特別クラスに戻ります!
「やっぱりさ、出し物変更は今更できないと思うんだよね。」
「そうだね。」
「だからさ、向こう側にやめてもらうしかないよね?」
「それは違う気が…」
学校に来るなり黒瀬が話しかけてくる。
普段とは声のトーンが2つも違い、そして内容がタイムリーであまり良いものではない。
正直、その話が出るだけでクラスに電流が走るようなピりついた空気になるのでやめてほしい。
「また何か言われたの?」
「それがさ、向こうの組がの代表者が文句ばっか言ってきて疲れてるんだよ。ワザと被せただの嫌がらせだの文句が多すぎだよ。」
「それはご愁傷様だね。」
「他人事みたいに言わないでよ。紅桜ちゃんも同じクラスでしょ?」
「私は別にそこまでだし。」
愚痴を何度も聞かされる。
こうも毎日となると、そもそもこった模擬店はせずに簡単にすればいいのにと思ってしまう。
ただ、クラスメイトにそれを言うと反感を食らいそうなので言わないけど。
「そうだ、私そろそろ行かないといけないから…」
「どこか行くの?次は授業だよね?」
「満さんたちのほうに行くんだよ。先生にも言ってるよ。」
「そうなんだ。樹君にも言っておくね。」
荷物をカバンに戻して教室を出る。
数日あの場所に行かないだけで、懐かしさを覚えてしまう。
とはいえ、一度保健室の方には顔を出してはいるんだけどね。
保健室に入ると、いつもの先生に挨拶をして中に通してもらう。
そして、特別クラスの部屋の前で一呼吸おいてから扉を開けた。
「えー、クラスの出し物を一つしたいと思います!何か意見がある人!!」
「特になし。てか、やる気なし。」
「私も特には…」
「せめてやる気はあってよ!」
中から騒がしい声が溢れる。
顔だけのぞかせてみると、ホワイトボードに向かって話し合っている。
内容的には、文化祭時の出し物についてみたいだけど、このクラスでも何かするつもりなのかな?
「みんなおはよう。」
「あれ、紅桜ちゃんだ!どうしてこっちに?」
「せ、先輩!」
「まだあっちのクラス居続けるのは大変なので戻ってきました。」
「そうなんだ!……てか、ちょうどいいところに来たね!」
夜宵先輩に腕を引っ張られて二人の間に座らせられる。
ホワイトボードには「目指せ売上ナンバーワン!」と書かれている。
そして、模擬店の候補としての条件らしきものがびっしりと書かれていた。
「今ね、二人に模擬店の候補を考えてもらってるんだけどね、なかなか良いものがないんだよね。紅桜ちゃんは良い案ないかな?」
「急に言われても困りますよ。」
「そっか……紅桜ちゃんならいい案があるかもって思ったんだけどね。」
夜宵先輩に期待されるのはいいんだけど、変な期待が多いんだよね。
今回みたいに急に言われて答えれる人間なんてそうそういないのに。
「私よりも二人がやりたいもののほうが良いと思いますよ?私は基本的には向こうのクラスの方で頑張る予定ですし。」
「え、紅桜ちゃんはこっちを手伝ってくれないの!?」
「手伝いはしますけど、毎年自分のクラスは忙しかったので。それに……」
「?」
「今年も実行委員会の方もありますから。」
「あれ、紅桜ちゃんは実行なの?」
「そうですよ。なので、まともな時間が取れないんですよ。」
「先輩、実行委員会ってなんですか?」
「あ、美和ちゃんは一年生だから詳しくないよね。」
実行委員会は文化祭を取り仕切る委員会。
文化祭の予算から何をするかを決めたり、開催中に問題が起きないか見回ったりする。
基本的には一年生で行った人が継続的に続けることになる。
私はやる気はなかったんだけど、氷柱姉と百々姉にやるように詰められたので仕方なくやることになった。
でも、入ってみれば時間が取られるだけで、とても難しいことをやらされるわけでもないので苦には感じなかった。
「そうなると紅桜ちゃんを頼れないね。私も生徒会で動けないから本格的に二人だけに頑張ってもらうことになるね。」
「別にやる必要ないでしょ?私と美和だけで出し物をしたところでどうせ人も来ないし。」
「だめだよ!二人とも出し物がないと休みそうなんだもん!」
「…………ちっ。」
満さんは見透かされたように舌打ちをした。
満さんの性格的に予想はできるけど、そこまで嫌っているとは思ってもいなかった。
なにか嫌な過去でもあるのかな?
