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夏休みは終わりです!?

 長いと思っていた夏はあっという間に過ぎて行った。

 思い返してみれば色々あって、けど少しの出来事しかなかったようにも思う。

 無駄な時間と思える日もあったけど、それにはちゃんと意味があったかもしれない。


「行ってきます!」


 朝早くから氷柱姉に声をかけて外に出る。

 夏終わりと言うこともあって、眩しい日差しはもう無い。

 涼しい風が肩を掠める。


 後期初日となると少しだけ緊張してしまう。

 約半年クラスメイトと顔を合わせていないので、どんな反応されるか怖くて仕方ない。

 今にも立ち止まって帰りたいけど、何とかその思いをかき消す。

 

 何度も自分に言い聞かせて勇気を出す。

 早くなる鼓動を無理やり押さえつけて、垂れる冷や汗を腕で拭う。


 学校についてまず初めに保健室へ向かう。

 すぐに元のクラスの教室へ向かいたいところだけど、やっぱり心の準備が出来上がってない。

 それに、今日は早く来たからまだ時間もある。

 ここで心の最終準備を終えて元の場所に戻るんだ。


「おはようございます、先輩!」

「早いわね。」

「おはよう。」


 保健室に向かうと、既に美和ちゃんと満さんが居た。

 今日の事についてはまだ話してないけど、そう言う予感を感じ取っているのかもしれない。

 2人の顔はいつも通りに見えてどことなく違和感がある。


「あのね、今日は……」

「今日は、私達少し早く帰ろうと思ってるの。だから……」

「先輩の、用事がある、なら、時間をかけて……ください。」


 2人なりの応援かな?

 せっかくの夏休み終わりの初日なのに顔が歪んでる。

 美和ちゃんに関しては鼻水まで流して、本当にしょうがないな。

 そこまでされたら、うだうだ文句を言ってられないよ。


「行ってくるね。」


 返事は無かったし、私も振り返らなかった。

 教室に近づくにつれ人が多くなってくる。

 その度に視線が増えていき、足早となって鼓動が加速する。

 同じ年なはずなのに、同性異性含めて上から覗き込まれて動物の餌になった気分。


「……っ!」


 教室のドアを開けると、クラスにいた人たちの視線を全て集めてしまう。

 知らない人が急に入ってくると、みんな気になっちゃうよね。

 私だって、知らない人が教室のドアを開けたとなると、そっちに目が行ってしまう。


 教室に入ると、一目散に教卓の上に向かった。

 永久の話によると新しい席の表が教卓の上にあるとのこと。

 

「!」


 誰かが持ち去ったら位置を変えている事無くちゃんとそこにあった。

 唯一懸念だった『私の名前が無い』と言う事もなく、逆に気遣ってか後ろの窓側に私の席があった。

 私のクラスは先生の意向で席替え後の席は後日初めて知る事になるので、永久でもどこになっているか分からないと言う事だったのでちょっとだけ心配だったけどそこは大丈夫そう。

 それに、前の席に樹で横は黒瀬だ。

 これも気遣っての事だと思う。


「……まだかな?」


 早く来てしまったとはいえ、そろそろ4人の誰かが来てもおかしくない時間。

 それまでずっとクラスメイトの視線に耐えないといけないのでちょっとだけ早く来てほしいという気持ちがある。

 そして、その反対にまだ来てほしくないという気持ちもある。


 しかし、いざその時が今か今かと待ち構えるのは本当に緊張する。

 自分の身なりがちゃんとしているか気になってしょうがない。

 ついつい制服やシャツ、前髪なんかを触ってしまう。

 鏡があったらこんなこと気にならないのにと思ってしまうけど、昨日までの私にはそんな事に気が回っていなかった。

 今後は手鏡一つは持ち歩くようにしないとな。


「紅桜、ちゃん?」

「……おは、よう////」

「きゃあー!!おはよう!!」


 黒瀬が教室に入って来たかと思ったら、あいさつの後に飛びつくように抱き着いてきた。

 クラスメイトが見ているというのに、ここまではしゃぐと今までの猫かぶりは意味をなさないね。


「く、苦しいよ。」

「ご、ごめん。けど、どうしたの!?なんでここに!?」

「その、ちゃんとクラスに戻りたいと思って……」

「そうなの!?嬉しいよ!!」


 抱きしめる力を緩めたかと思ったらまたすぐに力強く抱きしめられた。

 元々男だって知っているはずなのに、よく抱きつけるなと感心しながらもちょっとだけしんみりしてしまう。

 今まで異物を見る目しかここにはなかったから、ちゃんと私を見てくれる人が来てくれて安心する。


「もう来てたんだ。」

「永久、おはよう。」

 

 黒瀬に抱き着かれている間に、永久が来ていたみたい。

 永久には樹よりも早く来てもらって、少しでも緊張を和らげてもらう予定だった。

 だからこうして来てもらうと安心感が段違い。


 後は樹と神事が来るのを待つだけだ。

 永久と黒瀬に身なりの確認をしてもらいながら、ちょっとだけ世間話をして気持ちを落ち着かせる。

 

 周りの視線はまだ気になるけど、2人が居てくれるお陰で何とか耐えられてる。

 だけど、毎回扉の開く音を聞くたびに何度も反応してしまい、2人に笑われてしまう。

 いっその事扉を開けたままにしてくれればいいのに、なぜかみんな律義に扉を閉めていく。


 「2人とも早く来てたのか。」

 「早くいくなら行ってくれよ!」


 永久と黒瀬の後ろから声がする。

 緊張で鼓動が最高潮に達していて、音が周りに聞こえそう。

 まだ距離があるから樹と神事には私の姿が見えていないみたいだ。

 初めてこんな体で良かったと感じた。


「そこ、紅桜の席でしょ?2人して何してんの?」

「……もしかして、」


 樹が2人を押しのけるように勢いよく顔を乗り出した。

 お互いに目を丸くさせながら見つめあって、静止してしまう。

 樹と会って何を話そうか考えていたけど、いざ本人を目の前にすると何もかも真っ白になってしまった。


 樹は静止した後、まるで何ともなかったように口を動かした。

 いつもと変わらない表情で、平然と声を出す。


「おはよう、紅桜。戻って来たんだな。」

「おはよう、樹………?」


 初めの言葉は日常的なもの。

 けど、少しだけ違和感があった。

 前まで呼び捨てではなかったのに、今日は呼び捨てで呼ばれた。

 だから私もつられて呼び捨てで呼んでしまった。


「私の事……」

「ちゃんと分かってる。というか、知ってた。……お帰り。」

「……えぇ!?」


 素っ頓狂な声が教室に響いた。

 今まで知られていないと思ってたので、動揺を隠せない。

 バレた可能性があるのは夏休みだけど、そんな素振りあった覚えが……あったかもしれない。

 思い返せば、樹がおかしかったことが何度もある。

 

 けど、永久とこないだ話した時に、バレていないだろうという結論になったから失念してた。

 私と同じように永久も驚いていて、2人して気づいてなかったとなると恥ずかしい。


 ただし、黒瀬は驚かずに苦笑いを浮かべていた。

 私達とは違って事を知っていたかのような表情で、絶対知っていた側の人間だった。


「この後は、学校集会だろ?屋上に行かないか?」

「え……うん。」

「じゃあ、俺ら2人でちょっと話あるから委員長は永久と神事がちゃんと集会に出るように見張っといてな。」

「え、2人もだよ!」

 

 手を引かれる。

 暖かくて大きな手は簡単に私の手を覆い隠している。

 前にも手を繋がれることはあったけど、あの時も私だと気づいていたのかな?

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