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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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軍曹の恵比須顔

 警戒態勢は解かれてはいないが、灯台砲台内は呑気な物だった。


 夜襲の警戒で歩兵小隊は交代制で哨戒に当たる。海からの奇襲も考えられるので、こちらは砲兵、輜重兵が交代制で哨戒だ。


 連戦だった。テュニス、テレ街道で連合軍を撃破し、街道を走破し、そのままテュニス市街を抜けて、灯台砲台に於いて連合王国海軍の艦隊を相手に防衛戦を行った。


 三艦を撃沈し、(未確定、航行不能状態で敢えて攻撃中止、大破は確定)一個艦隊水兵の強襲上陸を阻み、更にもう一個艦隊に牽制砲撃を行った。


 非公開、未確認だが、四連合王国大陸内海艦隊総司令、ジャン.ジャール海軍大将を()()により殺害した。


 華々しい戦果だ。ただ、この戦果はテュネス軍総合総司令部に帰される事になる。


 パルト砲兵小隊の現在の所属は、テュネス軍総合総司令部付特殊砲兵小隊だが、そんな小隊は正式には存在しない。


 ゴーンが言いくるめて作らせた仮の身分だ、だから戦果云々は総合総司令に帰される事は当然だ。逆に戦功顕彰されても困る。


「その恵比寿顔、マジでキモいよ軍曹」


 砲台内の兵士詰所を解放し、仮の休憩室兼司令所にしたところ、二個イチが漫才を始める。


「なんだい、その“恵比寿顔”って。アルはやたらと外国の言葉を知っているけど、どんな意味なんだ?」


 レオンだ。暦では冬場なので、屋外で夜営などしたくもない。建屋があるのだから。


「意味って言うか、あんな妙な笑顔した恵比寿という爺ぃがいてさ、俺はキモい笑顔を恵比寿顔と呼んでる」


 晩方から、ダッドはニタリニタリとあんな感じだ。悟りとも違うので、少し怖い。


「馬鹿王、この俗物の豚め、貴様には戦争の真理など分かるまい」


 ニタリニタリと、妙な事をほざき始める二個イチの片割れ。やはり怖い。


「俗物の豚……流石キチがい、言うことに含蓄がある。んで、軍曹の見つけた真理って?」


「何か班長妙だねぇ」

「ダッド班長は基本妙だけどね」

「そウか?まとモな感じダが」


 付き合いの長いブブエロには、静かな分まともに思えるらしい。付き合いの短いピエト、ラジオ両一等卒には、妙な親父にしか思えない様だ。


 実はかなり危険な精神状態なのだが、それに気使える様な殊勝な面子ではない。


 まあ、減るものでもない事だし、放っておこう。


「シャラップ外道供。戦争の真理とはな、それは愛だ。“汝の敵を愛せよ”だ」


 数時間前まで、“試しに殺せそうだから”と云う理由で、水兵を皆殺しにしようとしていた男がよくほざく。


「軍曹、詰まらない、ありきたり、やり直し」


 皆が続く。


「うん、つまらない」

「うん、面白くない、詰まらないかな」

「ダッド班長、オレはヒょうかスるぞ」

「曹長、教会関係者の前ではやめてくれよ」


 ボロクソである。


「豚供には分かるまい、分かるまい」


 どこまでフザケているのか分かり難い、マジだとしたら、まあ、減るものでもない事だし……


 因みに、精神病なる概念はこの時代には無い。

 医者の見立てで正気を失っていると判断され、かつ他者に危害を加える恐れ有りと判断された場合、鉄格子付の病室に連行される。退院は無い。


 ただ、食事内容は良い様だ。




 哨戒は主に旧火砲組がやってくれた。流石に機動架台組に負担をかけたく無かった様だ。


 モス軍曹が中心となり哨戒人員を廻してゆく。


 何せ隊長と曹長二人、機動架台組だから仕方ない。戦場を駆け抜けた事だし、ここで夜襲が有った場合、駆け付けるのが機動架台組だ。休息するのも軍務の内だ。


 やはり疲れが出たのか、パルト砲兵小隊、特に機動架台組は泥の様に爆睡した。夜襲は無かった。


 日が改まり総員点呼を取っていると、テュネス軍総合総司令部より伝令が来た。


 昨日兄バクスタールからの伝達文が届けられたが、その時は既に連合王国艦隊は撤退していた。


 まあ、艦隊砲撃の依頼内容だったので達成済みだが、これを以前頼まれた“鷹の目”の件としてカウントしてくれれば有り難い。レオンはそう思う。ゴーンに絞られたのはかなり堪えたのだ。


 何せ博識にオカルトを混ぜた説教で、突っ込み所満載かつ、理路整然の正論で、精神的にかなり負荷がかかる。


 総合総司令部の命令は、砲兵中隊を派遣するので交代し、パルト砲兵小隊は引き揚げて来る様との内容だ。護衛の歩兵もそれに習うとの事だ。


 反対する理由も無いので復命した。


「隊長、宜しいのですか?昨日は夜陰に紛れて敵艦隊は撤退しましたが、本日再来し本格的な攻撃が有るやもしれません」


 ダッドだ、何か一晩寝たら落ち着いた?様子ではある。


「曹長、体調は良さそうだな。なに、中隊人員での派遣だから大丈夫だろう。第一、我々の本来の任務は概ね完了した。引き揚げても大丈夫だろう」


 レオンとしては報告書の作成が有る、落ち着いた所で作業したい。


「了解しました」

 との返事だが、本当に大丈夫だろうか?


 三章での話になるが、二個イチは本国首都ロマヌスにて景信教(カトリクス)の異端審問官に追われる事になるのだが、元々はダッドを教会に通わせて正気にもど……心のメンテナンスする事が目的だった。


 アルは別件だが、ついでにダッドの同行したのが運の尽きであった。




 交代要員が到着する間に、来客があった。兄バクスタール提督とサンドロ海軍中佐だ。


 昨日の今日で艦隊司令は忙し過ぎる筈なのだが、どうやら確認事項の様で一応軍務だそうだ。


 やはり用件はアルの“鷹の目”に関する依頼の様で、アルが呼ばれた。


「やあ、久しいな技官殿。いきなりで申し訳ないが、技官殿がジャール総司令に何かしたのかね」


 本当にいきなりだ。周囲に余計な横槍をいれられたくなかったので、不意討ち的な質問だったが、アルは公用語に堪能ではない。


 小首を傾げたが、大の男がやる仕草ではない。キモい。


 ()()


「ああ、ジャージャーの事ね」


 アルはダッドの肩上を見やり、そう答えた。


 どうやらジャールの名を、本気で失念していた様だ。手掛けておきながら、あんまりである。

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