先輩はすごい人でした!?
他愛のない日が続き、気がつけば7月に入っていた。
長袖にブレザーを着ていた人の姿は、半袖のみになっている。
薄着になっているのに額から汗を流していて、より肌を露出させ教師に軽く怒られている姿がよく見られる。
特に横では今日も説教を受けていた。
「毎日毎日同じ怒られ方をして、反省する気があるのか?」
「だって暑いんですよ。こうしてないと熱中症になるじゃないですか。」
「満さん、そこは素直に謝らないと…。」
シャツの胸元をパタパタとさせながらダルそうにしている。
気持ちは分からないでもないけど、先生の前では反抗的にならないで…。
「俺も、熱中症にさせたいわけじゃないんだ。せめて、学校の門を通る時ぐらいは身だしなみを直して欲しいだけなんだ。」
「次から気をつけます。」
受け流すようにあしらう満さん。
目の前の教師は私自身が今までに何度か注意されてきたのでどんな人柄かは知っている。
かなり律儀な人で違反行為を許さない。
でも、人を怒るのが好きではないので、ある程度許容するようにしてくれてる。
学校集会でサボった日に見つかった時なんかは、
『サボるなら俺に見つからないようにしろよ。』
と、軽く怒る程度。
建前だけちゃんとしてれば必要以上に問い詰めない。
…だったよね?
でも、誰とサボってたんだっけ?
満さんとそう言うことしてないし、美和ちゃんなら尚更…。
あ、だめだこれ。
考えれば考えるほど気分が悪くなる。
やめないと。
最近、ふとした事を思い出そうとすると頭が痛くなって車酔いをしたような気持ち悪さが溢れる。
何でこうなったのか分からないけど、こう言う時はいつも考えることをやめて調子を取り戻すようにしてる。
今回も同じように思考を止めれば何も無かったように調子が戻る。
「何度も言うが、ここを通る時だけでいいから身だしなみをちゃんとするように。」
「分かりました。」
「すみません。」
丁寧にお辞儀しながら、その場を後にする。
保健室へ行くといつものように奥の部屋へ。
美和ちゃんと夜宵先輩が机に突っ伏して待っていた。
「満先輩、何度目ですか。付き合う先輩の気持ちにもなってあげて下さいよ。」
「しょうがないでしょ?」
「あの先生そこまで厳しくないから、あそこ通る時だけ身だしなみを整える方がいいよ?」
「霜雪まで……分かったわよ。次からはそうするわ。」
「最近の満ちゃんはツンがなくなったけど、これはこれでかわいいな。」
「うっさいわね!」
夜宵先輩はいつもタイミングが悪いし、本人に言うべきでない事を口にするんだよね。
だから今日もこの部屋は特別な騒がしさがある。
「そうだ!みんな夏休みまで忙しかったりする?」
「特にない、かな?」
「私もです。」
「私もないわね。強いて言えばテスト勉強をしないといけないぐらいね。」
満さんが言うように私もそれぐらいで、ちゃんとした予定はみんな無いようだった。
それを見た若葉先輩はどこか嬉しそうに笑みを浮かべている。
悪戯をする子供みたいで怪しい。
「夜宵先輩、何企んでるんですか?」
「何も無いよ。」
「そんなわけないじゃ無いですか。顔に出てますよ。」
「ん〜、今は話せないからお昼休憩に友達呼んで話すね。」
夜宵先輩の友達と聞くとさらに怪しい。
一体何をするつもりなんだろう。
面倒う事に巻き込んで欲しく無いんだけどな。
……と言う思いとは裏腹に現実は予想外だった。
「みんなさんこんにちは!って、紅桜ちゃん?それに、黒咲ちゃんに満ちゃんだ!」
夜宵先輩の友達として来たのは黒瀬さんだった。
そして、奥からもう一人姿を表した。
「失礼します。呼ばれて来た広瀬です。」
広瀬さんが入ってきた。
てっきり一人だけ呼んでくるのかと思ってたし、それが知り合いだとも思わなかった。
「黒瀬さん、お久しぶり。」
「お久しぶり、です。」
「お久しぶりだね!みんな元気そうでよかった。」
一瞬意味深な視線を感じたけど、あまり気にならなかった。
代わりに広瀬さんの方だった。
最初の印象が悪くて同じ空気を吸いづらい。
「紅桜ちゃん、久しぶりだね。」
「お久しぶり、です。」
「………」
「………」
一言づつ交わした後、会話が止まってしまう。
やっぱり向こうも気まずいようだ。
釣られて満さんと美和ちゃんも黙って怪しいものを見る目になってる。
「もー、広瀬くん黙ってないで面白い事披露するぐらいしないと!」
「え!?そんな無茶振り無理だよ。」
場が凍りついていたので黒瀬さんが唐突に追い打ちをかける。
ここでそんな事が出来る度胸があればこんな空気にならないんだけどな。
「だめだね、しょうがない!ここは私が広瀬くんのことを紹介してあげよう!彼は私のクラスメイトの広瀬永遠くん。気軽に永遠って呼んであげてね。女装が好きだから着無くなった服があったら渡してあげてね。高価で買ってくれるから。」
「ちょ、嘘はダメだよ!?」
明らかに嘘をついているようだけど、見た目が童顔なので妙にリアルだ。
でも、この設定どこかで聞いたことがあるような?
