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樹さんとデートです!?

花火大会の場所に着くと人の多さに驚く。

花火大会とは言え地域による催し物程度に考えてたから、ちょっとした娯楽祭だと思ってた。

でも、目の前には人の川ができていて流れるように動いてる。

この中に飛び込めば一瞬で迷子になると思う。


「久しぶりに来たけど、前より人が多くなってるな。」

「い、樹さんは、前に来た事があるんですか?」

「小学生の頃は友達と来てたよ。その時は混雑するほど人がいなかったんだけどね。」


懐かしそうに話す。

私の知らない事を知れて嬉しい気持ちとちくっとした痛みが胸を複雑にさせる。


「紅桜ちゃんはどうなの?」

「む、昔、お姉ちゃんと、いっ、一緒に……一度だけ来た事があります。で、でも、相当昔だから記憶はあんまり……。」


どもりながら話す。

花火大会の記憶を思い出そうにも顔に黒いモヤがかかってよく思い出せない。


「紅桜ちゃんも、花火大会が久しぶりなんだ。なら、存分に楽しもうね。」


樹さんはそう言うと人混みの中に入っていく。

私もその後ろを追いかける。

目を逸らしてたまにチラチラと樹さんの方を見ながら俯いて歩く。


こんな動きになったり、さっきの会話でどもっていたのは樹さんが可愛いなんて言うからだ。

一周回っていつも通りに戻ったけどやっぱりダメだった。

羞恥心が胸を焦がして、冷静な態度を取るのに必死。


「紅桜ちゃんは何か食べたいものある?」


樹さんから声が掛かる。

花火大会に来るのは久しぶりなので、定番らしき物が思いつかない。

周りを見て美味しそうなものを選ぼうにも人が多くて小さい私には何があるのかよく見えない。


「い、樹さんはどうです?おすすめのものがあったりします?」

「屋台でおすすめ、ね……。定番は焼きそばとかイカ焼きとかだと思うけど紅桜ちゃんに選ぶならリンゴ飴とかわたあめとかかな?」

「な、なら、それにします。ち、近くにありますかね?」

「目の前にあるよ。」

「ふぇ?」


樹さんの指さす方を見る。

やっぱり周りの人でよく見えない。

でも、人と人の微かな隙間から暖簾の字がちょっと見えた。


「あ、本当ですね。気がつきませんでした。」

「もしかして、周りの屋台見えてない?」

「そ!そんなことは……」

「その仕草は当たりかな。いや~、気が利かなくてごめんね。紅桜ちゃんの身長を考えれば当たり前だよね。」

「す、すみません。」

「いや謝るのはこっちだよ。お詫びに奢るよ。」

「そ、そんな!悪いで…ぁ、!」


樹さんは人の流れを断つように進行を変える。

逸れないように急いでその後ろを追いかける。


人の流れから抜けて初めて屋台に目を通す。

昔見た記憶似たものがずらりと並んでる。


「リンゴ飴2つお願いします。」

「はいよ。四百円になります。」


屋台に目を奪われている間に、樹さんが購入を進めていた。

樹さんは言葉通りに私に奢ってくれた。

申し訳ないと思いながらもちょっぴり嬉しい自分がいる。


「あ、ありがとうございます。」

「気にしなくてもいいよ。」


樹さんから手渡されたリンゴ飴を舌で舐める。

表面にコーティングされた飴の甘みが感じられる。

 

