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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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パルシェ准将と兄バクスタール

「一体何事があったのだ、“緊急コードA”など私からして初めて承った」


 ベルソンにしても、ジャールとの付き合いは20年に及ぶ。


 大小100を越える海戦を経て、初めての事だ。


「……余り良い予感はしません、テュネス艦隊による艦隊突撃を受けてからの緊急伝達でしたので」


 兄バクスタール艦隊は、砲撃が薄い事を良い事に、そのまま南下し連合王国艦隊を横断した。


 灯台砲台と連携すべく東進しハラディン艦隊と合流する形となった。


 しかし、リール、ベルソン艦隊は既に緊急コードを受諾し、撤退行動に移っており海戦らしい戦いも起こらない。


 日は沈み、攻撃自体が出来ない事もあり、バクスタール、ハラディン艦隊も、連合王国の撤退を妨ぐ事もなく、救難者、この場合捕虜の拿捕、捕獲に努める事となる。


 パルシェ准将もこの時捕虜になったのだが、彼は終生故国に帰る事は無かった。


 彼は完全黙秘を貫いた。


 元より国籍不明艦隊群による軍事行動だ、所属国家の声明無しに余計な事は言えない。


 関与なしとの声明が有れば、海賊として処刑されるだろう。


 准将ともなれば、それは覚悟の上だ。“公海上での出来事だ”は所属国家有っての言い訳だ。


 海賊認定されれば、公海上だろうが即時討伐が常識なのだから。


 彼は作戦失敗の瞬間から、最悪を覚悟済みだ、ただ、下士官以下の水兵の助命だけを考えていた。


 結局、彼は故国から見捨てられた。海軍力は三艦の喪失と云う軽微なもので、無関与を貫いた方が国益に繋がるとの判断だ。


 ただ、砲兵の方はそうも行かず交渉次第だが、とっくにこちらは手を打ってある。


 当初の和平案に盛込んであった、

 2)テュニス()()のテュネス正統政府への委譲の項目だ。


 テュニスが交わした契約条項のテュネスの継続だ。

 これは3)のテュニス港一部租借にも関連するが、要するにテュニス港を担保にして、軍事的、経済的な支援を連合王国と条約として取り交わしてあったのだ。


 一個砲兵大隊を傭兵としてテュニスに貸与してあるので、2)が正式和平条約に締結されれば、砲兵は正式に返還請求と対価請求ができる。


 もし、2)をテュネス正統政府が受諾しない場合、必然的に1)のテュニス政府人員の無処罰も受諾拒否になり、再び政府が割れる。


 親連合議員、親フランク議員、親アルニン議員と、単純に色分け出来ない。それぞれが、複雑に利権や権益、血統、血縁、利害関係が絡み合う。


 故に、1)、2)、は受諾せざるを得ない。なので砲兵大隊の方は交渉次第なのだが、パルシェ以下捕虜になった水兵は扱いが違う。


 そもそも海戦など埒外で、敗北捕虜など端から勘定外だ。


 なので捕虜返還を要求するなら、水面下の外交になるが、親連合議員のルートが現在は潰えている。


 と、言うかどうなるか自体が未知だ。



「パルシェ准将、無事ならば良いのですが」


 ベルソンの首席副官がパルシェを案ずる。パルシェが抜けた後、彼が新造艦の艦長としてベルソン艦隊に配属予定だ。


「……奴なら無事だ、黒雷公からも逃げ仰せた不死身の男だ。捕虜になったのなら手を尽くして奪還するまでだ」


 救命艇は目視したのだ、パルシェの安否は不明だったが、生存していたら救命艇に居たはずだ。


 年が明ければ、大陸内海艦隊総司令に任官するのだ、発言力は増す。パルシェの帰還に力を尽くせる筈だ。


 ベルソンはそう決意した。


 ただ、その予定はジャールの死により、僅に早まった。4カ月ばかり前倒しで総司令に着任するのだが、連合王国政府の決定として、そもそもこの海戦自体が無関与と公表される。


 公式にはパルシェ、ベーリング、ガストンの三名は海難事故で消息不明とされた。




「こんな海戦もあるのですな、冷静になってみれば冷や汗ものですよ提督」


「全くだ。私は思ったのだが、決死の覚悟を持って事に当たれば、海神の寵を受ける物なのかも知れないな」


 こちらはバクスタール艦隊旗艦。兄バクスタールとその副官が()()()()・呑気な会話を交わしていた。


 ジャール総司令が狙撃されなかった場合、西進中の六個艦隊は敢えて前後に分列し、バクスタール艦隊に集中砲火を浴びせていた筈だ。


 日没間際で火砲の命中精度は下がるだろうが、バクスタール艦隊は甚大な被害を被っていた可能性がある。


 それが、こうして勝者として生き残るのだから戦争とは出鱈目だ。


「報告します、鹵獲した救命艇に将官と覚しき人物が乗船しておりました。如何いたしましょう」


「公用語は通じるのか?」兄バクスタールが尋ねる。内海を根城にした海将なら公用語を話せなければ仕事にならない。

 公用語が話せないなら、将官の可能性は低い。


「申し訳ありません、対応した水兵では公用語を話せないので確認出来ていません」


「まあ良い。ここに連れて来る様に。捕虜の扱いは国際法に則り丁重にな」


 これも勝者の余裕だろう、鷹揚に兄バクスタールは促した。


 ここで兄バクスタールとパルシェは初めて面会した訳だが、まあ、本当に本当に色々とあって、パルシェは兄バクスタールの娘婿となり、パルシェ姓を捨てる事となる。


 人間的に相性が良かった様で、兄バクスタールの右腕兼ブレーン的な存在となり、海猪と評されつつも海軍総司令に収まった兄バクスタールを手助けするのだが、それは後の話である。


後数話で2章完結します、現在武侠の方を書いている最中です。


章ごとに交互に投稿するつもりです。オリンピックの頃には3章再開したいですね。


武侠少女の方も応援よろしくお願いします。

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