三章プロローグ
軍人は身軽である。衣食住が国持ちなのだから当然と言えば当然だ。
辞令が下れば何処にでも移動する。それは国内とは限らない。
軍人で有る以上、戦闘する事が本分であり、国内だった所、国内になる所、異国の紛争地域などに、紙切れ一枚の命令書でフル装備で移動する事も有る。
それは極端な移動例だが、組織的縦階級社会の特別国家公務員で有る以上拒否権は無い。
国家公務員組織人なので、人員は定期的に部所、部局を移動する。組織人事の固着、癒着を防ぐ意味も有る、軍組織は何分、非生産的なのでその運営費は税金から賄われる。
また、軍備品、設備、装備は最先な物でなければならず、平時に措いては金喰虫でしか無い。
清那の昔の軍隊は、屯田兵として農作業をこなし、食扶持を稼いだそうだが、まあ遊ばせるよりはマシなだけで、本気で開拓する程に力を注がなければ、自給自足など覚束ない。
なので税金から分配される軍備予算は、莫大な物だ。
そこに、固定化されてしまった人員が業者と癒着してしまうと、当然けしからぬ事態となる訳で、定期的に人事移動は有る訳だ。
まあ、人員の移動は本来は人材育成が主目的であり、業者癒着公金横領不当価格購入リベート受領を防ぐ事が主目的では無い。
極全うな、国益に繋がる技術開発、国防戦略戦術に与する人事移動も当然有り、その様な移動は、当然国の中央への移動、一般的には栄転と呼ばれる人事移動となる。
件の砲兵連中は、出向先から帰国の途に就いた。
出向理由からしたら、まさかの年内帰国である。
臨時編成新型砲教導砲兵小隊。アルニンのほぼ中央に位置するナザレ軍港城塞、陸軍砲兵科から選抜された、下士官による小隊だ。
小隊隊長こそ士官だが、小隊補佐たる兵員は下士官の曹長である、職権的に下士官は小隊指揮を採れない。
なので補佐を二名置き五班、増強分隊人員をそれぞれ監督させる事とした。
何やら妙な人員編成であるが、これには訳が有る。
第一に、小隊編成時に砲兵士官が定員割れをしていた。
第二に、新規新増部隊に砲兵科、歩兵科輜重科などから注目が集まっており、兵科が固まる士官以上の人材は敬遠した。
第三に、新増部隊の核とも呼べる“機動架台砲”の勇姿は記憶に新しく、転科、転属するに足りる可能性を示した。
第四に、隊長の資質だ、ともすれば対立しがちな士官、下士官の上下関係にあって、レオン.パルトなる士官は下士官に評判がよろしい。
第五に………食事が良い。
第六、面白そう。
第七、えー小動物なら飼育可。
第八、兎が人気。
第九、オカルト可、興味が有る者は総合総司令部作戦参謀本部、ゴーン迄。
第十、たまにとても良い匂いがする。
と言った複雑な事情による物だ。
一行の公的な所属は、ナザレ軍轄区ナザレ軍港城塞ではなく、中央の総合総司令本部所属となる。
砲兵科なので、陸軍所属の様に思えるが、此度の派兵は、そもそもが派兵ですらなく、
あくまで物資支援の延長線に有る、新型砲の貸与及び取り扱いの伝授という、極めて政治的な含みが大きい出向なのである。
その為、一時的に、出向兵員及び一部軍属も、中央の総合総司令本部(大本営)所属となり、見方によればアルニン政府直下の部隊となる訳である。
なので、帰国後中央所属のままナザレ軍港城塞に居座るのは、非常に居心地が悪い、さっさと中央への移動命令が欲しい所であった。
「なあ、ダッド。隊長と参謀さんが首都に報告に出て十日だ。そろそろやる事が無い、どうするよ」
ダーレンだ、ダッドと同階級だが、軍歴はダッドより長い。
「俺に言われてもよ、最初は骨休めになると喜んでたが、三日が限度だよな」
こちらはダッド。ナザレ軍港第一砲台、砲術訓練所の待機所で日向ぼっこだ。
十日の休暇が与えられていた。
