浮き輪に乗ります!?
美和ちゃんの肩を借りて、ふらついている足取りをどうにかする。
初めての溺れるという体験に、体が戸惑っていた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「少ししたら大丈夫だと思う。」
「ずっと私を使っていいですからね?」
美和ちゃんに心配される姿に、恥じらいを覚える。
まさか、年下の子の前で溺れてふらついた姿をさらすことになるなんて。
「あれ、3人ともどうしてこっちに?」
「浮き輪を取りに来たのだよ!」
黒瀬がカッコつけたように言い放つ。
多分、あまり私の事を出さないようにしての事だろう。
「満先輩、持ってきたイルカさんを出してください!先輩と乗ります!」
「アレ、空気入れるの大変よ?本当にいいの?」
「大丈夫です!」
「そう。」
美和ちゃんは満さんの所で何か取り出してもらっていた。
しかも、何か大きなものだ。
「氷柱姉、浮き輪とかあったりする?」
「あるわよ。ちょっと待ってね。」
氷柱姉も持ってきたようだ。
これで溺れることもないと思う。
「あら?どこにやったかしら?……あったあった。」
「……!?」
氷柱姉が取り出したのは、キャラクターのデザインが施された浮き輪を取り出した。
いかにも、小学生低学年が持ってきそうなものだった。
「ちょっと、それは…///」
「別にいいじゃない。紅桜に似合ってるわよ?」
「私はそんなにお子様じゃないよ!それとも、氷柱姉は黙ってそれを使えるの?」
「私は使わないわよ。だってこの年よ?どう見てもおかしいじゃない?」
「私もそうだよ!?」
真顔で受け答えする氷柱姉に驚愕を覚える。
冷静な声で本当に自分の言っている事に矛盾がないと思ってるんだろうか?
こうなったら百々姉だ。
「百々姉、浮き輪を持ってきたりしてない?」
「そういうのは全部氷柱ちゃんに頼んでるんだよね。氷柱ちゃんは持ってきてなかったの?」
「私の事を小さな子供と勘違いして、普通のを持ってきたなかったんだよ。」
「あーなるほどね。」
「てか、百々姉が持ってるそれは?」
手にしているものを凝視する。
布に覆われた直方体は一体何なんだろうか?
「カメラだよ!」
「……盗撮?」
「違うよ!?そんな目をしないで!?」
身の危険を感じ一歩下がる。
「氷柱ちゃんに夏の思い出用の写真を撮れって言われてるんだよ。」
「夏の思い出…?」
「来年は受験で時間がないかもだから、思い出作りは今年しかないかもだから…」
「それは…そうかも。」
「だから、安心してよ。ちゃんと写真を撮るときは声を掛けるって。」
「絶対だよ?」
「もちろん!」
一応警戒だけはしておこう。
前例がないわけでもないし。
「先輩先輩、イルカさん手に入れたので行きましょう!」
「え、ちょっと!?」
急に手を引かれて体を持っていかれる。
最近思うけど、美和ちゃんって私より力あるよね?
「えーっと、満先輩の話によると、ありました!」
列が出来ているテントまで運ばれた。
前の方は見えず、何をしているのか分からない。
「美和ちゃん、ここは?」
「浮き輪の空気を入れるところです!」
「てことは、それに空気を入れるんだ。」
美和ちゃんが持っている大きいそれに入れるつもりだろう。
イルカ?って言ってたから、イルカの形をした浮き輪なのかな?
それにしても、一人用にしてはかなり大きいかも。
人が多いとはいえ、みんな手慣れた手つきで進んでいく。
気が付けば、私たちの番になっていた。
「先輩は持っててもらえますか?」
「いいよ。…ここが空気を入れる穴だね」
「ブスッと刺しますね。」
空気入れを楽しそうに持って、勢いよく刺した。
昔の空気入れは足で踏んだりしてたけど、今は車のガソリンのようにボタンを押せば自動で空気を入れてくれる。
「かなり大きいはずなのに、どんどん膨らんでいくね。」
「はい!私のイルカちゃんがどんどん大きくなっています!」
どうやらこのイルカの浮き輪は美和ちゃんにとってお気に入りみたい。
大きくなっていくイルカを見てとてもうれしそうにしている。
「これぐらいで大丈夫かな?」
「ですね!さ、これを連れてもう一度プールに入りましょう!」
「ちょっと待って~!?」
またも体を引っ張られてしまう。
そして、プールサイドまで来ると、イルカの浮き輪を水の上に浮かべる。
「先輩、お先にどうぞです!」
「う、うん。」
乗るように促され、流されるように浮き輪に乗る。
イルカの横に持ち手があったので、それをしっかりと握って落ちないようにバランスをとる。
「案外難しいかも。美和ちゃん、もう少し持っててもらえる?バランスが崩れそうで……!?」
「せんぱ~い!!」
勢いよく美和ちゃんがダイブした。
私めがけて体を投げ出し、イルカの浮き輪にものすごい荷重がかかる。
一帯に飛沫が上がり、落ちそうになる体をどうにかバランスとって落ち着かせる。
けど、誰も支えていないので、美和ちゃんが飛んできた勢いでイルカの浮き輪は進み始めた。
「先輩の体気持ちいです!」
「ちょっと、どこ触ってるの!?ダメだよ!?」
「いいじゃないですか。」
「ダメだからね!?それに、急に飛び乗ったら危ないでしょ!?」
「う、うう……それは…」
「もしかしたら落ちてた可能性もあるんだから、水回りのおふざけはダメなんだよ?」
「ご、ごめんさいです。」
美和ちゃんは涙を浮かべ始めた。
さすがに、泣かせようとは思っていなかったので、焦ってしまう。
「あのね、私はそこまで怒ってるわけじゃないからね?」
「で、でも……」
「危ない事をしてほしくないだけだからね?次から気をつけてくれればいいからさ。それに、今日は遊びに来たんだから楽しもうね?ね?」
「は、はい!」
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