2人してりんご飴を齧り付きながら、人混みに混ざる。

花火を見るにはまだまだ後ろなので前に進んでいく。


「紅桜ちゃんは、何処から花火が見たいとかある?」

「見える所なら気にしませんよ?」

「そっか。なら、なるべく前の方にしようか。人混みの中だと紅桜ちゃんが見えなさそうだから。」

「そ、そうですね。身長なくてすみません。」

「攻めてるわけじゃ無いから気にしないで。」


樹さんの親切心に心が痛む。

さっきから私のことばっかり気にさせてしまって申し訳ない。


「と、誰かからの電話だな。紅桜ちゃん、ちょっとごめんね。」

「気にしないでください。」


樹さんの電話が鳴る。

すぐに電話に出たので知り合いであることは分かった。

人混みの中なので会話は聞こえなかった。

でも、直ぐに話し終えていたので重要な話ではなかったのかも。


「友達からでしたか?」

「永遠からだったよ。友達から逃げ切ってこっちに着いたららしい。だから居場所を教えてくれって。」

「そうなんですね。」


反応に困る。

広瀬さんが来ることで2人きりじゃなくなるのは私にとって、良くも悪くもある。

デートが続行出来なくなるけど、自然体でいられるようになる。


「反応が微妙だね。」

「か、顔に出てましたか?…ふ、2人きりでって言うのが珍しかったので、その時間が終わるのは何だか勿体無いなって……。」

「紅桜ちゃんにそう言ってもらえるのは嬉しいな。委員長に言ったらきっと羨ましがるよ。」


少しだけ素直になってみたら樹さんから思わぬ反応をもらった。

だから、また顔が赤くなりそう。

いや、きっと赤くなってる。


「す、すみません、ちょっとお花摘みに行ってきていいですか?」

「まだ時間があるし、今言っておいたほうがいいね。トイレは……あっち方向にあるね。」

「わ、分かりました。」


自分が限界に達しそうなのでトイレに逃げることにした。

一度気持ちをどうにかしたい。


「俺も付いて行こうか?」

「いえ、ここ目で待っててもらって大丈夫です!」

「いや、でも……」


樹さんの言葉を待たずに移動する。

もう無理!!

これ以上会話したら顔が赤いのがきっとバレちゃう。

それどころか顔が緩んでるのもバレて、気持ち悪い女だと思われる!


それはダメ!

急いで逃げ込まないと!!


樹さんの言われた方向に向かうとトイレがあった。

お祭りとかのトイレは化粧直しとかの人で混雑しているイメージがあったけど、タイミングが良かったのか人がいなかった。


「誰もいないから独り言が喋れる。……はぁ~、大変だったぁ~。多分バレてなかったよね?……それにしても今日の樹さんは何と言うか女たらしだよ。あんなことされたら誰でも変な気持ちになるよ。」


樹さんの言動を思い返す。

前に黒瀬さんと広瀬さんから私に対する樹さんの言動は普通じゃないって言われた。

なら、今までのも私だからなんだろうか?

それとも、樹さん的にはそんな事は無いんだろうか?

判断に困るし、もしもがあったらと思うと余計にニヤける。


「…と、ダメダメ。そうならないように逃げてきたのに。」


変な思考を飛ばす。

あくまでもこっちに逃げてきたのは普通の思考に戻るため。

邪な気持ちを整理するためだからかそこを間違えちゃいけない。


「私は正常。樹さんに何を言われても動じない。邪な気持ちを抱かない。」


鏡に映る自分に言い聞かせる。

暗示のような効果が期待できるかは謎だけどやらないよりかはましだと思う。


「ずっとトイレに篭るわけにもいかないよね。戻らないと………て、どっちから来たっけ?」


逃げるように走ってきたので戻る方向が分からない。

その場でてんやわんやすることに。

変に動いて、自分の現在地が分からなくなる訳にもいかないし。


「樹さんに付いて来てもらっておけば…いやでも、それだとさっきの独り言が聞かれるかも知れないから……。」


思考がまとまらない。

現状を高い術も思いつかないし、いったいどうすれば……


「嬢ちゃん、困りごとかい?」

「何なら手伝うぜ。」


2人の男性が声をかけて来た。

いかにもチャラ男という印象で、正直怪しさしかない。


「い、いえ。気にしてもらわなくて大丈夫です。」

「そうかい?て、さっきから困った顔してソワソワしてただろ?」

「俺らは気にしないから、頼ってごらんよ。」


私が気にするのでこれ以上気に留めてほしくない。

それにしても、樹さんと逸れている間にこんな事になるなんて本当についてない。


「本当に大丈夫ですか。」

「良いって。ほら、話してごらんって。」

「俺らは困ってる人を助けたいだけなんだよ。」

「いえ、ですからっ、いや、腕を掴まないで!」


色々と方便を並べて近付いてきて、腕を掴まれる。

断れば直ぐにどっか行ってくれるって、甘い考えをしてた。


「放してください!」

「何その反応。まるで俺らが悪いことしてるみたいじゃん。」

「俺らは、困ってる人を助けたいだけなんだって。」

「それは断ってるじゃないです。ですから、手を離してください。」

「強情だな。」

「強情なのは貴方達です!」


断固として腕を離さない。

このままだとやばいかも。

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