帰国後二日程装備の点検、整備を兵員でこなし(軍属技術者が監修する、戦地では各々で不具合に対処しなければならないからだ)
総合総司令本部にゴーンとレオンが出発するので、その間凡そ十日と読み、休暇を与えたのだ。
幸い総監役のゴーンの裁量内の軍令指事となる。
ナザレやその周辺に実家の有る者は、休暇を利用して里帰りとなるが、この二人は役職階級柄残留した。
当然十日では里帰りの日数が足りない者も居り、それらの者と仲良く留守居だ。
第一砲台兵舎に寝起きするが、彼等は現在すべき事は無い。
元の古巣であるので、城塞の勝手は分かる。しかし所属が違ってしまい勝手が出来ない。
日がな1日寝て過ごす訳にも、娯楽に興じる訳にも、酒を飲んで過ごす訳にも行かない。
いや、凡そ二月ばかりの出向とはいえ、危険手当が付くので、そこそこには懐は温かい。
なので、夜な夜な軍轄酒保で呑み明かす事は出来そうな物であるが………此度は軍令により出入り禁止とされている。
何せ、彼等の出向内容は機密事項だ。
古巣の元同僚達も、まさかテュネスに新型砲の教導に行っただけとは思ってはいない。
耳にするのは、当たり障りの無い新聞に載っている様な、そんな情報しか無い。
クーデターは不首尾に終わり、二分した政府も再統合した事は知れている。
連合王国が、大規模な軍事行動を取ったとも。また、何時もの如く無関与を宣言した事も。
それらの情報の裏を、当事者から聞き出さんと手ぐすね引いて待ち構えているのが、軍轄酒保の同業常連客だ。
特にダッドは、特大級の機密情報に触れている、只酒に釣られて公開して良い内容では無い。
なので、軍轄酒保の出入りは禁じられたのだ。
里帰り組にも、当然箝口令は敷かれている。情報漏洩が有った場合、軍事裁判との制約を課してある。
心もとない制約ではあるが、まさか情報漏洩即銃殺とは言えない。
最も危険な情報は、幸いにしてバミューダフォーの面子と、ダッド砲班員しか知らないので、比較的安心出来る。
………いや、奴の動向が不安なのは分かる。つい口を滑らすと言うような、そんな可愛らしい失態で、極秘情報を漏らしてしまうとか、そんな常識的な人間では無い。
極秘事項と全く認識しないで、聞かれるがままに答える様な、そんな馬鹿なのだが、今回奴の身に起きた事態は流石に当人も堪えたらしく兵舎に籠っている。
本来ならば軍属の民間人なのだから、兵舎に籠る事は難しい。
ただ、奴は総合総司令本部所属の軍属なので、準特別国家公務員なのだ。多少は無理が通る身分だ。
ゴーンが便宜を図り、奴に一室をあてがって……と言うか身柄を確保していた。
なにが奴に起きたかと言えば、奴は実家を勘当されていて、パルト市街ロッツォ教区から除籍されていた。
テュネス出発前に手配した、生命保険の受取人指定拒否の通知書と共に、パルト市街除籍原本が送られていたのだ。
除籍後十日以内に新規に戸籍を作れば問題無いのだが、(除籍原本が有るので申請は簡単に出来る)何分二月もアルニン不在となっている。
なので、今現在のアルは無戸籍、住所不定の浮浪者扱いの準特別国家公務員だ。
国籍が抹消された訳では無いので、アルニン人のままでは有るが。
どうやら借金返済をウッカリ忘れ、連帯保証人の親に借金返済をさせた事が、勘当理由として教会に受理されてしまった様だ。
御愁傷様。
お久し振りです。武侠の二章が終わり、休息しましたので突撃を再開します。
ストックの関係で、週二くらいの投稿になります。日、水か日、木。または月、木、か月、金かな。なるべく週三ペースに戻せる様に頑張ります。
興味が有りましたら、武侠の方もお目通し願えたら幸いです。突撃よりはファンタジー色が強いですよ、神様も出てくるし。
スキルは嫌いだから出ませんけど。
では、暫くの間お付き合い願います。




