」

「……涙拭いて。」


 差し出されたハンカチを、見つめる。

 受け取っていいのか、ぐちゃぐちゃの頭で考える。

 手を出したいとは思ってる。

 差し伸べてくれた手は取るべきだと理解はしてる。

 でも、体が動いてくれない。

 取ってはいけないと訴えてくる。


「あ……」


 躊躇ってた私に、永久が寄り添ってくれた。

 そっとハンカチで涙を拭いてくれて、その手を握った。

 震える手から永久の温もりが伝わって、止めていた気持ちが溢れてしまった。


「紅桜ちゃん?」

「ごめん……。ごめん……。ごめんなさい……。」

「謝らなくても大丈夫だよ。誰も怒ってないよ。」


 今も心の中で優しくされるなと訴える気持ちがある。

 それでも今だけは溢れてくる気持ちに流されたかった。

 この気持ちを止めたくなくて、止める力がなかった。


「焦らなくていいよ。気持ちが落ち着くまでゆっくりしていいからね?」

「うん……うん……。」


 やっと気づいた。

 許されたく無い気持ちがずっと邪魔してた。

 

 私はどこかで、誰かに……許してほしくて、許されたくて……

 そっと寄り添ってくれる人が欲しかっただけだった。

 やっぱり最低な人間だ。

 優しくなんて無い。

 何もできなくて誰かに甘えて助けてもらわないと何もできない臆病な人間だ。


 それでも今は、氷柱姉の助けになりたい。

 それに、まだ……一緒にいたいよ。

 この気持ちに嘘偽りはない。


「ありがとう。永久のおかげで気持ちの整理ができたよ。」

「謝らないで。ボクは偶々居合わせただけだよ。……それに、来たのは私だけでは無いから。」

「それって、」

「外で待ってるよ。」


 永久の指を指す方を見る。

 逆光で顔は分からないけど、輪郭で誰がいるのか分かった。


「なんで2人が……」

「2人は紅桜ちゃんの事が心配で来たんだよ。」

「……なんで」

「そんなの決まってるよ。……大切なひ…友達だからだよ。」


 そんなの分かってる、分かってるよ。

 私も大切な友達だって思ってる。

 1年間だけだったけど、3人でいるのはすごく楽しかった。

 そんな3人を大切な友達以外ありえないよ。


「ちょっと顔洗ってくるね。こんな顔2人に見せられないから。」

「ボクは良いの?」

「永久は勝手に入ってきたからね。仕方ないよ。それに、異性ってわけでもないでしょ?」

「今は異性だよ!?」

「そうだったね。」


 3人には少しだけ待ってもらう。

 髪はぼさぼさだし、泣いちゃったから目元がきっと赤くなってる。

 こんな姿は見せられないね。

 見られるならせめて、元気な姿の方がいいよね。

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