なんだろう、この胸から込み上げてくる感じ。
「ごほっ、ごほごほっ!」
「先輩、大丈夫、ですか?」
何故か精神にダメージが!?
私は女の子だからかわいい服着ても違和感ないのに、想像するだけで吐血しそう。
本当にどうしてだろう?
「霜雪、本当に大丈夫?あんた……」
「だ、大丈夫だよ。ちょっと、むせたみたい。」
最近異常に心配されてるから、迷惑を最小限にしないと。
こんな体型だけど中身は高校2年生だから、一人でもどうにかできるアピールをしておかないといけない。
「みんな自己紹介が終わったね!それじゃあ始めますか!」
「始めないわよ。」
何も説明がないまま何かが始まろうとしていた。
すかさず満さんが待ったをかけたので混沌と化す前に話ができそうだ。
「夜宵先輩、勝手に始めないでください。午前中の時に話すって言いましたよね?」
「勢いで誤魔化せないか〜、てへぺろ!」
「キモい、です、変態。」
「黒咲ちゃんに罵られて汚物のような目で見られると股が濡れるよ!」
正真正銘の変態はこの際置いておいて、事情だけでも話して欲しい。
ただ自己紹介をするだけってわけでもないみたいだし。
「実は、みんなに学校の広告のモデルとして出て欲しいんだよね!」
「嫌だから、お引き取りをお願いするわ。」
「私も、遠慮して、おきます。」
思っていた通り満さんと美和ちゃんは断りを入れていた。
むしろ、断られるって分かってただろうにどうして誘おうと思ったんだろう?
それに、どうして夜宵先輩が学校の広告のモデル選びをしてるんだろう?
「そもそも、どうして夜宵先輩がモデル選びをしてるんですか?」
「どうしても何も……」
「こいつ生徒会長なのよ。」
「せ、生徒、会長!?夜宵先輩が!?この学校の生徒の代表者に夜宵先輩がなってるの!?こんな先輩なのに!?」
「先輩、知らなかったんですか?」
知らないよ!?
こんな変態が生徒会長だって思いたくもないし、こんな人でもなれるなんて思わないよ!?
「あんた、美和ですら知ってるのに、本当に知らなかったの?」
「知らなかったよ!?え、本当なの???」
3人の顔を見渡すけど、誰も渋々頷いている。
嘘だと言って欲しかったけど、諦めるしかなかった。
「紅桜ちゃん、私ってそんなに生徒会長に見えないかな?」
「見えません。ただの変態にしか思ってませんでした。」
「紅桜ちゃんそれは会長に失礼だよ!みんなの前では清楚な生徒を演じてるんだよ?ここにいるのだって生徒会長だからなんだよ?」
演じてるって何??
ここから一歩でも出たら清楚になるって事!?
何で常に清楚じゃないの!?
「こいつが生徒会長なのは早いうちに認めておいた方がいいわよ。」
満さんはとうの昔に諦めていたらしい。
そういえば、満さんのお家に行ったとき変にかしこまってたのはそう言う事だったんだね。
うん、私も諦めよう。
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