学校に戻ります!?
「昨日はありがとう。」
「気にしないで……私が先に帰ったばっかりに、辛い思いしたでしょ?」
「そんな事ないよ。」
「他のみんなに助けてもらったから……。」
「……っ、ごめんね。」
百々姉に謝るようなことをされていないのに、何度も謝られてしまった。
訳の分からない悲しみが溢れてきて、涙が出そうになる。
「私、もう行くから……」
「紅桜、ちゃん……」
私は逃げるように学校へ向かった。
その場に残れば酷い事になりそうで、恐怖から逃げてしまった。
苦しくなった胸は学校に近付くに連れ、徐々にゆったりとしていく。
落ち着きを取り戻すごろには、足先に教室があった。
ゆっくりと扉を開き、いつもと変わらない表情を浮かべて中に入った。
クラスメイトが仲良さそうに話していて、少し胸が苦しい。
理由もなく学校を休んでいたからこそ、この輪に入るのは難しい。
急に来た人間に何もなしにみんな目を向けるから正直怖いと思う人が多いはず。
今回に限っては、誰からも変な目で見られる事はなく、自信過剰の範囲で収まったので胸を撫で下ろした。
ただ、気まずさがどこか胸の奥に残っていて、むずむずしてしまう。
「紅桜ちゃん……大丈夫?」
「永久、おはよう。……悪そうに見える?」
「うん……。」
心配そうに机に寄って来た。
いつも通りと顔に出さないようにしていたつもりだけど、どうやらバレバレのようだ。
「今は大丈夫だよ。……あれ?樹と神事は一緒に来なかったの?」
「樹君は……ちょっと用事で、神事君は体調を崩したって……。」
「そうなんだ……みんなして厄月だね。……永久は、気をつけるんだよ?」
「……そう、だね。」
気まずい…………。
自分がそう言うふうな返事をしたのが悪いけど、それ以外の言葉が思い浮かばなかった。
気持ちが病んでるから、思い浮かぶ事が全て病んだものになってしまう。
「はは…冗談だよ。そんな魔に受けないでよ。」
「そ、そうだったんだ。分かりにくいよ。」
心を落ち着いたように、言葉で自分を騙す。
嘘を本当にするために言い聞かせて、顔に出ないように頑張る。
永久にはちょっと申し訳ないけど、今だけは甘えさせて。
私の目の前にいるのが永久だけだから、唯一頼れる相手に甘えたい。
今だけは、どんな顔でも普段通りに接して欲しい。
「今日はずっと教室にいるの?」
「午前中だけでも頑張ろうかなって……。無理そうだったら途中から保健室の方に行く予定だよ。」
「そっか……。無理だけはしないでね?」
「……無理はしてないよ。それに、氷柱姉の兼は終わったからね。」
「えっ……。」
「?どうかしたかな?……ほら、3人が来てくれて、その後ちゃんと話し合ったんだ。その時にね、ちゃんとお互いの気持ちを口にしたの。」
「あぁ……そっち……。」
「??他にあるの?」
「あ、いや、ボクの勘違い!?気にしないで!!」
怪しい。
何を隠してるんだろう?
でも、探る気力がない。
これは弊害だね。
気分が下がってると、普段できてしまう事ができなくなってしまう。
「2人とも何話してるの?」
「委員長、おはよう。」
「おはよう。今日は少し遅いね。」
「天気が良かったからね!少し散歩がてら外を歩いてたんだ!」
眩しい。
太陽のように光照らされる……。
浄化というより滅される方になりそう。
「それにしても、2人して顔が暗いね。外に出てみれば?太陽の下に出ると気持ちも晴れるよ!」
「今から外は……授業を休む事になるかな。」
「休憩時間にって事だよ。……でも、しんどいなって思ったら、いつでも行っていいんだよ?」
「委員長は止める側でしょ?」
「理由もなくなのがダメって話!理由ありきなら、いいの!」
永久に言われて口を膨らませている。
どういう意図で言ったのか、薄っすらと伝わったから、今回は突っ込まなかった。
委員長は姉経由で話を知っているだろうから、委員長なりに私を元気付けてくれているんだろう。
みんなから心配される私は、傍から見たら羨ましい存在のはずだ。
でも、私自身は申し訳なさに押しつぶされそうで苦しい。
みんなが元気付け用としているのが伝わって、苦笑いを浮かべることしかできない。
まだ私はあの日を繰り返してる。
授業中であれば悩まずに済むと思っていたけれど、むしろ自問自答する時間が増えてしまった。
考えないようすればするほどドツボにハマってしまう。
ぐるぐると頭の中を駆け巡り、授業に集中できない。
幸い、体調に影響していないため、午前中は教室にいられそう。
このまま余裕があれば教室に残っていよう。
きっとその方が氷柱姉も喜んでくれるはず。
「紅桜ちゃ、大丈夫そう?」
「だ、大、丈夫……」
「アウトだね。」
委員長と永久に囲まれながら、机に俯く。
吐き気と倦怠感で全身を動かせない。
意識を保っておくのだけで体力を消耗してしまう。
「無理せずに、保健室行ったら?」
「う……ま、まだ、我慢する。」
「病み上がりだから、無理する必要はないと思うよ?」
