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救いの手は……

カッターの刃を首に当てて、勢いよく引き抜けばそれで終わる。

私は救われる。

氷柱姉に嫌われずに、私は、私は……


「な、何で……なんで、出来ないの……?わ、わた、私は…――」


手からカッターがこぼれ落ちる。

ちょっと力を込めて引き抜けばよかった。

難しいことでもない。

そんな簡単なことを私は…


「そんな事しないで!」

「ひ、氷柱姉…」


深々と抱きしめられる。

久しぶりに触れる氷柱姉の体はとても暖かかった。


「……っ!ダメっ!…こ、こんなの、こんなのは…」


暖かさに触れて、一瞬安堵してしまった。

でも、本当はダメなんだ。

私は悪い子で、お姉ちゃんにあんなことをしてもらう資格はない。


「違うの!全部違うのよ!紅桜、私を見て!」


振り解こうとすると、氷柱姉はさらに力強く抱きしめる。

そして、私に語りかけてくる。


「私は、紅桜の事を嫌いになってないの。私の事を忘れられた時は、確かにショックだった。でも、もう気にしてないの。」

「そ、そんなはずない!氷柱姉に、いっぱい悪い事しちゃったもん。私の味方のままでいてくれるわけ…」

「私は、いつまでもあなたの味方よ。例え、紅桜が悪い子になっても、嫌いにならない。ずっと、あなたの味方でいてあげる。」

「氷柱姉…」


胸の奥から、気持ちが溢れる。

今にも泣きそうで、叫んでしまいそう。

でも、神様が悪戯をするように、私を自由にさせてくれない。


「お前達、何をしてるんだ!」


部屋が開けられる。

扉の前には仕事姿のお父さんの姿があった。


「不法侵入の通報を受けて来てみれば……氷柱、お前の仕業か?」

「だったら何なのよ!」

「それが父親に対する態度か?……はぁ、いつになってもだな。」


氷柱姉とお父さんの口論が始まる。

その間に私は入ることが出来ない。


「そんな事どうでもいいわ。それより、紅桜は返してもらうわよ。」

「その話か。これ以上、紅桜の一人暮らしはさせられないと言っただろ。」

「何であんたに決められないと行けないのよ!それに、私も一緒に住んでるんだから一人暮らしでもないわ!」

「屁理屈を言うようになったな。……黒瀬からお前達が色々やってるのは聞いた。暴れるだけ暴れて、気付かれないように隠蔽してたようだな。流石に父親としてお前の行動は目に余る。お前も謹慎させてもいいんだぞ。」

「黒瀬のおじさんに無理やり聞き出したの!?」

「お前が静かすぎると思ってな、ちょっと調べさせてもらった。だから、これ以上お前の好きにはさせられない。もちろん紅桜についてもこのままここで暮らしてもらう。それでいいな、紅桜。」

「……は、はい、お父、さん。」

「紅桜!?あんなのの言う通りになっちゃだめよ!!」

「で、でも、お、お父さんには……」


逆らえない。

お父さんの命令は絶対だから。


「お前はその部屋で待っていろ。氷柱、お前は下に来い。色々と説教がある。」

「……クソ親父が!」


お姉ちゃんは腹立たしそうに、暴言を吐く。

私にもそれぐらいの勇気があれば、私は……


「紅桜、きっとお姉ちゃんが助け出してあげる。だから、もう少しだけ待ってて。」

「あ…うん…………。」


震える体を抑えて、何とか声を出す。

その後、お姉ちゃんはリビングに向かった。

下の階からは、暴言や罵声が聞こえる。

それに対して、高圧的な声が抑え込む。


その声から遠ざかるように、私は耳をふさいだ。

お父さんと氷柱姉の喧嘩をする姿が脳裏によぎって気持ちが悪くなる。

何度も何度も会話が繰り広げられ、大きな音と共に静かになる。

2人の話し合いが終わったようだった。


その日を最後に、お姉ちゃんは家に居られなくなった。


私はまた、鳥籠の中の鳥になった。

自分の部屋に引き籠る生活に戻った。


そんな私を見かねたのかお父さんの態度はより酷くなり、顔を合わせるたびに小言を言われるようになった。

お姉ちゃんとの口喧嘩でさらに機嫌が悪くなったように思う。

だから、お父さんが家にいる場合は引きこもって、仕事に行っている間外に出るようにした。

恐怖を植え付けられた私はもう、自由になれないのだと悟った。


「氷柱姉………」


せっかく会いに来てくれたのに、私は手を取れなかった。

あの時、勇気を出して氷柱姉の側についていれば、楽になれたのかな?

一緒に、外へいけたのかな?


何が正解だったんだろう。


答えの無い問いが頭の中でグルグルと回り続けてる。

一人でいる時間だけはあるから、考えたくなくても考えてしまう。

これからの私は、一生こんな感じなのだろうか?


「紅桜、お母さんよ。少し、話が出来ないからしら?」


ドアのノックも無しに、声が響く。

切なそうな声で、私を呼んでいた。


「………」


口を開けようと思ったけど、言葉が浮かばなかった。

味方じゃ無いお母さんは、無意識のうちに拒絶していたのかもしれない。


「寝てるの、かしら?」

「………」


お母さんの問いかけに、私は答えられない。

無言のまま時が流れた。

そして、お母さんは一人喋り始めた。


「お父さんは、あんな態度だけど、あなたを嫌っているわけじゃ無いの。あなたの事を大事に思っているのよ。だから、嫌いにならないであげて?それと、少しは、私たちの前に姿を見せてほしいわ。」

「………」


お母さんの言葉は、にわかに信じがたかった。

お父さんか私の事を嫌いじゃ無いなんて、どう考えればそんな結論になるの?

それじゃあ、今まで怖い思いをしてきたのは、ただ私が過剰に感じてただけなの?

私一人がおかしかっただけなの?


もう何も分からない。

唯一の味方が居なくなり、私にはもう縋るものがなくなった。

心の拠り所は自分自身だった。

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