表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
88/174

東灯台砲台防衛戦8

 アルは薮の司令所に戻っていた。何となくではなく、“倒立カバ”に呼ばれたからだ。


「まあ、哀れな境遇だから、仇は討ってやりたいけど、ちと無理。死角になる」


 砲台から見たジャール艦隊はほぼ布陣中央に位置し、旗艦となると、さらに中央だ。


 最新型重火砲でも、新型砲弾でも届かない。いや届いても外板一枚貫けないだろう。


 およそ5000㍍、最大飛距離を越える。


 更に僚艦に囲まれた状態で死角になる?5000㍍で死角も八角も有ったものでは無いが、この男が無理と言うからには無理なのだろう。


 何せ目視では、旗艦も僚艦も点にしか見えないのだから。


「なあ、砲兵の3号、誘爆狙いも無理かねぇ」


 砲兵の3号とは、“マークⅩ”開発時に殴り合いになりかけた3号だ。


 4号は大体考えが分かるが、3号は相変わらずムッツリゲラゲラだ。


「おい、アルちっと来てくれ。重火砲なんだがな、一号拡散弾か二号拡散弾の水平砲撃で、浮いてる水兵皆殺しにしたいんだが、届くかな?仰角の補正を見てほしい」


 ダッドだ。現在は砲撃停止中で、二号拡散弾装填命令を受け待機中なのだが、“マークⅩ”登載の重火砲は、薬室分離型の後方装填式だ。


 二号拡散弾なら複数有る分離薬室(カートリッジ)に装填済みだ。空きの分離薬室ならまだ残っていた。


「駄目だ軍曹。さっき上で先生が、“浮かんでいる水兵は艦隊を誘き寄せる餌にしたい”と言っていた。全部殺したら餌にならない」


 しれっと無残な会話を交わす。まあ、戦争だし。


「ちっと位は良いだろが、ほれ、あそこの救命艇なんか砲撃したら面白いだろ?」


「いや、いや、いや、俺、軍曹、違う。俺、血、飢えて、無い。軍曹、一度、医者、かかる」


「誰の物真似だ、馬鹿王。前にも言ったが医者にかかるなら、お前も道連れだ」


「まあ、ナチュラルにイカれている方が、妙に悟った時より良いか。どっちも狂ってるからナンだけど」


 掛け合い漫才の最中に、件の救命艇から信号弾が上がった。味方への生存発信だ、救命艇には備え付けの装備である。


 要は打ち上げ花火だ。発火などはしないので、打ち上げるのは着色した砂礫だが。

 空中で砕け、着色砂塵が漂うのだ。


 ……それを、3号が指差した


「……信号弾か」アルが独り言ちる。


「おい、アル。信号弾が上がったから艦隊が救命艇目指して来る、お前も配置につけ」


 軍属の民間人なんだが、最早その線引きはない。


「……なあ、軍曹。これは戦争だよな」


 掛け合い漫才とは違う口調でアルは言う。


「ああ、掛け値なしに戦争だ。今更泣き言言うなよ」


「言うかよ、戦争だ。だから軍人が敵だろうが、敵性()()()だろうが、殺そうが、殺され様が、それは構わない。自然の摂理みたいなもんだ」


「いや、いや、いや、自然の、摂理は、無い。馬鹿王、早く、馬鹿、治す」


「真似すんな。それは置いて、まあ、軍人ってのは殺すのが仕事で、それ以外には何の役にも立たない」


「なんだよ、いきなり?何言いたい」


「だからさ、殺すのが仕事なら、せめて戦争中に限定しろと言いたい。真面目に仕事していた納税者を、ウハウハ言いながら殺す事はない」


「………話に出てた“倒立カバの聖霊”か」


「聖霊ってのはナンだけどね。まあ、恨みを晴らしてやろうと、色々考えてたんだが……」


「恨みって、お前、別に“倒立カバ”に義理は無ぇだろが。

 それに、連合の艦隊司令の、なんつったか、ジャー?ジャー、とか云う野郎にも、お前個人は恨みは無ぇだろが」


「それ言ったら、軍曹だって救命艇の水兵に恨みなんか無いだろが」


「おお!成る程!その通りだ。殺せそうだから、試しに殺しておこうって感覚だからな」


「やな軍人だな。でもまあ、そんな感じだ。それでついさっき、目処が立った」


「あん?ジャージャー殺す目処がか?」


「何だよジャージャーってよ、蝉のションベンかよ間抜け。

 軍曹、重火砲で鬼畜のジャールとやらを()()するぞ」


「……狙撃って、まあ良いか。兎に角来い」


 司令所から二人が移動している間にも、戦況は動いていた。


 ジャールにしてみれば、一個艦隊を動かすのだから、何らかのアクションは予測していた。


「リール艦隊に釣られたか、あの艦隊はハラディン艦隊だな、まあ、想定内だ。

 副官、全艦隊に通達、停泊位置を西に移動する。テュネス海軍が我が艦隊に釣られて行動を起こすなら、そのまま西進し日没に紛れて離脱する」


 あくまで威圧行動を崩さない、流石である。


「ベルソン艦隊に個別に通達。リール艦隊の援護に向かえ、必要に応じて臨機応変に動け。パルシェを回収したいだろうしな」


 ベルソン艦隊は最北側のテュネスから最も離れた位置に布陣していた。アルニン、フランクの援軍を警戒しての事だ。


 全艦隊の布陣自体を移動するので、柔軟な戦術眼を有するベルソンに、艦隊移動をしながらリールの援護を任せる事としたのだ。


 この為、一時的に()()()が艦隊不在となった。


 こうしたいくつもの偶然が重なり、本来ならとても誉められた物ではない、艦隊による奇襲が実施される状況が整ってしまった。


 兄バクスタール提督による艦隊特攻だ。


 今更だが兄の方のフルネームは、アドア.バクスタール。弟の方は、ルドア.バクスタール。


 だが本当の本当に今更なので、兄バクスタール、弟バクスタールで通す事にする。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
cont_access.php?citi_cont_id=752314772&s
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