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決別します!!

お父さんは頑なに聞き入れてくれない。

 それは、私のことが嫌いだからだと思ってた。

 私の心配なんて一つもないと思ってた。


 だけど違った。

 お父さんは口下手で人に伝えるのが苦手な、優しい人だった。

 常に私と氷柱姉の心配をしてくれてる、とても優しい父親だった。

 前にお母さんがお父さんの事を悪く思わないで欲しいと言ってた。

 それを今なら理解することが出来る。


「問題が起こら無ければ別に良かった。あのマンション自体、先輩の所有地であるからこそ許した。けど、その甘さのせいで大きな間違いをしてしまった。」

「そんな事はないです。」

「いや、大間違いだった。」

「私は、この家に居るままのほうが間違いだと思ってる!だって、ここに居ると、いろんな人に会わなかった。ここに居たら、本性を隠して自分を殺す生活をしてたと思う。それは、お父さんとお母さんにとっては心配事のない幸せな生活だと思う。けど、私にとっては地獄だった。だけど、今はいろんな人に自分を出せるような生活をしてとても楽しいの!」

「そんなことなど知るか。他人に迷惑をかけない生活だったら別に良いと思ってる。だが、お前達は違った。嫌われようが知ったことか。娘達を守るほうが大切だ。」


 お父さんは、頑なに拒んでいる。

 これじゃあ平行線を辿るだけだ。


『これ以上は無理みたいだね。』

『お父さんを説得出来ないって事?』

『うん……、僕には無理みたいだ。』

『僕には……?』

『やっぱりさ、偽物だとダメみたいなんだ。本物が声を掛けないと心に響かないみたいだ。』

『それは、どう言う……』

『てな事で、あとはよろしく!』

『え?……は!?』

 

 視線が一気に変わる。

 観客席で眺めていたはずなのに、舞台役者になったような感覚。


「もう話は終わりだ。これ以上は何を言っても無理みたいだな。」

「そ、そんな事は……」


 先ほどよりも弱弱しい声。

 さっきまでは彼のおかげで声を張れていただけ。

 元の私に戻れば、臆病で何もできない。


「紅桜、どうしたの?まだ、何か言う事があるわよね?このまま終わりじゃないわよね?」

「ぁ、……」


 掠れた声だけが漏れ出る。

 動け私!ちょっとだけでも勇気を振り絞って!


「紅桜?どうしたの!?呼吸が……」


 氷柱姉に言われて、過呼吸になっているのが分かった。

 自分にことに気づけないほど私は、怯えている。

 

「さっきまでの威勢はどこへ行ったのやら。結局の所、お前は弱いままだな。猶更、ここから出ていかせるわけにはいかない。」

「そんな事はない。紅桜は、震えながらもこうやってあんたの前に立った。父親らしくないお前の事を、それでも親として話すためにこうやって出向いたんだ!」

「知ったことか…。」


 私…、私は……


「わ、私は……!」


 声を出すんだ。

 落ち込んでちゃだめだ。

 氷柱姉は私のためにこうやって付いて来てくれた。

 ダメな私を、それでも味方だと言ってくれた。

 

 お父さんのことは今でも怖いと思ってる。

 でも、その怖さの中には、私たちへの愛情もあった。


 臆病で何もできないけど、彼は私の背中を押してくれた。

 今にも肺が破裂しそうなほど、過呼吸になってる。

 けど、負けちゃダメなんだ。

 弱くても、いつか私向かわないといけないんだ。


「氷柱姉のことはすごく信頼してくれる。何時だって最後は助けてくれるんだもん。他にも私には私を助けてくれる友達がいる。私が落ち込んだ時、声を掛けてくれる友達がいる。お父さんはそんな友達がいても関係ないって言うかもしれない。」

「ああ、そうだな。」

「けど、私はここに居るより、友達いる場所のほうがいい。暗くて安全な檻よりも、危険が伴うけど暖かくて皆がいる場所に居たい。お父さんとお母さんには心配をかけると思う。けど、もう少しだけ見守ってほしいんだ。私にとって今が一番大切な時期なの。友達とこれからって所で、檻に籠りたくない。」