「……だって、1人で頑張れるって思えるようになりたいもん。」
氷柱姉と距離を取ったのは、私のためでもある。
1人でも大丈夫だと思えるように、頑張らないといけない。
他人に迷惑をかける状態を抜け出さないといけない。
「…………分かったよ。でも、私がダメって判断したら、授業中でも保健室行きだからね?」
「うん。」
勢いよく頷いたものの、以前と治る気配はない。
授業が始まってからも、使命感が私を縛ってストレスが溜まっていく。
考えるなと思えば思うほどドツボににハマっていく感じ。
本当に私は良くない。
ネガティブになったらどうやっても抜け出せない。
弱い人間でいたくないのに、いつまでも変わることがない。
自分で自分を殺めてしまいたいほどに、嫌いだ。
こんなことをいつまでも考えてしまって、また同じ考えに陥る。
負のループに入って止まらない。
こんな事になるぐらいならもっと早くストレスの抜き方を見つけておくべきだった。
だからいつまでも氷柱姉に迷惑をかける。
私が弱いから、氷柱姉を心配させてしまう。
「会いたいなぁ……」
どうにか午前中の授業を乗り切ると、へとへとな体を持ち上げてお昼ご飯の準備をする。
今日は百々姉が代わりに作ってくれたので、残すわけにはいかない。
食欲は少ないけど、頑張って口に入れていく。
「こらこら、ご飯をそうやって食べるのは良くないよ?」
「美味しくてつい。」
「屁理屈を言わない!飲み物飲んで、いったん手を止める!」
委員長に止められて、一度箸を止める。
言われた通りに飲み物を飲んで、口の中を空にする。
「何かあったのは見てわかるけど、自分を隠す理由にはならないよ?」
「な、何のことかな?」
「紅桜ちゃん……、私たちに心配されるのが辛いの?」
「そ、れは……」
「分かった。……もう、あの事について、気にしない事にするよ。でも、紅桜ちゃんもその事を気にしないで。」
それは、無理だ……。
氷柱姉が居無い事は私に取ってとても苦しい事。
気にし無いなんて出来ない。
氷柱姉には意気込んだけど、ほとんど見栄っ張り。
氷柱姉に迷惑をかけたくなくて出て来た言葉。
本当は怖い。
いつまでも、一人で居ることは寂しい。
「分かったよ。」
「約束だよ?」
小指を出されたので同じように小指を出す。
そして、絡めてから指切りをして約束の真似事をする。
午後からは保健室で過ごす事にした。
これ以上我慢すると体がもたないと判断した。
部屋に入ると、今日は美和ちゃんのみ。
「満さんはどうしたの?」
「満先輩なら、今日は大事な用事があるって言ってました!」
「そうなんだ……。」
「……その……元気出して下さい!」
「け、元気だよ!?」
「そう、ですか?……う〜ん、でも……」
美和ちゃんは私の全身を舐め回すように見始めた。
そして、一つ一つ何かをチェックするかのように頷いていく。
何をされているのか分からないまま、硬直してしまい、美和ちゃんのチェックが終わるとやっと体を動かせた。
「……やっぱり、今日の先輩は体調が悪そうです!ベットで寝ましょう!」
「……ぇ、え、……いや、私は……」
「ほら、寝ましょう!」
美和ちゃんに引っ張られて、なすすべなくベットに放り投げられる。
そして、どこからか氷枕とホットタオルを持って来た。
氷枕を私の頭の下に置き、掛け布団を敷いてくれる。
そして、私の目元にホットタオルを乗っけてくれる。
「えっと…手際がいいね?」
「実は……実行で保健係になったので、怪我人の対処を練習してました!」
「練習?」
「はい、練習として先生のお手伝い何度かしました!」
「だ、大丈夫だったの?怖くなかった?」
「知らない人相手だと、こ、怖かったです……けど、先輩達が変わっていく姿を見ると、置いていかれたく無いと思って……」
美和ちゃんは私たちに劣等感を感じてる。
そして、その劣等感は、私も感じてるもの。
周りばかりが離れていってしまう喪失感からくるもので、置いてかれたく無いとどうにか掴み取ろうとする気持ち。
「……あ、それと、先輩も同じく保健係です!」
「え、私は準備だよね?基本的には、去年の引き継ぎのはず……」
「先輩は女の子になったので、保健係です!」
「でも、私が抜けたら、その分……それに、樹達と……」
今年も樹達と一緒に実行をやろうと思ってたのに……。
保健係だと、待機場所が違うから話が出来ない……。
てか、男女で役割を変えるなんて、差別だよ!時代遅れだよ!
私だけ仲間はずれになっちゃう!
「そこで、先輩の代わりに満先輩が入りました!」
「満さんが?」
「代わりをやりますって、率先してました!」
「満さんが、率先?」
「はい!先輩との、熱い友情ですね!」
あの満さんが率先して……。
何か裏があるような気がする。
それにしても、今日は悩みの種が尽きない。
一難去る前に、何個もの難が迫ってくる。
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