模擬店戦争です!?
「やはり、何度言ってもだめなようですね。」
「それはこっちの台詞だよ。小さすぎる脳みそに直接刻まないと駄目みたいだね。」
「もうこれは会話では収まりませんわ!」
「そっちがその気ならこっちもやってやる!」
「皆さん立ち上がるときですよ!!」
「こっちも黙ってらんないよ!!」
両委員長の声に反応して、座っていたみんなが立ち上がる。
もうやり合わないと気が収まらないところまで来たみたい。
こうならないでほしいとは思っていたけど、現実は非情だね。
「私達が最初に言ったよね?暴力は無しだよ?」
「紅桜ちゃん……」
「水沢さん、話し合いのための場といったはずです。」
「小道さん……ですが、これ以上無理ですわ!」
「私ももう無理!もう我慢できない!!こんな話を聞かない人と話してても意味ないよ!」
「それはこちらの話ですわ!」
両者ともに睨みを効かせている。
他の生徒も委員長についで突撃体制となっている。
合図があればすぐにでも衝突しそうだ。
「これは衝突する以外に終わらなそうだね。」
「ですが、そんな事になれば……」
小道ちゃん達が不安そうにこちらを見つめてる。
とはいえは、私にはどうする事もできなくて……。
「こうなったら、私達だけでも逃げて巻き込まれないようにしよっか!」
「霜雪さん!?」
「さ、逃げよう!」
急いで部屋の外に出る。
私に続いて中立組は部屋の外に出る。
「私達が部屋の外まで出てこないように見ておくので、小道ちゃんたちは先生に報告して!」
「わ、分かりました!」
入り口は2箇所で片方を私と樹、もう片方を永久と神事で念のため抑えておく。
中からは鈍い音が響いていて、殴り合いが起きているように思えた。
雄叫びも上がっていて、誰の声かまでは判別出来ないけど未だに文句を垂れ流しながらの乱闘みたい。
まあ、何も喋らず淡々と殴り合っていたらそれはそれで恐ろしい。
想像するだけで背筋が凍って吐き気がしそう。
先生が着くころには激しい音は鳴り止まっていて、部屋を覗くと黒瀬が拳を上げて一人だけ立っていた。
今回の争いの勝者としてそこに君臨していた。
それもつかの間、先生たちに捕獲されてほぼ全員が病院送りとなった。
後にこれは模擬店戦争として語られるのはまた別の話。
病院送りにされた生徒が大半で、そのほとんどが一週間程度の自宅謹慎となり学級閉鎖になる程だった。
その間私は特別クラスの方にお邪魔させてもらう事で登校することに支障をきたさなかった。
けれど、満さんからは何をしているのと呆れられたり、夜宵先輩からは模擬店の内容を早く決めるようにとせかされたりして少し忙しかった。
運が良かった事に、小道ちゃんと連絡を取り合えたので委員長とは間接的に通じる事で模擬店の内容は平穏に終わった。
内容が決まった事は後日クラスに両委員長の和解の元と記して通達してこれ以上の被害を抑えた。
水沢さんが反発することを恐れていたけど、模擬店戦争時に黒瀬に正真正銘敗北したことで反発が少なかったらしい。
小道ちゃん達には悪いとは思いながらも、最終的には事なきを経立たので安心だ。
「あんたのクラスは面白いわね。私の時でもそんなこと起きなかったわよ。」
「それは、氷柱姉のクラスにみんなが集まってたからじゃないの?」
「そうだったかしら?…………そうだったかもしれないわ。」
ちょっとした沈黙の後のに氷柱姉は納得した。
何か引っかかりを感じていたようだけど、それを気にしないようにしていた。
「そう言えば、紅桜はどの大学に行くのか決めたの?」
「今の所は氷柱姉と同じところを目指す予定だよ。まあ、学力に問題が無ければだけどね。」
「そう…………私の妹なら大丈夫でしょ。」
「長い沈黙の後に言われても説得力ないよ。それよりどうしたの?氷柱姉らしくないよ?」
「らしくない?どこあたりがかしら?」
「急に進路の話をしだすし、いつもよりボーっとしてる気がする。」
「そう、かしら?」
遠い目をして考え込む。
そんなところがやっぱり氷柱姉らしくない。
考えずにすぐに返答する姿を見てきたから、違和感にしか感じない。
「今日、百々と喧嘩したの。」
「……え?喧嘩、したの??」
「ええ、そう。」
「ど、どうしたの今日に!?……ん?え?本当にどうしたの!?」
「本当に、どうしてかしら?……何かあったわけでもないし、別に百々を嫌いになったわけでもないの。……なんとなく、そう、なんとなく喧嘩になった。怒ってもないし、悲しくもない。ただ空しいのよね。」
唐突なカミングアウトに動揺するだけでなく、氷柱姉らしくない言動に心配してしまう。
元気いっぱいで荒れっぽくて破天荒な氷柱姉が、今冷静に物事を見て俯瞰して冷めていた。
こんな喧嘩した後に見えない姿は、異常にしか見えなかった。
「氷柱姉……」
「何も言わなくてもいいわ。ただ、独り言を言ってみたかっただけよ。」
氷柱姉は歩き出した。
何を口に出せばいいのか分からず、私は静かに後ろを歩く事しか出来なかった。
アパートに着いた後も氷柱姉と何を話せばいいのか分からず、無言のままだった。
その間ずっと氷柱姉は注意散漫で、何を考えているのか分からかった。
私がいる事すら忘れているのかもしれないと思うほどで、少し悲しかった。
「……明日……もしくは明後日……」
「氷柱姉……?」
無意識によるものかもしれないけど、氷柱姉が声をこぼした。
ほんの一瞬だったから意味のある言葉は聞き取れなかった。
「なんでもないわ。」
「そう、なの?」
「ええ、気にしなくていいわ。……それより、最近は一人でも大丈夫そうね。」
「それは、元々一人暮らしだったし。」
一人暮らしを始めた当初は百々姉にお世話になったけど、1ヵ月もすれば問題もなくなったからね。
今からでも一人暮らしに戻って問題ないよ。
「そうよね。紅桜もそろそろ大人の仲間入りよね。」
「……ちょっと恥ずかしい。てか、さっきからどうしたの?」
「別に、気にしなくていいわ。ええ、本当に。」
なんだか本当に怖い。
氷柱姉がどこかへ行ってしまいそうで怖い。
「やっぱりおかしいよ。今日の氷柱姉は私の知ってる人じゃないみたい。何かあったなら言って欲しよ。」
「……本当に何もないってば。」
「だって、……百々姉とただ喧嘩しただけなの?原因に何かあったはずだよ?」
「……。そんな事無いわ。いつもと変わらない、いつも通りのちょっとしたことで起きた喧嘩よ。」
「だったら、お父さんに何か言われたとか?氷柱姉がおかしくなる事ならもうそれしか思いつかないよ。」
「あの人は関係ないわよ。紅桜みたいにあの人に抵抗出来ないほどやわに育ってないわよ。」
「それは……」
私が何を言おうと華麗に交わされた。
今の氷柱姉なら少しでもボロを出すかと思ったけど、そんな事無かった。
そして、何も知らないまま2日が経ち、唐突に別れを告げられた。
家に戻るとだけ告げられ、氷柱姉は行ってしまった。
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