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練習は終わりです!!

「見てみて!かなり良くなったでしょ?」

「そうだね。これなら一人でも大丈夫そうだ。」


 樹に練習を見てもらってから数時間後、体が慣れてきたことで他抵抗をなるべく受けずに移動できるようになった。

 これならみんなと合流しても大丈夫そう。

 そうとなれば、早く合流しよう。


「紅桜ちゃんに聞きたいことがあってさ、」

「?」


 唐突な質問を投げかけられる。

 その後に出てくる言葉が予測できなくて、口にする言葉を静かに待ってしまった。

 

「俺達の事……」

「うわっ!?」


 樹の方に目を向けていたから周りの事に気がつけなかった。

 大きな波が押し寄せてきて、浮き輪事流されそうになる。

 何とか樹の腕を握ってやり過ごそうとすると、何か大きくて温かいものに覆われた。

 水の流れが治まるとゆっくりと目を開ける。


「だ、大丈夫か!?」

「……は、はい////」


 わたしの眼には心配そうに覗き込む樹の顔だった。

 そして、腕と背中にに当たるゴツゴツとした男らしい手の感触から、私は抱かれているんだと気づいた。


「あ、ありがとう……////」

「いや、大丈夫ならいいんだ。」

「……あの、」

「?」

「その、あの、」


 今の状況を口にしようとすると口ごもってしまう。

 さっきまで全然平気だったのに、なんでこんな時に!?


「……て、手が……当たっ……てて……」

「…?………!?ご、ごめん!?」

「あっ……」


 樹は悪いことをしたという顔ですぐさま手を放した。

 けど、私がその手を掴み返した。

 なんでか分からない。

 けど、まだ掴んだままでいてほしかった。


「嫌じゃなかったの?」

「驚いた…だけ。嫌なわけじゃ、ない。」

「そう……なんだ。」

「……」


 静かな沈黙が流れた。

 手は握ったままで、樹は何も言ってくれなくて余計に分からない。


「先輩から離れろ!!この変態男!!」


 私達の間を割くように水中から美和ちゃんが現れた。

 しかも、掴んでいた私の手を絡めるように奪い取られて、私は樹を放してしまった。


「シャー!シャー!」

「み、美和ちゃん?」

「先輩、何かされませんでしたか!?いえ、今にも襲われそうでしたよね?大丈夫です!私が来ました!!」


 とても満足げに語り始めた。

 ただ、妄想も混じっているようで、これは訂正をしないと。


「樹さんはね、私を襲おうとはしてないんだよ?」

「いえ、そんな事はありません!だって、先輩に抱きついてたじゃないですか!?きっとその後に、あんな事やそんな事をしようとしてたんですよ!」

「それは誤解だよ。樹さんはね、私が波にさらわれないように守ってくれてたんだよ。」

「先輩は誑かされているだけです!」


 すごい圧を掛けながら話してくる。

 美和ちゃんの中では樹は悪者扱いに変わりないのがなんとも悲しい。

 樹は、そこら辺の男とは全然違うのに。


「まあまあ、何か誤解があるようだけどさ、俺は……」

「あなたは黙っていてください!先輩の次は私を…ぐへっ!?」

「黙るのはあんたの方よ?」

「痛いですよ!?」


 美和ちゃんの頭が水中につかるほどの拳骨が降ってきた。

 その手のほうを見ると、満さんがいた。

 そして、反対の手には美和ちゃんのイルカの浮き輪が握られていた。


「イルカごと水中に潜ったと思ったら、2人の前で飛び出して馬鹿じゃないの?その後のこいつはほったらかすし、何がしたいのよ?」

「もがもがっ!!」

「み、満さん、それ以上は…」

「溺れるぐらいの罰がちょうどいいわよ。」


 美和ちゃんは本当に溺れかける寸前に、解放された。

 満さんを怒らせたにしては少し重い罰かも。


「み、満先輩に殺されかけました…ひどいです!」

「それだけ馬鹿な事をしたって事よ!」

「私は別に……」

「へ~、何もしてないねえ?」


 額に怒りマークを浮かべている。

 美和ちゃんが言い訳をしているからこその反応だ。


「まあまあ、美和ちゃんが何をしたのか知らないけど、そこまでにしておこうよ。」

「何言ってるのよ!あの波を起こしたのはこいつなのよ?」

「そ、そうだったの!?」

「ち、違うんです!ご、誤解ですよ!!」

「美和ちゃん、私言ったよね?水回りのおふざけはダメだって。」

「本当に誤解なんです!先輩と会いたくて~!」

「言い訳はダメだよ?」


 満さんの代わりに私が説教する事にした。

 何度言っても守れない子には直々に言いつけないとね!


「ずびまぜんぜじだ。」

「次はないからね?」

「ばぃ…。」


 我に返ると、目の前には鼻水を垂れ流す美和ちゃんがいた。

 さすがに今回もやらかしたかも。


「ご、ごめん。つい言いすぎちゃって。」

「これぐらいでいいのよ。言われないとこの子はダメなんだから。にしても、本当に余計な事を……2人の仲が……」

「?満さん何か言った??」

「何も言ってないわ。それよりも、困ってるそっちをどうにかしたら?」


 樹がここにいる事を忘れてた。

 改めて、樹に向き直ると向こうから声をかけられた。


「紅桜ちゃんはお母さんっぽさがあるんだね。」

「そ、そうかな?てか、それは誉め言葉?」

「誉め言葉だよ。……近すぎると、周りに変な誤解を与えちゃうね。さすがにちょっと距離を改めた方がいいよね。」

「それって……」


 話を逸らしてくれたのかと思ったけど、ちゃんと口にした。

 その樹らしい気遣いに胸が痛くなる。

 

「私は…」

「紅桜ちゃんが良くても駄目なんだ。それに、…いや、これは言わなくてもいいや。ともかく、変に距離を取るつもりじゃないし、基本はいつも通りするよ。ただ、しっかりと客観視して行動するように心がけるよ。」

「うん。」

 

 納得はした。

 多分、一番いい回答で、同意すべきだった。

 けど、やっぱり寂しかった。


「そう言えば、練習は終わったの?」

「それは、終わったよ。」

「そう。ならみんなと合流するわよ。そろそろ押さえておくのが大変なのよ。」

「押さえておくって?」

「ほらほら行くわよ。」


 満さんにせかされて、人の流れを分けながら進んでいく。

 何か嫌な予感はしてたけど、それは杞憂に終わった。


「やっと来たわね。」

「ごめんね。練習が長くなっちゃって。」

「せっかくプールに来たのに、姉妹揃って遊べないのは最悪だったわ。」

「そうだよね!姉妹仲良く遊ぶべきだよね!」


 氷柱姉と百々姉は私が大丈夫になるまで、はしゃがないで待っててくれたみたい。

 けど、大学生がはしゃぐ姿は見たくないので、来ない方が良かったかも。


「騒いだりしないでよ?」

「そんな事しないわよ。」

「私たちは一応大人でもあるんだから、ちゃんと自分を律せるって。」


 不安ではあるけど、二人の言葉を信じる事にした。

 それからは、みんなで固まって駄弁りながらゆっくりとプールを楽しんだ。

 時おり、樹の事が心配になったけど、向こうは平常な感じでちょっと悔しかったりもした。

 けど、こんなにゆったりとしたリラックスできる時間は久しぶりだったから、周りの事がかなりどうでもよく感じた。

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