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突撃砲兵?キチにはキチの理屈がある!  作者: 蟹江カニオ 改め 蟹ノ江カニオ
2章
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東灯台砲台防衛戦4

「まあ、司令。後進の育成の為ですよ」

 ベルソン艦隊は副官に任せてきている。投錨せずに一所に停泊するのは、かなり骨だ。


 艦隊となると尚更で、確かに操船技量は上がる。


「まあ、一理ある。それで作戦とは?あまり大規模な奴はダメだぞ」


 海軍大将、中将という間柄だが、二人は仲が良い。戦友と言うより頭と手足の関係が近い。


「なに、簡単な仕事ですよ。陸に見える灯台を破壊してくるだけの事で」


 灯台砲台の事だ、砲兵が足りずテュニス海軍は放置してあった。テュネス海軍にしてみれはそもそも必要無い。


 四連合王国としても、灯台砲台の砲門の性能を理解していたので、脅威足り得ず放置であった。

「貴官の事だ、考えが有るのだろうが……」


 連合王国海軍の仕事はテュネスに対する圧力だ。本格的な戦闘行為に及ぶつもりもない。


 一両日中に、テュニス駐留の外交特使が現在交戦中であろう、テュニス、テレ街道に赴いて、テュネス軍司令部と和平交渉会談を行う予定であった。


 まさか砲兵大隊が地の利を生かせず、半日持たず壊走するとは思わない。


 それどころか、現在テュニスは奪還されていて、交渉の為の外交特使は、海軍本部の建物の瓦礫に埋もれて永眠中とは思わない。


 解放された砲兵は本気で頑張った。


 結果、連合王国海軍に情報をもたらす者は無く、当初の作戦通りに行動するが、致命的に後手に回る。


 戦局がここまで一気に動いたなら、撤退が最良なのだが、公海上では陸の様子は分からない。


 読みが甘いのでは無く、本来なら一師団の兵力相手ならば、新型砲装備の砲兵一個大隊では、過剰戦力での防戦である。


 数日の足止めは、可能な作戦行動だった。



「司令は来春勇退される。艦隊を引き継ぐ者に戦功を挙げさせたいので」


 ジャールの引退と共に、ジャール艦隊も引退する訳ではない。艦隊は引き継がれる。


 後任にパルシェ准将が少将に昇官し、艦隊を引き継ぐ事が内定していた。


「パルシェ准将か、……リーグ()()と水兵達は残念だった」


 リーグは二階級特進していた。本来なら秘密裏の作戦行動中の事故死なので特進は無いが、ジャールが手を回し、通常任務中の事故死と事実を改竄したのだ。


 情報漏洩を防ぐ意味も有ったが、純粋に戦友の部下の死を悼んだのだ。


 ジャールは無情な人柄ではない。何十年も内海艦隊総司令をこなせているのだ、人情家で有るが為に人望は厚い。


「了解した、確かにこの海戦では戦功を立てる事は難しい。作戦を許可する」


 親心と云うやつだ。生きる伝説とも云うべきジャール艦隊を引き継ぐとなると、確かに周囲が認める様な武勲は必要だ。


 灯台砲台は、双方の陣営から放置と理解していたので、ベルソンの言う通り簡単な仕事と思ったのだ。


「……司令と仕事をするのも、これで最後かと思うと不思議な気がしますな」


「何年になるかな、20年は越しているとは思うが、してみると老けたな中将」


「司令は変わりませんな、最も初対面の時からジジイだったのだから、当然と言えば当然ですな」


「口の減らない事だ、貴官も総司令に収まれば少しは口も改まるか。

 ……後の事は任せる、ベルソン()()()殿」


「任されました、ジャール総司令」


 互いに海軍式の敬礼を交わす。


 ………これが今生の別れとなった。





 パルト砲兵小隊は、テュニス市街地を抜けて海岸通を経て東灯台砲台に到着していた。


 当然砲台は封鎖されている。護衛として付いてきた歩兵の一団が、門の封鎖を叩き壊す。


 まあ、戦時だし。


 砲兵部隊は砲台内に突入した。“マークⅡ”を先頭に突撃したが、敵兵が潜んでいることもなかった。


「歩兵隊長殿!施設内の索敵を願いたい」

 レオンだ、なんかノリノリだ。


 人の気配は無いが、念の為だ。歩兵部隊は班単位に細分化して砲台内に散る。


「隊長!重火砲が設置できません」


 “マークⅩ”の運搬を担ってきたマリオ軍曹が報告する、彼は元々重火砲撃ちだ。野戦は得手ではない。因みに趣味は手芸だ。


 砲台据え付けの重火砲は、灯火同様高台に設置だ。砲台はまるで堤防の様に幅広く長く高い。


 その砲台が邪魔で“マークⅩ”の設置スペースが取れないし、砲撃出来ない。


「アル技官、重火砲は砲台の外での設置で構わないだろうか」


 重火砲の射程を考えれば、別に高台に設置しなくても問題ない。


 ただ、なにやら道々“倒立カバの聖霊”と交信していた、“倒立カバの聖霊”の御宣託があるかも知れない。そう思い、彼の方を見やると………


 ………何故か彼は泣いていた。


 ………本当に彼は面白い。


「アル、どうした?腹でも痛いのか?」


 リンゴばかりを食べていたからだろうか?リンゴで食中毒とは聞いた事が無いが。


「なあ、先生、世の中にはさ、生かしといちゃダメな野郎ってのは、いるんだなぁ」


「何故に俺のほうを見る!」


 ダッドが怒鳴る。いや、厳密にはダッドを見ている訳ではない、ダッドの肩辺りだ。


 それからダッドの様子がおかしい、戦場にあって普通だ。


 おかしい、本当に悟りを開いたのか?馬鹿な!


「そこのカバなんだが、商人だったらしくてさ、子どもが生まれるとかで、気張ってたらしくてさ」


「ちょ!アル内容は伏せてくれ」


 聖霊はまだしも、死霊交信はアウト案件、周囲に聞かれるのは不味い。


「いや、隊長。この際だから詳しく聞きたい。大丈夫ですよ、うちの小隊にアルを売る奴は居ないですよ」


 本当にダッドが妙だ、いや、妙だと言うのも変な話だが、普通だ。


「で、そこのカバ、交易を頑張ってた所、連合王国海軍に砲撃されて()()()()死んだそうだ」


「おい、いくらなんでもそりゃ無いだろ、商人なんだから非武装の商船だろ、無法が過ぎる」


 いや、あり得なくも無い。


「いや、曹長。海賊艦隊の件を覚えているか、あの時、アルニンやフランクの商船が拿捕されたり沈められたそうだ。状況によってはあり得る」


 一同頷いた。あの時重火砲で返り討ちにしたから、こうしていられるが、本来なら撃沈必至だった。


 軍人の我々にしてこれだ。


 完全非武装の商船ならさもありなん。


「で、その無法を通した、連合の指揮官がジャールとか言うジジイらしい、今沖にいる」


 そう言うと、アルは沖に目をやる。砲台が邪魔で見える訳がないのだが、目視している様だ。


「先生、“マークⅩ”は敷地外の薮の所に設置してくれ」


 なんか、珍しくやる気に溢れていた。

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