「でも、実際に二人だけとなるとかなり大変だと思いますし、現実的ではないですよね?」
「紅桜ちゃんまでそんな事言うの!?」
「夜宵先輩が何を重きにしているかは分かりませんけど、1クラスで行うものを二人でってなると可愛そうですよ。」
「そ、それは……」
「それに、強制も良くないですよ。誰もが文化祭を楽しめるわけでもないですし。」
「そうなんだけど……、せっかくなら二人にも楽しんでもらいたいんだよ!」
夜宵先輩の言いたい気持ちも分からなくはない。
文化祭はお祭りなわけだから、みんなで盛り上がったほうが楽しいに決まってる。
「わ、私、模擬店よりも実行委員会やってみたいです!」
「え?」
「せ、先輩がやってるんですよね!わ、私も手伝いたいです!」
静かにしていた美和ちゃんが声を出す。
その言葉が意外だったので驚いてしまった。
「美和……、あんた言ってることの意味わかってんの?」
「分かってますよ?実行委員会に入れば先輩と一緒にいられるんですよね?」
「ま、まあ、あってはいるけど……」
なにか誤解してそうだね。
でも、実行に入ることは悪いことでもないし、静かにしておこうかな。
「なら、これで本格的に模擬店は無理ね。私一人でやるのはゴメンだから。」
「そうだね。……だから、みんなで実行やろう!」
「は?」
「お姉さん感動してるよ!美和ちゃんが自分から委員会に入りたいだなんて……。前は人と接することから逃げてたのに嬉しい限りだよ。だから、せっかくなら満ちゃんも実行に入ってみんなで文化祭盛り上げよう!」
なんの脈絡も見えないのに夜宵先輩は嬉し涙を流し始める。
この人の情緒は本当におかしい。
「私はやらないわよ!」
「なんで!?みんなで実行やろうよ!」
「嫌よ。面倒そうだし。」
「えー!3人とも実行やるなら満ちゃんもやろうよ!二人もそう思うよね?」
「満先輩が他人と協力するようなことは苦手そうなので、無理強いは……」
「はぁ?」
「ご、ごめんなさい。」
「私も無理強いはしない派かな。やっぱり本人がやりたいかどうかってかなり重要だと思うよ。」
「二人ともなんで!?このままだと本当に満ちゃんがぼっちの文化祭になっちゃうよ!?」
「別にそれぐらい……。」
満さんは気にしていない様子。
とはいえ、たしかに一人でっていうのは楽しくなさそうだしせっかくなら誰かと楽しくしていてほしいな。
「満さんがそれでいいなら私は気にしないんだけど、一人でっていうのはほっとけないな。やっぱり誰かといたほうが楽しめるから。」
「そうだよね、紅桜ちゃん!」
「でも、強く言えないからね。……でも、満さんがいてくれたら嬉しいな。樹達も実行だからみんなで楽しめそだけど。」
「え、あいつらも実行なの?当日、みんな忙しいの?」
「そうだよ。後黒瀬もね。去年それでやったから今年もみんなで実行なんだよ。」
「となると、本当にぼっ………………やっぱり、私も実行やる。」
「え?」
さっきまで嫌がっていたのに満さんが意見を変えた。
頑なに断っていたのにどうしてだろう?
「これでいいでしょ?」
「え、本当に良いの!?」
「良いって言ってるでしょ。」
「やった〜!これでみんなで実行だね!」
何が決め手になったのか、満さんが意見を変えたことでみんなで実行を行うことになった。
「でも、どうして急に?」
「だって、あいつらみんな実行なんでしょ?なら、当日私が本当にボッチみたいになるじゃない!……文化祭は両親が来るのよ。誰か一人捕まえて友達役をやらせようと思ってたけど、みんないないなら文化祭で一人のところを両親に見られるかもしれない。それだけはやだ。」
「なるほど……。」
「てか、本当なら、美和がその役だったのよ?なのに忘れてあいつは……。」
思ったより満さん的に深刻な問題があったらしい。
何はともあれ、みんなで実行をするのは楽しそう。
「気になったんですけど、いまから実行を増やせるんですか?」
「それは私から言っとくよ。人では大いに越したことはないから。それに、向こうも私の頼みなら聞いてくれると思う。仲良いから。」
問題なく実行を行えそうだね。
今年の文化祭は楽しくなりそう。




