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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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東灯台砲台防衛戦終結

「命中っと。仇は討ってやったぜ()()()()君」


 海を背にし、アルが呟いた。“マークⅩ”登載重火砲は速やかに次弾装填済み分離薬室(カートリッジ)を接続した。分離式なので砲身の清掃が楽なのだ。


「馬鹿野郎!いつまで格好つけてんだよ!どけ、この間抜け!」


 これはダッドが正しかろう。アルの一連の動きを見れば、無為に()()()を沖に発射したようにしか見えない。


 しかも、海を背に何やらほざいている。まあ、変人なのは周知だが、今は間が悪い。


 連合の艦隊が、こちらの砲台を攻略せんと、重火砲の射程外からの上陸強襲作戦の動きを見せたのだ。


 幸いテュネス海軍から艦隊が出動し、連合の上陸作戦を阻んでいるが、どうやら、もう一艦隊が灯台砲台攻略に動き始めた様だ。


「そう言うなよ軍曹。別に海兵が上陸したって“マークⅡ”の一号散弾で終わりじゃん」


 三個重装歩兵中隊を瞬殺したのだ、小隊クラスの海兵、(艦の人員が概ね100名、白兵戦力として上陸できるのが、一艦一個小隊人員。最大限上陸させて、一個艦隊だと三個中隊人員。なので数個小隊規模の上陸が予想される)多く見積って中隊単位で攻撃してこようと、砲兵のみで撃退可能だ。


「それじゃ駄目だ!簡単に終わっちまうだろが!折角の戦争だぞ戦争!日没も近い!馬鹿野郎がとっとと来やがれ水兵の豚共が!」


 テュニス沿岸には、猪やら豚やらカバが生息しているらしい。


 灯台砲台の薮には、狂人がわめいているし。やれやれだぜぇ。


「どうスる、援護砲撃ヲして沖からノ艦隊ヲ牽制スルか?」


 ブブエロが上官をスルーして、アルに聞いてきた。賢明?だ。


「総大将を撃ち殺した位じゃ、戦争って終わらないのね。そうねぇ折角味方の艦隊が援軍してくれたんだから、上陸狙いの艦隊撃つか」


「あん?総大将って、ジャージャーか、お前信号弾で狙撃したのかよ」


「ジャージャーって…まあ、そうだ。信号弾の弾芯は長銃弾で作ったから、ここからでも届くみたいだ」


 補足で説明すると、作戦行動の合図用に長距離を飛来する目立つ信号弾を開発していたのだ。


 今後重火砲の野戦稼働を想定した場合、命令伝達に、伝令だけでは長大になるであろう戦場に対応できない。


 そこで開発したのが、燃焼飛散弾の弾殻剤を改良し、飛散せず燃焼するのみに配合したのが件の信号弾だ。


 砲撃目的では無いので、軽量化、燃焼剤の多量化、信号弾の重心決定の為、弾芯に長銃弾を使用していた。


 およそ3000㍍程で燃焼し尽す砲弾で、弾芯は何処まで飛ぶのかは計測不能だ。


 当然、狙撃用ではない。


「今更疑っても仕方ないけど、砲撃で狙撃なんて信じられない。本当に命中したのかい?」


 ピエトが当然の疑問を口にする。敵艦隊が前後に割れた瞬間を狙っての砲撃だった。


 割ったのは味方の艦隊の様だったが。


「ああ、ジャージャーは死んだ、腰骨が粉砕しただろうよ」


「……さっきからジャージャーって言ってるけど、ジャール総司令の事?」


 これはラジオ一等卒、砲班内で最年少だが、軍歴自体はピエトより僅に長い。


 歩兵上がりの為、体力馬鹿である。HP80は伊達でない。


 豆情報だが、彼の実家は肉屋だ。アルのソーセージもどき作成仲間でもある。あと黒猫と二十日鼠を飼っているらしい。


「ああ、軍曹が命名した。……こうして言ってみると、語感が良い。よし、採用」


 既に故人なので使う機会は無いだろ。


 こちらはこんな感じでザックリ残念な様子だが、海上は修羅場だ。



「くっ!総司令。……軍規により、当艦の指揮権は副船長である自分が引き継ぐ。ベイル副船長、補佐を頼む」


 もう一人の副船長に副官任務を課した。


「了解しました、ピーリック艦長代理」


 ピーリックも副船長だが、彼の方が先任で軍規により艦長を臨時に引き継がなければならない。


 ただ、引き継ぐのは乗艦のみで、艦隊指揮権、艦隊総司令権はそれぞれ別の適任者が引き継ぐ。


 ジャール艦隊指揮権は、艦隊内で一番階級の高い者が引き継ぐのでそれほど問題は無い。


 問題は艦隊総司令権の方だ。ジャール総司令から指名があったのだから、ベルソンが引き継ぐ事は周知の事だ。


 だが、ベルソンは現在別動任務に当たってしまい、こちらの異変を明確に伝達出来ない。


 ジャールが最期に下した命令である“緊急コードA”は全艦隊撤収の命令コードだ。


 作戦行動の即時停止、その上での撤退命令だ、最大級の緊急命令となる。


 今回の場合、全ての軍事行動を停止してヤルタ島への帰投となる。


 伝達は複数発、各艦隊の了解返信の受信まで行われる垂直発射の信号砂礫弾。


 ただ、今は間が悪い。猪艦隊の艦隊特攻を受けている最中だ。


 更に日没間際だ、信号弾を上げるならば猪艦隊をやり過ごす時間的余裕は無い、爆音と赤色粉末目視で確認する伝達手段だからだ。


 日が落ちては確認のしようが無い。


 一艦の船長代理に過ぎないピーリックには、荷が重い判断だ。


 結局、ピーリックはジャールの命令の即時遂行を決定した。


 つまり、バクスタール艦隊に対しての攻撃を断念した。……まあ、艦隊指揮権が無いのでどのみち攻撃は乗艦のみで行う事になるのだが。



 旗艦からの攻撃命令が無いまま、すれ違い際に敵艦隊からの砲撃を貰い、ジャール艦隊の各艦長は憤慨するよりも、異変を感じ取った。


 旗艦に通信を図るが、その前に、“緊急コードA”を伝える信号弾を察知した。


 直後、旗艦より緊急通信を受け愕然とする。


 “総司令官ジャール負傷、総司令権をベルソンに委譲”


 流石にジャール戦死は伏せて通達された。


 各艦艦長は、総司令権の委譲なのだから、指揮継続不能の重傷を負ったと判断する。


 戦死の報を受けたら、どんな行動が出るか分からない、ジャールの信望は厚いのだ。


 不幸中の幸いと好意的に解釈すれば、兄バクスタールの艦隊特攻のお陰で、西進中の艦隊は、ジャールの指示を仰ぐべくジャール艦隊旗艦に注視していた。


 “緊急コードA”を伝える垂直砲撃赤砂礫弾はすぐに認識され、各艦から受諾返信が届いた。


 これには、リール、ベルソン、両提督も含まれる。


 別行動であるが為に、総司令の命令を逃すまいと監視人員を増員していたお陰である。


 結果として、兄バクスタールの無謀な艦隊特攻により、連合王国艦隊が真っ二つに分断され、総司令負傷による総艦隊撤退という、トンデモ系の結末となった。


 大規模な軍事行動の決着とは、得てしてこんな物である。


 戦端となったパルシェ准将だが、敢えなく兄バクスタール艦隊に回収され捕虜となる。


 この御仁も“阿呆鳥の加護”があり不死身なのかも知れない。


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