表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
三章
98/174

元首官邸で報告会議

 所変わって、こちらは首都ロマヌス。元首官邸である。


 此度の派兵の詳細報告は、既に総合総司令本部に、元首を交えた席で報告済みである。


 アルニンは制度上、国家元首が軍トップの元帥を兼任するからだ。


 元首官邸への出頭報告は、アルニン政府として、実際に現地入りした責任者の()()()報告を求めての事である。


 概要概略ならば、既に軍部を通じて閣僚も報告は受けている。


 しかし、不明な点が有り、また、超機密事項となる為に、直接説明の場が設けられたのだ。


 佐官、尉官が官邸に出頭など、あまり有る話では無い。ゴーンにしてから官邸は初めてだ。


 やや緊張した面持ちだ、むしろ同じく初めて赴いたレオンの方がリラックスしている風だ。


「流石だな中尉。実戦経験者は胆が練れて物事に動じなくなると聞くが、大した物だ」


「恐れ入ります少佐殿。ただ、小官は父が政府派遣の執政官の為、幼少時より官邸の様子を聞き齧っていたのですよ。

 なので初めて来た気がしないのです」


「貴官は………そうか、パルト執政官殿の子息であったな、昔の事だが、執政官殿とは面識を得ている」


「それは初耳でした」


「そうで有ろうとも、貴官がまだ生まれる前の話で有るからな。してみると歳をとったものだ」


 そんな話を待機応接室でしていると、官邸執事に案内される。

 因みにだが、官邸執事も国家公務員である。


 官邸内閣議室に案内される。ただ、二人は官邸内に不案内なため、閣議室とは知らない。入室し、その面子に驚く。


 国家元首に副元首。外務大臣に内務大臣、治安維持省長官に陸軍大将に砲兵科総監。

 更に()()()()を纏う景伸教会枢機卿。


 回れ右をしたくなった。


「総合総司令本部総参謀本部所属、作戦参謀ゴーンであります」


「総合総司令本部所属、臨時編成新型砲教導砲兵小隊隊長レオン.パルトです」


「ご苦労、掛けてくれ」

 国家元首は軍トップでも有る、軍式礼で構わない筈。


 つまり、元帥に着席を促された訳である。


 詳細質疑とは聞いていた。確かに書面、伝聞では分からない内容ではあるが、面子が妙な塩梅である。


 閣僚は、まあ良い。分からないのは陸軍大将と砲兵総監。あと枢機卿だ。


 ゴーンはナザレ移動前は中央所属の参謀であり、陸軍大将や砲兵総監の顔を見知っていた。だから疑問である、何故総合総司令本部の人間が居ない。


 疑問には元帥閣下自身が答えてくれた。


「参謀少佐、彼等はオブザーバーだ、軍事行動的な報告ならば理解した。だが、理解に遠い部分を専門家に解析を頼むが為に呼んだのだ」


 了解した。つまり砲撃狙撃の件だ。その解釈ならば、枢機卿の同席は、つまりそう言う事か。


 オカルトの専門家は即座に理解した。


 レオンはと言えば、砲兵総監に萎縮していた。


 ゴーンはハタと気づいた。砲兵科の妙な洗礼式の事だ。



 記憶では士官学校砲兵科の主席卒業のパルト中尉は、新戦法研究室に配属され、失意の内にナザレに移動してきた。


 目の前の砲兵科総監には、苦手意識が植え付けられているのだろう。


 妙な事を口走らなければ良いのだが……


 などと周囲に気が回る程には、ゴーンは精神的復調を果たした。


 外務大臣が口を開く。


「永らく四連合王国内海艦隊総司令であった、ジャン.ジャール提督の死亡が公表された。発表では内海公海上での演習中の事故とされている」


 次いで口を開いたのは副元首だ。

 因みに副元首に軍役は無い。緊急時には任命される事も有る。


「公海上の演習とは正にヌケヌケと言ったものだが、少なくともジャール提督の()()()()報告と時期的に一致する。

 ………砲撃狙撃、如何なる物なのだ」



 砲撃狙撃、凄い字面だ。


 狙撃者が大砲を担いで狙撃対象者(ターゲット)に狙いを定め狙撃するという、あまりにも馬鹿馬鹿しい絵面が、アルファベットのGと共に頭に浮かぶ。


