老婆編4
ウンコは3号まで
(?小僧、偶然か、まさか見切った…訳は無いな、動きが素人だ、それよりも?)
手応えはあった、あったがなんとも妙だった
「うえっ!ゲロロロッ…」
嘔吐するアルを尻目に老婆はレオンの捕縛縄による拘束を続ける、
最後に海老反り状態なるように足首、首間に捕縛縄を結束する。両手両足、いずこが動いても首が締まる様にだ。
(さて、馬鹿を殺すか)
老婆は殺意と共に立ち上がると、店主が震え上がった構えをとる。
(大姐は素人のこやつの始末に拳を使うことを嫌ったようだが、俺は違う)
(俺達をここまでは侮辱したのだ、許容することは今まで殺してきた者達に申し訳がたたん、顔向けできぬ)
老婆は故国、清那の首都において、遨家極拳の次席師範であった。
だがそれは表の顔で、裏側の顔は暗黒街の顔役であった。
烈火武后。
必歿女帝。
老婆の二つ名だ。主人格の苛烈で容赦ない闘いぶりからついた名が、前記の烈火武后で、
副人格の、敵対者を必ず殺す闘いぶりからついたのが、後記の必歿女帝だ。
そんな物騒な渾名の主が、何故こんな所で堅気(?)の運送屋を営んでいるのか?
どんなドラマがあったのか?
長くなるので、ここでも割愛する。ただでさえ尺を食っているのだ。
「さっさと立て、いつまでも吐いている」
アルは、ヨロヨロとした足取りで、立ち上がった。
素直である。
(このババア強え…死ぬかもしんない…俺じゃ勝てね…)
ペッ、と口内に残っていた胃液を吐き出す
「どうした、遺言くらいは聞いてやるぞ」
(けどよ…てめえはよ…俺のよ…)
(玉ぁ弾きやがったからよ)
(絶対引く訳にゃいかねえんだよ‼‼)
・・・馬鹿である・・・
「ババア!よくも俺にあっかんべぇなんかしやがったな‼殺す‼‼」
「ずいぶんと個性的な遺言だな」
ダンッと初動繼歩を踏むと、老婆は瞬間的にアルの懐に飛び込んだ、
縮地だ。
その勢いのまま右上段掌底を打ち出した、が、これはフェイント兼視界封じ、
本命は左中段掌底、狙いは肝臓部位。
店主が食らったやつだ、ただ今回は繼歩を入れている。
(そう、何度も食らうかよ!)
アルは両手で顔面をガードした。
(…あれ?ウンコ1号、こっちじゃ無いの?ってイテッ、アガッ‼)
ガードを吹きとばされる、
本来フェイントの一打なのだが、図らずとも牽制打となった。
そのまま鼻の根元を打つ、顔面人中だ、店主とお揃いだ。
こちらは本来フェイント。発径打ではない、アガッで済むダメージだ。
(どっちだよ!遅せえぞウンコ1号!ってヤバいよ左が本命か‼)
アルの視界には、真っ黒い霧に包まれた老婆の左掌底が見えた。
「ウンコ2号‼‼」
意味不明な絶叫だ、本当に。
「肝径打」
言葉通りの意味だ、肝臓を径が乗った部位で打つ、という意味で、掛け声の意味合いが強い。ウンコ2号より常識的だ。
バスンッ!
径打が打ち込まれた、凄まじい衝突音だ、アルは鼻血を撒き散らしながら、身体ごとフッ飛んだ。
「なんだと?」
老婆は構えを解かず大の字になって倒れているアルに相対した。残心にしては警戒が強すぎる。
(なんだ?あの馬鹿みたいな回避挙動は、芯を外す為に意識的に出来る動きではない。誰かに強制的に動かさない限りは、それより…)
「いてててて…生きてる?俺、まだ生きている?」
アルはのそのそ起き上がると、鼻血を手鼻でチンッと射出した。
「おい、イボ小僧。なぜお前が内硬功を使える」
前述したが、内硬功の使用は発径が必須だ。
発径は別に極拳の専売ではない。他流派でも形や用法は違えども存在する。
そもそも道法の聖王歩が源流だ
5000年も昔に実在したといわれる聖王が、治水工事の際、大地を鎮めるためにしたとされる歩行法が、後に聖王歩と呼ばれた。
聖王歩で、大地とやりとりする流れは、経絡と呼ばれる。
これは運動エネルギーだけでなく、血流や気脈、大地の地脈、地力といった医学とオカルトが混合したような概念だった。
道法では不老不死に至る基本修行として活用されていた。
豊葦原国のスモーウなる闘技のシコも、道法の聖王歩の影響が強いだろう。
スモーウの闘士は、元々は豊葦原国の神々に仕える神人であり、
地鎮、浄めの為に、聖王歩をシコと形を変えて、神事に活用したのだろう。
アルは老婆の問いにこう答えた。
「お前の知った事かァ!!!」
ふと思ったけど、字伏せって必要かね
ウ○コとかウン○とか○ンコとか?
老婆編次回完結します。かね?