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話し合いをします!!

「……何をしに来た。もう家の仕切りは渡らないんじゃ無かったのか?」

「うるさいわね。……これだから嫌いなのよ。」


 家の中に入ってすぐで、こんな感じ。

 幸先はよくない。


「勝手に紅桜を連れ出して、分かってるだろうな?」

「あんたに紅桜の所有権があるわけじゃない。私が外へ連れ出しても、何も悪いことなんてない。だから、怒られる筋合いはないわ。」

「悪い事だらけだ。父親として誘拐まがいの事をされて黙ってるわけないだろ?」

「誘拐?誰がいつそんな事をしたって?……それよりも、紅桜を監禁してた方が問題じゃない?あれは立派な虐待よ。政府の犬である警察が犯罪者とはね。」

「お前こそ何を言ってるんだ?紅桜は自分の意思で部屋に閉じこもっていたんだ。監禁したと言う事実はない。」


 2人の話は平行線だ。

 私を忘れたかの様に啀み合う。

 とても怖くて、話に入れそうにない。


 けど、今日の私は変わるんだ。

 2人に割って入れる私に、生まれ変わるんだ。


「……ふ、2人共……、お、落ち着いて!」


 勇気を振り絞り、弱々しくも声を振り絞る。

 2人に届いたかどうか心配になりながら、顔を伺う。


「紅桜……。」

「……何を言い出すかと思えば、お前は黙っていろ。バカ娘の相手が先だ。お前はその後だ。」

「…ぁ……はぃ。」


 鋭い目つきを向けられ、男独特の低い声で一掃される。

 その声に私は完全に臆してしまった。

 鼓動の高鳴りが頭に響いて反響している。

 私のいる周りが凍らされている様な冷凍感で体が動かずに呼吸が出来ない。

 あれだけ自分に言い聞かせていても、蛇に睨まれた蛙の様に私はダメだった。


「バカ娘がもう一人出来てしまったとはな。しかも、迷惑をかけるだけかけて、怒られれば反論もできない臆病者。こいつは無茶苦茶に反論しすぎるが、お前は……はぁ。」


 ため息をつかれる。

 その行動がまた私を怖がらせた。

 あの人の一挙手一同が、暴力を振るわれる前触れの様で怖かった。

 そんな私を見て、氷柱姉は不安がるし、彼はイラついてる。

 負の連鎖だ。


『僕は、出てきたくなかったんだけどな』


 不意に、懐かしい様な声がした。

 とても安心出来て、体が軽くなる感覚。

 まるで自分が自分じゃなくなっている。

 そして何より、あの人への恐怖がなくなっていた。


「お父さん、先に、話をさせてください。」

「……」

「今回は、私と氷柱姉が悪かったです。でも、それでも、少しだけ、言い訳をさせてください。」

「紅桜?」

「ふん。良いだろう。リビングに来い。」


 誰かに操られているかの様に声が出た。

 私は観客で映画を見ている様な、客観的史観にいる。


「紅桜、……その、大丈夫、なの?」

「氷柱姉、ごめんね。心配かけたよね?」

「そんな事は……でも、とても怖そうにしてたから……。」

「すごく怖かったよ。でもね、やっぱりあそこで立ち止まったらダメだと思ったんだ。だから、もう少しだけ、見てて欲しいかな。」

「分かった。私が見守ってあげる。」


 私じゃない私が氷柱姉と喋っている。

 胸が締め付けられるような苦しみと、自分への無力感に押しつぶされそうだ。


『別に君が自虐的にならなくていいよ。最終的には君がどうにかするんだよ。僕はキッカケを作るだけ。何なら今すぐに変わっても良いんだよ?』


 そんな私を見透かしたように、体を操っている誰かがそっと呟いた。

 まるで私を擁護するように、他人行儀で話しかけてきた。


『それで、代わってくれるのかな?』

『それは……』

 

 今の私には無理だ。

 あの人の目を見るだけで震えそうになる。

 立ち向かうなんて到底無理だ。


『そう……。途中またでは引き受けるけど、最後まではやらないから。結局の所、最終的には君がやらないといけないからね。』

『うん……。』


 私は、勇気を出せなかった。

 何も出来ずに、代わりを務めてもらうことになった。


「来たか。」

「紅桜……」


 リビングに入ると、あの人だけでなく、お母さんもいた。

 可愛そうな人を見る目を向けられて、胸が締め付けられる。

 お母さんが赤の他人のような気がして、吐き気がした。


「話があるんだろう?言い訳を言いたいなら聞いてやる。だが、つまらん話をいつまでも聞いてもらえるとは思うなよ。」

「あんたって親は!!」

「氷柱姉……良いんだよ。」


 そっと手を重ねる。

 私じゃない私のする行動が、胸を締め付ける。


『嫉妬しないでよ。……代わるかい?』

『いい……。』


 また見透かすように話しかけてくる。

 助けてもらっている身で、臆病で動けない私の代わりをしてもらっている相手に、こんな気持ちを抱くのはだめだと分かってる。

 けど、私は……。


「お父さん、今回の事は……ごめんなさい。」

「前置きはいい。言いたい事だけを言え。」

「…はい。……私はまだ氷柱姉と一緒に居たい。お父さんがその事で不満を持っているのは分かってる。けど、私は……」

「何を解っていると言うんだ?」


 あの人は、突如となく声を荒らげた。

 私なら、きっと臆していた。

 でも、今の私はそんなことなかった。

 私の代弁者はその意味を知っているかのように優しい眼差しを向けていた。


「お父さんが私の事をとても心配しているから、ここに居させたいのはお母さんの話を聞いてわかりました。お父さんの知らない所で、色々巻き込まれて、頭を抱えさせるような状況になって…………きっと、私は親不孝者に映っていいたと思います。だけど私は、……」


 代弁者の話を聞いて、少しだけものの見方が変わった。

 お父さんの考えを悟れた気がした。


「そうだ。お前と氷柱は親不孝者だ。問題を起こして、俺たちを心配させる。何か起こっても俺たちの耳に入るのは事件の後ばかりだ。……親として、何も出来ないこの思いが分かるか?常に無力感に襲われる俺たちの気持ちを考えたことはあるか?」

「そんな事今更言っても、」

「氷柱、お前はやっぱり考えていなかったようだな。いつもそうだ。問題を起こして、隠そうとする。別にすべてを話せとは言ってない。危ないことが起きればせめて話してくれれば良かった。けど、お前はそんなこと一切しなかった。なら、俺自身が動くしかないだろう?嫌わけれようが関係ない。二人に何か取返しのつかない事が起きなければ……そう思っていた。」


 お父さんの言葉は、私と氷柱姉の胸に強く刺さった。

 お父さんがこんなにも私達を思っていてくれたなんて知らなかった。


「けど、それが甘かった。紅桜は、入院する羽目になって、記憶喪失になっていた。黒瀬から聞き出すまで何も知らなかった。しかも、それ以外も男に絡まれて事件に巻き込まれそうになっていた。そんな紅桜をこのまま一人で暮らさせていられると思うか?」

「そう思われても仕方ないと思う。けど、」

「いいや、これ以上は無理だ。氷柱が近くに居たのにこうなってしまったんだ。もう周りに頼るだけではだめだ。大切なものは自分の手で守る。それ以外は信用ならん。」


 力強く、お父さんは言った。

 その言葉は自分に戒めるような呪いのように感じた。

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