「それについては、実際現場にいたパルト中尉から報告が上げられましたが」


 現場検証の様な、かなり細かい報告書を上げてきた。


 レオンは目撃している訳では無いが、居合わせたダッド砲班員と、何より当の本人から聞き出した報告を元に作成された報告書だ。


 読めば読む程に、正気を疑う内容だ。


「5㎞先の洋上に居る人物を、砲撃により射殺。与太話しにしても出来の悪い話しだが………実際連合の艦隊は直後に撤退し、当人の死亡が公表された。

 重火砲の砲撃と有ったが、そんな精密射撃が可能なのか?」


 返答は砲兵総監からだ。


「不可能ですよ、副元首。そもそもウチで使う重火砲に砲弾を5㎞も飛ばせる能力は有りません、どの国でも同じでしょう。

………いや、それ以前の問題ですよ」


 理屈で言えば、単純に砲弾を飛ばすだけなら火薬量を増やせば良い様に思えるが、砲の強度が持たない、砲身破裂してしまう。


「………報告書には信号弾による砲撃だとあったが、信号弾の弾芯を狙撃に用いたとは、何処から出てきた発想なのだ?その軍属とは何者だ」


 これは陸軍大将の言だ。


 何者かと聞かれると、実に答えにくい人物だ。だからその手の質問には答えられない。


 枢機卿が居る事でも有る。


 クラディウス国家元首が、青法衣の聖職者の説明をする。


「二人はこちらのマカロフ枢機卿に遠慮が有る様子で有るが、枢機卿の事はこの際考慮しないで貰いたい、事実のみを知りたいのだ」


 マカロフとやらは頷いた。表面上はにこやかな坊主だ。


 そもそもこんな場に居る様な坊さんだ、碌な者じゃないに違いない。


「すると、お聞きになりたい事は技官殿の()()とも言える砲術()()でよろしいのでしょうか、技官殿は多才な人なので一面のみの理解では、疑問の全てには答えきれません」


 いささか挑発的だ。後出し情報で何なのだが、ゴーンは坊主が嫌いなのだ。


 まあ、好きで好きで堪らない者も居ないだろうが。


「構わない、全てを聞きたい。何度も言うが、枢機卿の事はこの際考慮しないでくれ。異能者、やはりその様な者なのだな」



 想像通りの質疑審問に成りそうだ、枢機卿が同席している事で、粗方そんな事だとは予想はできた。


 ただ、坊主の存在は抜きにしての事実報告が引っ掛かる、異端審問の目は無いのだろうか。



 ゴーンは矢鱈と宗教関係の奇跡に詳しい。これは別に敬虔な信徒だからでは無い。


 宗教とは、詰まる所真性のオカルトであり、奇跡、秘跡とは超常現象の言い方を変えただけの超オカルトなのだ。


 そうした訳であり、幼少時より馬鹿みたいにこの手の話が好きなゴーンとしては、

 情報公開しない坊主供が嫌いなのであった。


 ………変人の類いである。


「技官殿はテュネスにおいて、“鷹の目の加護”持ちだの、“馬の王”と呼ばれました。ナザレの兵士達には“神眼の砲手”とも“神の目の持主”とも」


「………続けてくれ」


「又、彼の発案した物は多岐に渡ります、機動架台や、重火砲用の移動架台、重火砲用の反動吸収機構の開発、そして各種新型砲弾、特定火砲の着弾計算尺、汎用防水剤、汎用接着剤、改良携行糧食(レーション)


「なんと、ナザレの開発部からでは無かったのか、どれも……そうかそれで技術軍属か、その技術軍属殿が何故砲術を?」


 新技術はそのまま新戦法の発展に繋がる、陸軍大将ともなれば、情報の閲覧権限も大きく、件の開発報告は知悉していた。


「彼は武官待遇者でも有りますよ。

 半年前のナザレ軍港封鎖事件は御存じですね、我が国に対する連合王国の発端軍事行動の。

 連合に内通したナザレ軍港第三砲台を、砲撃鎮圧したのが彼でして、元々は武官起用だったのです」


 順序としてはそうなるが、奴は自作機動車両の接収が嫌で従軍し、更に車両特許料を当て込んでの軍属志願なのだから、砲撃手としては誤算であったのだ。


 ウンコシリーズ。全ての根幹がこれなのだが、これを正しく理解して、説明出来ない限り、奴の発明や砲術、そして異常さは理解不能な事である。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