「…………」

「私は昔からお父さんの事を怖いものだと思っていた。それは今も同じだけど……けど、とても子供思いで優しい親だって気づいた。今までそんな事に気づかなかったから、お父さんの事が何も分からなかった。……今は、違う。だから、もう少しだけ待ってて欲しい。」


 私はもう少しだけ見も持ってて欲しい。

 確かに、今のままならお父さんに心配をかけるだけだ。

 きっと、この家に居るのが正解なんだ。


 だけど、私は変わりたい。

 弱い私のままでは痛くない。

 強くなりたいとは思わない。

 氷柱姉みたいに強くてかっこいい人にはなれないと思うから。

 

 弱いままでいい。

 ちょっとの勇気を出して動ける、そんな人間になり台だけ。


「お願いします。もう少しだけ待ってください。」


 私は頭を下げた。

 私が今できる最大の敬意だ。


「そんな事をした所で……」

「私からもお願いします。あんたに頭を下げたくはないけど、紅桜はこんなにも外に出ることを望んでる。紅桜は少し特殊な子。あんたが過保護になるとのも分かってる。けど、自由を奪うようなことはしないで。紅桜を守りたいからって、自由は、自由でいることを許してあげて。」


 氷柱姉が頭を下げた。

 プライドの高い氷柱姉がお父さんに頭を下げた。

 それは、お父さんを驚かせる一番大きなものだった。


「…………」

「ねえ、もう少し待ってあげてもいいんじゃないかしら?」

「お前までもか。」

「違うわ。……けど、紅桜が…氷柱が……2人がここまで言ってるのよ?」

「それは……はぁ、お前もか。」

「そんなつもりは……」


 お母さんの話を断ち切ると、お父さんは立ち上がった。

 そして、リビングを出ようとしていた。


「言い訳は聞いてやった。これ以上は聞くに堪えん。」

「ま、待ってください!私は…」

「同じ事ばかりだな。」


 私の言葉はバッサリと切り捨てられてしまった。

 ここまでしても、お父さんは認めてくれない。

 

 お父さんの中で私は無力な人間なのかな?

 何も出来ない、守られるだけの存在なのかな?

 私は、弱いだけの人間なのかな?


 そんなのは嫌だ!

 私だって、私だって、強い人間で居たいもん!

 守られるだけの人間は嫌だ!

 無力な人間には、惨めな人間にはなりたくない!


 だって、ずっと守られてきたから……。

 お姉ちゃんに守られて、守られて、守られて、……ずっと申し訳なかった。

 恩返しがしたかったけど、私にはできない。

 でも、そんな人間のままで居たくない。


 だから、今からでも変わるんだ!

 今変わらないと私は……!


「……分かりました。」


 粗くなる呼吸を無理やり抑え込む。

 なぜか分からないけど、心の底からこみ上げてくるのが分かった。

 それは今までに数少ない経験しかない、けど最近経験した気持ち。


「何が分かったんだ。」

「お父さんは、私たちの事を認めてくれない事を理解しました。」

「……。」

「私は、お父さんなら話し合えば理解してくれると思っていました。怖い存在だけど、血の繋がった家族だから、どこか期待をしてた。でも、私がこんなにしても、氷柱姉がここまでしてるのに、お父さんは許してくれない!優しさを知ったけど、けど、……私の事を理解しようとしてくれないと意味ない!私は、お父さんに縛られる人生は嫌だ!だから、……私はお姉ちゃんと出ていく!」

「何を考えているかと思えば……」

「私は本気だから!!お父さんの事、少しは……でも、もう嫌いだから!!氷柱姉、行こう!!」

「紅桜…!?」


 氷柱姉の腕を引っ張って、玄関に向かう。

 もう私の決意は揺らがない。


「二度と家に帰ってこないから!」

「ふん。やっぱり姉に似たな。勝手にしろ。」


 最後の言葉は、諦めのように見えた。

 親不孝者を憐れむような、そんな声色だった。


 そんな声を後ろにして、私は氷柱姉を引っ張りながら出て行った。

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